産経新聞が「公立希望が7割切った大阪 無償化で変わる「十五の春」 6年入試では70校で定員割れ」との記事を掲載しています。
今年度から高校授業料の完全無償化を始めた大阪府。今年11月末に行われた中学3年生を対象とした第1回の進路希望調査で公立希望者は69・81%にとどまった。第1回調査で割合が7割を切ったのは現行制度で初めてで、私学人気と公立停滞の傾向を改めて裏付ける結果となった。19日には国会で自民、公明、維新の3党が教育無償化を巡る実務者協議を開始したが、先んじて無償化を導入した大阪の「十五の春」はどう変わったのか。(中略)
6年度入試では、大阪府内の公立校のうち70校で定員割れとなったが、なかでも府教育庁の担当者の間に衝撃が走ったのが、府立富田林高の定員割れだ。明治34年に大阪府第八中学校として開校した伝統校で、地域の中核的な人気校だった。「まさかナンバースクールも…」と職員は息をのんだという。
今年はさらに私立人気が加速しているようだ。大阪府内の公立中の来春卒業見込み者は6万5306人(前年同期比1186人減)。中学3年生を対象とした1回目の進路希望調査では、全日制高の進学希望者は全体の89・66%で、このうち府内の私立専願者は26・22%、公立希望者は69・81%だった。私立専願者の比率は年々増えている。(中略)
大阪府内の中学校長会の担当者は、私学人気の理由に「試験日程」をあげる。私立入試は3月に行われる公立入試より1カ月ほど早い。担当者は「少しでも早く入試を終わらせたいと願う親子は意外に多い」と話す。
府教育庁のある担当職員は「進路の多様化」を指摘。私立の通信制進学者が増えていることも関係しているとした。
また、開成教育セミナーの担当者は「公立の魅力低下」をあげた。私立に比べ「部活動などの活気が失われている公立もある」という。(以下省略)
https://www.sankei.com/article/20241220-6C32PQIJFVKLRM3VETEZVJOTD4/
子供がお世話になっている中学校や学習塾での懇談会や各高校が開催する説明会等を通じ、高校受験へ向けた学習・入試制度・入学前後に要する費用等は概ね見えてきました。
手持ちの材料等で分かる範囲となりますが、大阪府公立高校と私立高校を簡単に比較してみました。
項目 | 公立高校(全日制) | 私立高校 |
説明会 | 年数回、淡々と進む | 年10回以上も、賑やかでアピール色が強い |
受検料 | 2,200円 | 2万~3万円程度 |
出願 | 3月5日~7日頃 | 1月下旬頃 |
入試 | 3月12日頃 | 2月10日頃 |
選考基準 | 内申+学力検査 | 中学校での実力テスト(+学力検査) |
入試問題 | 難しいC問題もある | 各校による |
合格発表 | 3月21日頃 | 2月12日頃 |
入学金 | 5,650円 | 20~30万円前後 |
授業料 | 無償 | 無償(令和8年度以降) |
学校諸経費(3年間) | 20万円程度? | 120万円程度? |
実質的な受験勉強期間 | 3月11日頃まで | 11月実力テストまで |
適正校の検討材料 | 学習塾や模試(中学校は情報不足) | 中学校(高校とパイプがある) |
施設・設備 | 老朽化が深刻な学校が多い | 新しく綺麗な学校が多い |
指定校推薦 | 少ない? | 多い? |
大学への内部進学 | ない | 附属校や系属校はある |
学校内でのコース分け | ほぼない | 多くはある |
私立高校を専願受験する理由の一つとして、受験生たる中学生が「試験日程」を指摘する気持ちは理解できます。辛い受験勉強(と言うほどに勉強していませんが)から早く解放されたいのでしょう。
入試本番は2月10日頃ですが、事前相談制度に基づく受験校や合否は11月の実力テストで概ね決定します。理論上は「11月の実力テストをもって受験勉強を終了する」という考えは有り得ます(間違いなく入学後に苦労しますが)。
反対に公立高校は長丁場です。受験校が最終的に決定するのは、私立高校の受験結果や1月に実施される模擬試験の結果が出揃う2月中旬です。合否が発表されるのは3月21日頃です。新年度まで後10日しかありません。
入試問題も難しいです。特に普通科上位校や文理学科で導入しているC問題は全国屈指の難易度を誇ります。大人でも難しいぐらいです。入試本番で半分も解けない中学生が続出すると言われています。受験校の選定も含め、通塾が不可欠です。
校舎の充実度にも大きな違いがあります。公立高校の老朽化は本当に深刻です。数校を見学しました、「本当にここで3年間を過ごすの?」と思うような学校もありました。
保護者目線としては「諸経費」を重要視します。無償化実施前までは私立高校では約60万円前後の年間授業料(3年で約180万円)を負担する必要がありました。
しかしながら授業料一部無償化、さらには完全無償化によって家計負担は大きく軽減されました。無償化前は3年間で概ね330万円程度が必要だったのに対し、完全無償化後は150万円程度で済むようになりました(学校等によって上下する)。
保護者負担額が概ね半額程度になったことから、私立高校へ進学する事への許容度は大きく増しました。中には中学受験へ踏み切る家庭もあるでしょう。高校授業料無償化によって最大の恩恵を受けるのは、実は当初から中学受験を検討していた家庭です。
大阪府に於けるここ10年程度の「改革」は私立高校への進学を後押しするものばかりでした。私立専願者が増え、定員割れする公立高校が相次ぐのは当然です。
大阪府は入試日程を前倒しにすることによって志願者を確保したい方針ですが、焼け石に水です。公立高校にもっとお金を掛け、施設設備や教育内容を充実させるのが不可欠です。