(旧制女学校からの歴史がある大阪府立寝屋川高校、wikipediaより)
明日3月12日は令和7年度大阪府公立高校一般選抜入試が行われます。昼過ぎに中学校から帰宅した子供は机に向かわず、リビングでゴロゴロとしています。今日は特に勉強させず、明日に向けて体調を整えさせます。
出願状況は3月7日に発表されました。半数以上の全日制高校が定員割れとなりました。その中にはいわゆる「伝統校」である寝屋川高校・八尾高校・鳳高校も含まれています。大阪府は定員内不合格制度を採用していないので、入試さえ受ければ合格となります。
こうした事態が発生した理由として「少子化」や「高校授業料無償化」が指摘されています。また、地域や学校特有の事情も否定できません。
府立学校条例では、3年連続で募集人員を満たさず、改善する見込みがない場合、再編整備の対象にするとしている。定員割れは統廃合の懸念につながり、鳳は2年連続で1倍を下回っていることから、その不安が現実的になりつつある。
府では、国の就学支援金制度に独自で上乗せして所得制限を撤廃し、私立を含めた高校授業料無償化を令和6年度から段階的に実施。学費負担の軽減に加え、府内の私立は合格発表が2月中にあり、早めに進路を決めたい要望から私立志向が強まっている。
こうしてみると、私立人気の高まりを受けた公立凋落の典型例といった構図だが、寝屋川、八尾については別の事情もある。
令和4年度に寝屋川は1・47倍、5年度に八尾が1・41倍の高倍率となり、募集人員を6年度から寝屋川が360人、八尾が320人に変更し、ともに定員を40人増やしていたところだった。こうしたことが、倍率の1倍割れにつながった側面もあるかもしれない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b231293e2d4be1266ebc90fb35bee05621ee041e
大阪府が公表しているデータ等から、可能な範囲で原因を探ります。
少子化による影響は大阪府でも生じています。公立高校と私立高校への出願状況も含めた上で、2024年度入試と2025年度入試の数字を比較します(空欄部分は未定)。
2024年度入試 | 2025年度入試 | 前年比 | ||
府内公立中学校卒業生 | 66840 | 65710 | -1130 | |
府内進学予定者数 | 59410 | 58350 | -1060 | |
府内公立中学校からの進学者 | 60113 | |||
公立 | 35520 | |||
私立 | 21247 | |||
その他府外等 | 3346 | |||
全日制課程募集数 | 34789 | 33250 | ||
全日制課程出願数 | 36379 | 34003 | -2376 | |
私立出願(府外在住を含む) | 63186 | 61990 | -1196 | |
うち私立専願(府外在住を含む) | 19994 | 21723 | 1729 | |
うち私立併願(府外在住を含む) | 43192 | 40267 | -2925 | |
私立専願率 | 31.6% | 35.0% | 3.4% |
大阪府内の公立中学校の卒業生は1,130人減少し、府内の高校等へ進学する中学生は1,060人減少する見通しです。少子化によるものです。
公立高校(全日制)への出願数は2,376人も減少しました。少子化による影響を公私比率通り(おおよそ6:4)に負担するのであれば、公立高校への出願数は1,426人の減少で留まる筈です。しかし、現実は更に約1,000人も出願数が減りました。
代わりに増えたのは私立専願での出願者です。1,729人も増加しました。少子化は何処吹く風という増加幅です。専願率は31.6%から35.0%へと急上昇しました。
公立高校への出願数が大幅に減った大きな要因に「少子化」と「私立専願の増加」があるのは間違いありません。
但し、少子化には地域差があります。大阪府が公表しているデータより、令和6年4月時点での中学3年生及び0歳人口を推計しました。
市 区 町 村 | 0歳人口推計 | 中学3年生推計 | 減少率 |
