多くの自治体では10月~12月に掛けて一斉入所申込の募集を行います。その結果が発表されるのは、多くが2月頃です。万が一入所出来なかったときの為、予め認可外保育施設への入園申込を行う方もいるでしょう(大阪ではあまり聞きませんが)。
入園申込時に多額の入園金を支払った後、認可保育所等への入所が決まってキャンセルしても、入園金が返金されないケースが相次いでいるそうです。
認可外保育所を解約、戻らぬ入園金 救済できる可能性も
2016年4月1日22時56分
希望する保育所への入園が決まり、先に予約していた認可外保育所をキャンセルしたところ、支払い済みの入園金や保育料が返金されなかったという相談が、待機児童問題を抱える都市圏の消費生活センターに寄せられている。契約問題に詳しい弁護士は「救済できる可能性が高いケースもある」と指摘する。
東京都世田谷区の自営業女性(36)は昨春、認可保育所24カ所の内定が一つもとれなかった。認可外保育所を探し、ようやく見つけた先の説明会で、「入園金9万円を支払えば先着順で席を確保できる」と言われた。他に約30組が出席しており、やむなく支払った。
支払い翌日、希望していた別の保育所から「空きが出た」と連絡が来た。認可外への入園はキャンセルしたが、9万円は返ってこなかった。返金はしないと説明を受けており、女性は「分かっていたから返せとも言えなかった。必要経費だったと思うしかない」と唇をかむ。
国民生活センターによると、都市圏の消費生活センターには、入園金や保育料が返金されないといった相談が昨年は10件以上あった。返ってこない額は10万円程度が多いという。
(以下要旨)
・入園金及び1ヶ月の保育料を支払ったが返金されない事例が相次いでいる。
・認可外保育施設は保護者と園との直接契約なので、解約時の規定も園毎に定められる。
・大学入学に関する判例(学納金返還訴訟)は、「入学金は返金不要・授業料は返金する」とされている。
・返金されないのに納得できない場合、消費生活センターやADRを利用する方法がある。
子育て中の家庭にとって10万円は大金です。保育所のみならず認可外保育施設も不足している地域では、入所保留による退職を避ける為に認可外保育施設への入園予約を行う方もいるのでしょう。
朝日新聞の記事によると、予約時に入園金及び1ヶ月分の保育料として10万円前後を支払うケースが多い様子です。入園契約に返金する旨の条項があれば、規定に則って返金されるでしょう。一方、返金しない旨を明記している施設も少なくなさそうです。施設を全く利用していないにも関わらず、10万円前後の大金が全く返ってこないのは納得できない方が多いでしょう。
一方、施設側としては「4月からの入園枠をわざわざ空けているのだから、急に予約を取り消されたら困る。定員に空きが生じてしまう。入園金等を返金しないのは経営上当然だ。」という主張が為されるでしょう。
記事で紹介されている「学納金返還訴訟」の要旨は下記の通りです。
本件は、大学に合格し入学手続きをしたが結局入学を辞退した者が、入学金および授業料の返還を大学側に求めた事案である。判決は、入学金は入学し得る地位を取得する対価であり返還を要しないが、授業料は返還を要するとした。
また、入学を辞退しても授業料を返還しないというのは損害賠償額の予定または違約金の定めの性質を有するが、この点、消費者契約法9条1号が適用され、学生が当該大学に入学することが客観的に高い蓋然(がいぜん)性をもって予測される時点よりも前の時期における在学契約の解除については、原則として大学に生ずべき平均的損害は存在せず、授業料の全額を返還すべきであると認定した。(最高裁判所平成18年11月27日判決)
3月末に急遽入園予約を取り消したのならまだしも、一斉入所の発表前後の時期に取り消したのであれば、認可保育所へ入所できなかった他の方からの入園によって定員は埋められるでしょう。大学と認可外保育施設という性質の違いはあれど、保育料は返金されて然るべきでしょう。
また、高額の入園金も問題です。入園金が「入園できる対価」だとしても、逸失利益のリスク・入園に掛かる事務量と比較してあまりに高額ではないでしょうか。
保育所等への入所が決まって入園予約を取り消す児童が少なくない事を見越し、一部の認可外保育施設では高額の入園金を設定した上で定員以上の入園予約を受け付けているそうです。保育所へ入所出来るかヤキモキしている保護者の足下を見た商売です。
ただ、実際に返金されるかどうかは問題です。交渉を行っても認可外保育施設が返金を渋った場合、どうすればよいのでしょうか。記事では消費生活センターやADR(裁判外紛争解決手続き)を紹介しています。より突っ込んだ方法として簡易裁判所での少額訴訟も考えられます。
いずれの方法であっても相当の手間や労力が必要とされます。育児・仕事をしながら、こうした手続の為に更なる労力を割くのは容易ではありません。また、事実経過を説明する為の資料作成には、一定以上の事務処理能力が必要でしょう。弁護士等の専門家に依頼しても着手金等だけで返金額を上回り、費用倒れになるだけです。
現状では泣き寝入りせざるを得ない方が大半でしょう。保育所等へ入所出来る可能性・育休延長の可否等を踏まえ、早期の入園予約が本当に必要か否かは慎重に考えて下さい。仮に入園予約を行い場合、キャンセルに伴う返金条項はしっかりと確認して下さい。
こうして考えると、認可外保育施設で必要な費用の高さには驚きです。認可保育所等との保育料等との大きな差がますます待機児童問題を深刻なものとしています。歪な構造です。