平成27年10月1日における大阪市の保育所入所待機児童数が公開されています。昨年より1週間早い公表となりました。
前年同期と比較して、待機児童・入所保留児童は共に減少しています。
平成27年10月1日現在における保育所等利用待機児童数は、本年4月1日に比べて294人増加、昨年の同時期に比べて134人増加し、511人となりました。利用保留児童数については、昨年の同時期より366人増加し、5,190人となりました。
また、保育所等在籍児童数は、昨年度の同時期と比べて1,741人増加し、48,935人となりました。
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待機児童・様々な事情で待機児童から除外された入所保留児童、どちらも昨年同時期より大幅に増加しています。入所保留児童の推移を基に、原因を推測してみます。
入所保留児童最多は住吉区
入所保留児童が最も多く、かつ前年同時期より突出して増加しているのが住吉区です。入所保留児童は前年より159人も増えて市内最多の425人となっています。分析記事で指摘したとおり、住吉区は都心部並に入所が困難な地域です。
最大の理由は「保育所不足」です。住吉区の保育所等在籍率(在籍児童/就学前児童数)は31.4%でした。北区(31.3%)・西区(31.1%)とほぼ同等の水準であり、市内平均38.6%を大幅に下回っています。区内にある施設は幼稚園に偏り、保育所が少なく感じます。
こうした状況にも関わらず、住吉区では新しい保育所が設立されていません。幼稚園を母体する認定こども園(併設型保育所を含む)は何カ所か設立されていますが、保育所と比べると小規模です。ここ住吉区と北隣の阿倍野区(在籍率29.4%)は、在籍率の低さに関わらず保育所がなかなか設立されていません。保育所の新設に積極的な他区と全く異なります。
淀川区・城東区も入所保留児童が多い
住吉区に次いで入所保留児童が多かったのは淀川区です。前年より57人減少して365人となりました。城東区も329人と多くなっています。両区で特徴的なのは「育休中」を理由とする入所保留児童が多い点です。入所保留者における理由は別添資料に記載されています。
両区は都心に隣接しており、梅田・本町といったビジネス街等へ通勤しやすい場所にあります。また、保育所へ入所するのは都心部ほど難しいわけではありません。その為か、育休を取りながら保育所の空きを待っている方が多いのかもしれません。
北区・中央区は育休僅か、殆どが特定保育所希望等
対照的なのは北区・中央区です。北区は利用保留数292人における育休中は27人、中央区は221人中12人に過ぎません。両区に住んでいる方は多くは都心部で働いていると考えられ、育休も比較的取りやすいと推測されます。
両区では特定保育所希望等が大多数を占めています。育休中を理由として保育所の空きを待たず、認可外保育施設を利用して復職した方が多いと推測されます。認可外保育施設が極めて多い・都心部に居住している方は所得が比較的高い点から、こうした選択となったのでしょう。
なお、中央区は保育所在籍率が24.0%と市内で最も低くなっています。保育所の不足感は否めません。
児童数に占める入所保留率は西区・浪速区が高い
就学前児童数に対する入所保留児童の割合が最も高いのはどの区でしょうか。案の定、西区でした。6.9%の児童が保育所の入所申込をしながら入所を待っている状態です。なお、次に高いのは浪速区の6.3%です。
西区では保育所等が圧倒的に不足しており、入所保留児童が多くなっています。在籍率は31.1%という低さです。特に転所を希望している児童が入所保留児童の約2割を占めているのが特徴的です。保育所等に入所したものの、何らかの理由で他の保育所等へ転所したい方が少なくないのでしょう。
一斉入所申込分析によると、西区は第1希望が0-5歳児保育を行っている保育所へ集中していました。例年、第1希望の保育所へ入所できる方は僅かです。その為、第2希望以下の保育所等へ入所したものの、保育年齢・時間・場所等の事情が合わず、転所を希望する方が少なくないと考えられます。
一方、浪速区は様子が異なります。在籍率は39.7%と市内平均38.6%を上回っています。浪速区はタワーマンションが続々と建設されている北部(特に大浪通以北)で保育所等が極端に不足しています。この地域が入所保留児童が大量に発生しています。
反対に南西部・東部は保育所が多く、児童数も減少しています。その為、保育所在籍率を押し上げています。「在籍率が高いのに入所保留児童の割合も多い」という矛盾じみた現象は、この様に発生しています。
なお、浪速区の就学前児童数は前年より7.2%(市内1位)も増加しています。2位は中央区の7.1%です。児童数が多くなかった都心部に子育て世帯向けのタワーマンションが大量に供給され、児童数が急増しています。保育所のみならず、小中学校の不足感・手狭感も高まるでしょう。
在籍率が低い中央区・天王寺区・阿倍野区
保育所等在籍率が30%を切っているのは、中央区(24.0%)・天王寺区(28.4%)・阿倍野区(29.4%)です。見事に上町台地に位置しています。この3区は、市内でも特に保育所へ入所しにくい区です。最大の理由は保育所等の不足にあります。
反対に、この3区は幼稚園が多くて充実しています。なお中央区は市立幼稚園が多い、天王寺区は市立と私立が半々、阿倍野区は私立幼稚園が殆どという特徴があります。
この3区では保育所整備の度合いが大きく異なります。中央区は毎年多くの保育所を整備し続けています。平成28年4月にはあい・あい保育園長堀橋園が、もう少し後にはあゆみ東保育園が開所されます。天王寺区は毎年おおよそ1カ所のペースで保育所を整備しています。1月には上本町げんき学園が、4月にはポピンズナーサリースクール天王寺が開所する予定です(運営会社の大阪支社が12月に開設)。
一方、両区と比べると阿倍野区ではあまり保育所が新設されていません。昨秋にあい保育園昭和町が開所されたのみです。中央区・天王寺区とは対照的です。
在籍率5割超は大正区・生野区・平野区・西成区
全児童の半数以上が保育所等に在籍しているのは、大正区・生野区・平野区・西成区です。以前に多くの保育所が作られて在籍率が他区より高めだったのに加え、児童数の急減によって多くの保育所で募集数に余裕がある状況となってきています。特に西成区は就学前児童数が前年より6.7%も減少しています。
支援施設マップで見ると、殆どの保育所が入所しやすい緑色で表示されています。狭い範囲に数多くの保育所が集中している地域もあり、保育所の過剰感は否めないでしょう。今後も市立保育所を中心に統廃合が行われるのではないでしょうか。
入所保留児童が増えた原因は?
入所保留児童数が50人以上も増えている区は、住吉区・北区・西区・天王寺区・城東区・浪速区です。これらの区は、平成28年度一斉入所申込でも申込数が増えています。ただ、申込数が増えているにも関わらず入所保留数が減少している区もあります(中央区など)。その為、決定的な原因は見いだせません。
ただ、就学前児童数の増加率・保育所等在籍率・保留率との相関関係があるのは間違いありません。保育所へ入所しやすい区は、こうした数字から読み取れるでしょう。