大阪府 | 59,100 | 74,601 | 79.2% |
大阪市地域 | 17,818 | 20,152 | 88.4% |
北大阪地域 | 13,849 | 17,080 | 81.1% |
三島地域 | 8,893 | 10,750 | 82.7% |
豊能地域 | 4,956 | 6,330 | 78.3% |
東大阪地域 | 12,682 | 16,682 | 76.0% |
北河内地域 | 7,363 | 9,776 | 75.3% |
中河内地域 | 5,319 | 6,905 | 77.0% |
南河内地域 | 3,576 | 4,986 | 71.7% |
泉州地域 | 11,175 | 15,702 | 71.2% |
泉北地域 | 7,756 | 10,663 | 72.7% |
泉南地域 | 3,419 | 5,038 | 67.9% |
大阪市での少子化は限定的(今後15年で12%減)ですが、旧第2学区や旧第3学区に跨がる東大阪地域は24%減、そして旧第4学区が大半を占める泉州地域は29%減と推測されています。
地域毎に差がある少子化は既に進行しています。2025年度入試でも影響が生じており、特に旧第2~第4学区(大阪市を除く)で顕著に生じており、こうした地域の高校の多くは早くも定員割れが起きています。
公私に限らず「受験生の都会志向」も感じています。同難易度の高校2校があれば、都市部にある高校に志願しがちです。遊ぶ場所も多いでしょうから、中学生の気持ちは理解できます。大阪市内の高校が吸引力を持ちます。
定員割れが騒がれた寝屋川高校・八尾高校・鳳高校に加え、第1学区(大阪府北部)にあって同程度の難易度である三島高校を見ていきます。
学区・偏差値 | 年度・人数 | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度2月調査 | 2025年度 |
寝屋川高校 | 出願 | 413 | 397 | 309 | 338 |
旧第2学区 | 募集 | 320 | 360 | 360 | 360 |
偏差値60 | 倍率 | 1.29 | 1.10 | 0.86 | 0.94 |
問題形式 | BBB | CCB | CCB | ||
八尾高校 | 出願 | 394 | 345 | 317 | 317 |
旧第3学区 | 募集 | 280 | 320 | 320 | 320 |
偏差値60 | 倍率 | 1.41 | 1.08 | 0.99 | 0.99 |
問題形式 | CCC | CCC | CCC | ||
鳳高校 | 出願 | 334 | 311 | 260 | 264 |
旧第4学区 | 募集 | 320 | 320 | 280 | 280 |
偏差値57 | 倍率 | 1.04 | 0.97 | 0.93 | 0.94 |
問題形式 | CCC | CCC | CCC | ||
三島(参考) | 出願 | 496 | 416 | 464 | 434 |
旧第1学区 | 募集 | 360 | 360 | 360 | 360 |
偏差値58 | 倍率 | 1.38 | 1.16 | 1.29 | 1.21 |
問題形式 | CBB | CCB | CCB | ||
※問題形式は国語・数学・英語の問題難易度、偏差値は五ツ木模試による。 |
この3校で定員割れが生じる可能性が高いのか、遅くとも2月調査では判明していました。調査結果は子供が通っている中学校にも掲載されていました。
まずは寝屋川高校です。同高校は2024年度入試から定員を40人増やしました。仮に増えていなければ、2025年度入試では定員割れは回避できたでしょう。
決して小さくない影響があったのは問題形式でしょう。大阪府の公立高校入試では、各校が国語・数学・英語について基礎的問題を出題するA問題、標準的問題を出題するB問題、発展的問題を出題するC問題のいずれかを採用・出題します。C問題は非常に難易度が高く、公立中学校では対応するのが難しい水準です。
