厚生労働省新型コロナアドバイザリーボードの一部メンバー等が、「学校の式典でのマスク着用を判断する際の参考ポイント」を示しました。

卒業式マスクなし容認へ 新型コロナの専門家組織有志が見解提示

学校の卒業式などでのマスクの着用について、コロナ対策を厚労省に助言する専門家組織のメンバーらが、感染の状況が落ち着いていればマスクを外して参列することも容認できるとする見解を示しました。

専門家の会合で示された見解では、学校でマスクを着けることによって感染リスクを減らす効果が報告されているとする一方で、一生に一度の行事である卒業式や入学式などではマスクを外して参加したい気持ちも理解できるとしています。

そのうえで、地域のコロナの流行が落ち着いている状況であれば、参列者がマスクを着用しなくてもよいとすることも考慮されうる、としています。

ただし、その場合に配慮するべきポイントとして、体調に不安がある人は参列を控えることや、参列者同士の距離を空けること、着用については本人の意思を尊重することなどをあげています。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/318655

見解(資料)は第116回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで示されました。

これからの身近な感染対策を考えるにあたって(第2報)
〜学校の式典でのマスク着用を判断する際の参考ポイント〜

令和5年2月8日
齋藤智也、岡部信彦、阿南英明、小坂健、尾身茂、釜萢敏、忽那賢志、鈴木基、舘田一博、中島一敏、西浦博、前田秀雄、脇田隆字

⚫ 学校で皆がマスクを着用すること(ユニバーサルマスキング)により、感染リスクを減らす効果が報告されている。
⚫ 一方で、一生に一度の行事である卒業式や入学式等の式典では、マスクを外して参加したいという気持ちも理解できる。
⚫ 地域における流行が落ち着いた状況下では、卒業式や入学式等の式典において、参列者がマスクを着用しなくてもよいこととすることも考慮されうる。その際は、以下の事項に配慮し、式典の参列者が納得のうえで参加することが望まれる。

➢ 体調に不安がある者は参加を控えること
➢ 参列者同士の距離を空けること
➢ 会場の十分な換気を確保すること
➢ 近くで会話するような機会を慎むこと
➢ マスク着用・不着用について本人の意思を尊重すること

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001055277.pdf

上記記事では「マスクなし容認」と記載されていますが、この資料では「容認」という言葉はどこにも使われていません。

1行目でマスクの効果を強調する一方、2行目ではマスクを外したい気持ちに理解を示した上で、3行目以下では一定の事項に配慮した上で「マスクを着用しなくてもよいこととすることも考慮されうる」としています。

この資料を読む限り、無限定に「マスク無し容認」とは読み取れませんでした。医学等の専門家が必死に抵抗した跡が行間から伝わる文章です。

大きなポイントは3行目です。「着用しなくてもよいこととすることも考慮されうる」としている事から、専門家の意思は「着用するのが原則」と読み取れます。「着用しなくてもよい」に加え「考慮されうる」としており、ツークッションを置いた表現で「マスク不着用」を指摘しています。政府が検討している「不着用を推奨」とは真逆です。

卒業式や入学式でのマスク着用 推奨しないことを検討 政府
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/category5/detail/detail_10.html

「地域における流行が落ち着いた状況」は当たり前の事です。ただ、何をもって「流行が落ち着いた」と言えるかは主観に左右されます。

最近の大阪はやや落ち着いた印象ですが、代わりにインフルエンザが爆発しています。お世話になっている学校でも学級閉鎖が相次いでいます。

「体調に不安がある者は参加を控えること」は3年前から言われ続けていた事です。お世話になっている小学校で1年前に行われた卒業式では、約10%の児童が卒業式を欠席したそうです。日を改めて2回目の卒業式を行い、欠席者を含む多くの児童が参加したと聞いています。

学校毎の差が生じる可能性があるのは「参列者同士の距離を空けること」でしょう。参加者が少ない学校なら対応できる余地がありますが、多い学校では難しくなります。生徒数が多くて国立大学2次試験等を控えている高校では、マスク不着用は非現実的でしょう。

児童生徒だけならまだしも、卒業式には多くの教職員・保護者・在校生・来賓等が参加します。児童生徒同士の距離を開けようとすると、それ以外の参加者の空間が小さくなってしまいます。

たとえば「児童生徒がマスクを外して参加するので、保護者用スペースは狭くなります。各家庭1-2名まででお願いします。」とアナウンスされると、人数制限で参加できない祖父母等は残念に思うでしょう。

多くの学校では「会場の十分な換気を確保すること」は出来ている筈です。体育館の窓や扉を全開します。但し、寒さが厳しい地方の学校は難しいかもしれません。

卒業式の進行等に大きな影響を及ぼすのは「近くで会話するような機会を慎むこと」でしょう。「会話」の中にはより大きな声を出す「合唱」や「呼びかけ」も含まれます。つまり、専門家有志はノーマスクでの合唱等を容認しない旨を示しています。当たり前の話ですが、ここ1-2週間はこの「当たり前」が蔑ろにされていました。

学校としての対応に難儀する可能性があるのは「マスク着用・不着用について本人の意思を尊重すること」でしょう。個人の意思を尊重できる場面(静かに座っている時など)、マスク着用を指示する場面(合唱等)、マスク不着用を促す場面(記念撮影や卒業証書授与など?)が混在します。

どういった場面ではマスクを外して良いのか、卒業式前に周知徹底しておく必要がありそうです。

また、上記見解の対象は児童生徒に限られません。保護者等も対象となります。妊娠中・基礎疾患がある・高齢の方(祖父母等)等も参加します。こうした方々へ「体調に不安があるから参加を控えて欲しい」と呼びかけるのは容認されるのでしょうか。

今後の論議を呼び起こしそうなのは、文部科学省の通知と政治家の意見ですね。専門家の見解から余りに懸け離れた通知等が出ると、反発や混乱等が起こるでしょう。その矛先は学校に向きます。

先生はさぞ大変でしょう。通知の内容如何によっては、卒業式の参列者や座席配置等に大きな変更を迫られます。大阪市立学校は、市教委からの通知を待ってから対策を講ずる事になります。