「保護者に対する調査の結果を活用した家庭の社会経済的背景(SES)と学力との関係に関する調査研究」が4年ぶりに公表されました。

全国学力・学習状況調査の結果と保護者データをクロスさせ、様々な分析を行った研究です。

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以下、「第1章 保護者調査の経年変化(川口俊明先生)」より引用します。

両親が共に非大卒の家庭が約半分、共に大卒は2割未満

インターネットやツイッター等では大卒以上の学歴を有している(と考えられる)方の発言が目立ちがちです。子育て関係の話題でも同じです。しかし、日本社会の実態は異なります。

子供が小学校や中学校へ通っている子育て世帯の内、両親が共に大学(大学院も含む)を卒業している家庭は2割を下回っています。最も多いのは共に非大卒という家庭であり、全体の半分を上回っています。両親の内、片方が大卒という家庭は約3割です。

両親の大卒率は年々上昇しています。が、それでも大卒保護者は少数派です。

性差もあります。父親が大卒である家庭は約4割ですが、母親が大卒である家庭は約2割に留まっています。男女の大学進学率に大きな差があった時代の名残です。現在は男女の差が縮小しているので、父親・母親の学歴差も縮小していくと考えられます。

大卒保護者が多いほど子供の学力も高い

両親の学歴と子供の学力(2021 年度の全国学力・学習状況調査)には強い相関関係があります。

両親が共に非大卒の家庭と大卒の家庭では、各教科の偏差値は約7ポイントの差が生じています。また、国語より数学の方が差が大きくなっています。

子育て世帯の2割弱が年収300万円未満、1/3が900万円以上

子供の学力は世帯収入とも大きな関連があります。子育て世帯間の年収差は大きな開きがあります。2割弱の家庭は年収300万円を下回っている一方、1/3の家庭は900万円を上回っています。

子育て世帯の収入は総じて増加傾向にあります。2013年度調査と2021年度調査を比べると、300万円未満・300万円~600万円が減少し、900万円以上が増加しています。

ただ、昨今の未婚率の急上昇を鑑みると、「一定の収入がなければ結婚・子育てしにくい傾向」が強まっているという側面もあります。

両親の年齢は急上昇

世帯年収の上昇には「晩婚化」も影響しています。小学生や中学生を育てている両親の年齢は、調査を追う毎に上昇しています。

特に変化が激しいのは母親です。

2013年度調査と2021年度調査を比較すると、小学生がいる39歳未満の母親の割合は約10%も減少しました。代わりに50歳以上の母親の割合が倍増しています。中学生では最も多い割合が40歳~44歳から45歳~49歳へとシフトしました。

学校の先生としては、これまでよりやや年齢層の高い保護者と対話する事となります。よりシビアな質問等が寄せられるのも無理はありません。

世帯年収が高いほど子供の学力も高い

世帯年収と学力には強い相関関係があります。

世帯年収300万円未満と900万円以上の家庭を比べると、両親非大卒と共に大卒という家庭と同程度の学力差が生じています。偏差値が7も違うと、進学する高校や大学は異なってきます。

教育支出にも差が

子育て世帯毎の教育支出には大きな差があります。

支出が全く無いという家庭が2割弱である一方、5万円を越える家庭が約6%もあります。また、無支出・5万円以上という家庭は、年を追う毎に増加しています。子育て世帯間の教育支出が二極化しています。

中央値は小学校が1万円、中学校は2万円です。小中で教育支出に大きな違いがあるのは、学習塾に通う生徒の割合や受講時間数が違うのでしょう。

教育支出にも差が

教育支出と偏差値の相関関係は強いです。特に小学生は強烈です。支出がない家庭の偏差値は約46ですが、5万円以上という家庭は約58です。12ポイントも差があります。

これほど大きな差が生じた理由は、恐らくは「中学受験」でしょう。SAPIXや四谷大塚に通う、家庭教室を付ける等をしたら、教育支出が5万円を上回るのも当然です(いわゆる重課金の世界)。

中学生は小学生ほどの差は生じていません。

学力調査は参加していない私立中学校が少なくありません。その為、小学生の調査で偏差値58を叩きだした様な層は、中学生の調査からは外れています。

それでも教育支出と偏差値は強い相関関係にあります。特に数学は無支出と5万円以上の家庭で6ポイントも差が生じています(国語は約4ポイント)。英語と数学の受講を必須としている学習塾もあります(国語は任意)。その為、国語より数学の方が強い相関となって現れてくるのでしょう(更に英語の方がより強い)。

<研究と現場の齟齬/h3>
本章は下記の通りにまとめられています。

私も概ね同意見です。

一方でこうした研究や家庭環境を学校が把握し、学校運営や授業等に活かしているかは定かではありません。就学援助の有無は把握していますが、両親の学齢や世帯年収は知らない筈です。

とは言え、学校で子供の学習指導を行うにあたり、習い事や通塾の有無や両親の学歴(大卒か非大卒か)は知っておいて欲しい情報です。

私は懇談会等で担任の先生へ習い事の中身や頻度は伝えています。保護者の学歴は伝えていませんが、子供を大学へ進学させたい意向は明白に伝えています。

本研究は「子供の学力は両親の学歴や世帯年収と強い関係がある」という、ある一面で残酷な真実を明らかにしています。

残念ながら、既に学校を卒業して子育てしている家庭において何らかの対応を行うのは難しいです。今から大学等へ通い始めるのも世帯年収を大幅に増やすのも困難です。

こうした格差を埋めるのは行政や学校の仕事です。例えば大阪市は低所得世帯向けに塾代助成事業を行っており、対象世帯の半数以上に利用されています。

格差は放置しても埋まらず、反対に広がるばかりです。より積極的な対策を期待しています。