同高校は2024年度入試から国語・数学をC問題に切り替え、英語はB問題のままとしました。C問題のトレーニングには数ヶ月が必要です。仮に入試前に模試等の成績が上向いても、受験校をB問題出題校からC問題出題校へ変更するのは困難です。問題形式や出題難易度が違いすぎます。
実は同高校がある旧第2学区でC問題を出題するのは、同校・大手前高校・四條畷高校(いずれも文理学科)の3校しかありません。この地域でC問題対策のトレーニングを受けている中学生が少ないのが実情だと考えられます。
事前調査に基づいて同高校が定員割れする可能性が高いとかぎ取っても、定員を超過して入試で選抜されるリスクがあります。B問題対策をしていた受験生が思いきってチャレンジするにはハードルが高すぎます。難易度別問題は、入試直前期での志望変更に大きな制約を加えます。
反対に安全策を採る為に出願校を四條畷高校や大手前高校へ下げるのにも難点があります。
令和6年度入試で寝屋川高校から京都大・大阪大・神戸大・大阪公立大に合格したのは26人でした。一方で四條畷高校は106人、大手前高校は162人です。カリキュラムも学生の学力も進路も大差があります。
ここで注目すべきなのは併願私立高校です。四條畷高校及び寝屋川高校を受験する中学生の約半分は、大阪国際高校(スーパー文理探求コース)を併願しています。上記4大学の合格者は29人です。学生数を加味すると、進学実績は寝屋川高校を上回るぐらいです。
となれば、大阪国際高校(スーパー文理探求コース)に合格した中学生は、少なくとも進学実績を魅力に感じて寝屋川高校を受験する意義はありません。「少し背伸びしてでも四條畷高校を受験し、仮に落ちても授業料無償の大阪国際高校へ進学する。」のが合理的と言えます。
「校舎建替工事が避けられたのではないか。」との声もあります。ただ、本体工事は令和9年末から開始する予定となっています。
概要は、「今年度から令和7年度に基本設計」「令和7から8年度に実施設計」「令和9年末から11年度に新校舎建設工事、完成後に供用開始」「令和12年度から13年度に旧校舎解体・グラウンド整備、完成後に供用開始」が最速の予定とのことでグラウンド側に新校舎が建設されます。
https://www.osaka-c.ed.jp/blog/neyagawa/principal22/2024/12/03-272056.html
この4月に入学する新高校1年生は高校3年生となっている頃です。志願者の減少とは直接の関係がないと考えられます。中百舌鳥へ転出して空地となる大阪公立大学高専跡地も活用しそうなタイミングで工事が始まります。
むしろ「建替直前の築80年の最古校舎で学生生活を過ごしたくない」という理由で避けられた可能性があります。
八尾高校も寝屋川高校と同じタイミングで定員を40人増やしました。増やしていなければ、定員割れは起こらなかった可能性が高いです。
深刻なのは鳳高校です。2025年度入試で定員を削減したにも関わらず、それ以上に出願者が減少しました。旧第4学区は早くも急激な少子化が進んでおり、一部の進学校を除いては大半が定員を割っています。
一方、この3校と入試難易度が同じ水準に三島高校(高槻市、旧第1学区)は志願者が定員を大きく上回っています。旧第1学区の大半を占める北摂地域は教育熱心な家庭が多く、北野・茨木・豊中・春日丘・千里・池田高校といった公立進学校の志願倍率は高止まりしています。他地域と比べ、少子化の進展も緩やかです。
旧第1学区と旧第2学区~旧第4学区との決定的な違いは、中学3年生の学力です。
多くの生徒が受験する五ツ木模試の結果詳細には旧学区毎の平均偏差値が掲載されています。旧第1学区と旧第2学区~旧第4学区には偏差値3程度の差が生じています。偏差値51を上回るのは旧第1学区のみ、他は偏差値49を下回っています。
少子化に加えて平均学力の差は、C問題出題校の受験者数を直撃します。大阪市を除く旧第2学区~旧第4学区には、C問題出題校が一定程度の選抜を行えるだけの高学力層が失われているのかもしれません。
中学校からは改めて持ち物等を確認すると共に、急な発熱等が生じた場合は早急に中学校へ電話する旨の連絡がありました。進路担当及び3年担任は朝6時には出勤し、学校待機グループと最寄駅にて激励するグループに分かれるそうです。