大阪府教育庁が短期留学の補助制度を検討しています。
大阪府教育庁が、全府立高校で提携する海外姉妹校に短期留学させる方針を固めたことが10日、分かった。令和7年度から3年かけて全148校で姉妹校提携を進め、1校あたり20人が10日間ほど留学し、府教育庁が1人あたり10万円の補助を出す。現地でコミュニケーションを図り、高校生の英会話能力向上を目指す。
府教育庁によると、7年度はすでに海外姉妹校がある49校で短期留学を始め、残りの高校では時差が少ない地域などで姉妹校提携やオンラインでの交流を進める。2億6千万円の予算化を目指している。全校で姉妹校提携が完了する9年度には約5億円の事業費を見込み、10年度からは全校で短期留学を実施する。
円安傾向で渡航費が高騰しており、学校単位や生徒個人で海外留学を計画しても実現が難しくなっていた。制度の導入で短期間でも海外での学びを後押しする。
昨年12月の府総合教育会議で、吉村洋文知事が1校1姉妹校を導入し、英語教育を向上させることに言及。これを受け、府教育庁で具体案を検討していた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8f69e1c47d783ce524d2f972db7c95f6bf9237cc
対象は府立の全145校(25年度)。既に49校が海外の高校と姉妹校提携しているが、近年は旅費の高騰や物価高で海外留学の予算が確保できないケースもあるという。新制度は生徒の保護者に渡航費などの名目で10万円を補助し、残りは自己負担とする。姉妹校は英語で交流できることが条件で、米国や豪州、韓国、台湾などを想定している。
提携先を確保できた高校から順次、留学を開始。25年度は既に姉妹校がある49校で先行実施し、提携先を探す民間業者への委託費を含めて約2・6億円の予算化を目指す。全府立高で制度を導入する28年度以降は年約5億円の予算規模となる見込み。
大阪府では、高校授業料の無償化で私学人気が高まり、府立高の魅力向上が課題に。府教委は23年度から全校に英語が母国語の講師を配置しているほか、独自の教育アプリを開発するなど、英語教育に力を入れてきた。担当者は「さまざまな国の人と触れ合える万博を好機に、海外で活躍できる人材を育てたい」と話している。
https://news.yahoo.co.jp/articles/85e2a5be7c0bc8a3e7061f880fa64ff6d520041f
ネットでは賛否両論の声が行き交っています。また、未だ大阪府教育委員会会議では議論されていません(議事録や配付資料が見つからない)。
上記記事にもある通り、現時点で既に多くの府立高校で短期留学を実施しています。オーストラリアで実施している高校を幾つかご紹介します。
7月19日(水)、オーストラリア語学研修に参加する高校生のための事前研修が本学で開催されました。堺東高校と東百舌鳥高校から19名が参加しました。
第一部はオチャンテ先生によるオリエンテーション(オーストラリア、異文化、ホームステイ、自己紹介について)、第二部はデッカー先生による英会話レッスンが行われました。オーストラリア語学研修が素晴らしい経験となり、たくさんの思い出ができることを願っています。
https://www.andrew-edu.ac.jp/news/2023/kpg9ht000000809l.html
オーストラリア海外派遣事業(本校同窓会)
1996年の創立100周年を記念して、翌1997年より同窓会の援助により本校姉妹校であるオーストラリアのホランドパーク高校(Holland Park State High School)に毎年5名(第20回~22回は6名)の生徒を派遣しています。生徒たちは現地ではホストファミリーのもとで2週間のスクールライフを満喫しています。
令和2年度,令和3年度はコロナ禍で中止になりました。
また、ホランドパーク高校の生徒も数年に1度本校に来校し、ホームステイをしながら交流を深めています。
https://tennoji-hs.jp/school-event/international-exchange(天王寺高校)
聞く限りでは全額自己負担という学校もあれば、同窓会や公費から一部補助を行っている学校もあり、さらにはトビタテ!留学JAPANといった支援制度もあります。
そもそも1週間から10日程度の短期留学にはどれだけの費用が必要となるのでしょうか。府立高校のウェブサイトを調べてみたのですが、ここ最近での費用明細等を公開しているページは見つけられませんでした。
円安や物価高等で留学費用が跳ね上がっている2024年度にオーストラリア短期留学を実施した高校がありました。愛知県立豊田北高等学校です。
オーストラリア10日間の語学研修費用は459,000円(他に諸手数料や食費等が必要)でした。
10日間で50万円弱は高く感じます。先々の教育費を考えると、支出を悩む家庭は少なくないでしょう。我が家も二の足を踏みます。
そうした家庭の背中を後押しするという観点では、1人10万円の補助は妥当な金額なのでしょう。
短期留学で語学力アップ? 学校毎の偏りは不可避
問題もあります。私自身は語学留学等の経験がないのですが、果たして10日程度の短期留学でどの程度の語学力が身につくのでしょうか。高校毎に200万円の予算
20人x10万円補助)があれば、非常勤の英語教員1人を追加的に雇用できます。特定の生徒ではなく、全生徒の英語力を向上させるにはより適しています。
学校毎の偏りも懸念されます。府内には様々な高校があり、それぞれに特色が有ります。国際科やグローバル科は留学希望者が多いでしょうが、工業高校やエンパワメントスクールからの希望者は多くないと考えられます。文理学科設置校からの希望者はハイレベルとなるでしょう。
また、卒業後に英語を必要とする業務に従事する可能性が高い高校もあれば、殆どの卒業生が英語を必要としない高校もあります。
全ての高校に平等に割り振るのではなく、それぞれの特色に応じて留学補助枠を配分するのが妥当でしょう。特に国際科等は全員補助してもよいぐらいです。
姉妹校設定には課題もあります。大阪から短期留学生を送り出すとなると、反対側の受入も必要です。外国人留学生を受け入れられるだけの能力等が全ての高校にあるのでしょうか。そうとは考えられません。
学力上位層は理系多数
そもそも「留学」に特化した予算配分は必要なのでしょうか。ここ数年、大学レベルでは「理工系の強化」を打ち出しています。理系学部の拡充や理系学生を対象とした授業料支援制度がその一つです。「留学」への予算増は、国レベルの政策と矛盾しかねません。
大阪では学力水準が高い学生ほど「理系」に進んでいます。文理学科では約63%の学生が理系、中でも北野高校は75%が理系です。
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/35613/r06_zaiseki_2.pdf
高校入試での英検優遇制度や国際科の設置等、大阪府立高校は英語や国際交流等を重視しすぎているのではないかと感じています。大阪や関西の製造業を支える理数系を希望する学生への支援や配慮が希薄です。
更に、この留学補助制度を「高校授業料の無償化で私学人気が高まり、府立高の魅力向上が課題に」という文脈で取り上げているのが不合理です。留学補助制度によって府立高校の魅力が高まり、受験者が増大すると本気で考えているのでしょうか?
恐らくは高校で本当に留学したい学生の多くは、留学が必須となっている私立高校国際コース等へ進学しているものと考えられます。既存の府立高校では太刀打ちできません。
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府立高校の魅力向上を図るには、これから府立高校へ進学する中学生やその保護者の声を聞くのが一番です。しかし、そうした動きは全くありません。留学補助や日程前倒し等は府庁や府教委の内部の議論のみで決まっている様に見えます。まさしく当事者不在です。
確かに留学補助制度はあった方が歓迎されます。しかし、それで府立高校の魅力が向上するとは思えません。
多くの中学生や保護者が府立高校の難点として指摘しているのは「校舎の老朽化」です。
留学補助と校舎の老朽化対策、必要な予算規模は全く違うとは言え、どちらが重要だと思いますか?
話は変わりますが、東京都の長期留学補助制度は怖いぐらいに手厚いです。景気が良い話が羨ましい限りです。
東京都が検討している海外留学費用の助成は、短期留学では、渡航費や授業料として最大90万円。中・長期留学では、現地活動費として月に最大15万円を支援し、1年間留学した場合、渡航費、授業料、現地活動費などあわせて最大で315万円を助成するとしています。
保護者などの生計を立てている人が都内在住であることなどを条件とする一方で、所得制限は設けないということです。また、語学留学は対象外としています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/51440efef2bd5147dfac4ccba563bebde16d83dc
語学力の向上や様々な知見を深めるには、この程度の留学は必要でしょう。大阪府の考えの浅さが透けて見えます。ただ、東京都の制度は、幼少期から外国語に親しんでいる高所得層や帰国子女等ばかりが採用されてしまいそうです。