2024年度第2回となる英検が行われています。既に準会場A~C日程が終了し、残るは準会場D~F日程と本会場での受験となります。

我が家の子供も受験する予定なのですが、学習が一向に進んでいません。本人は勉強しているつもりですが、傍からは「これでは絶対に受からない」と断言できます。

当ウェブサイトで何度も紹介している通り、大阪府立高校入試では英検等の英語民間資格を保有していると優遇されます。

大阪府立高校入試は英検2級以上を大優遇、英語の前倒し学習も念頭に

令和6年度入試では4,261人が英検等を活用し、3,622人(85%)が最低保障点(英検2級で80%)で救済されました。難関のC問題を解くよりも、英検での80%保障点の方が取りやすいという逆転現象が生じています。

4,261人が英検等を活用→3,622人(85%)が最低保障で救済、令和6年度大阪府立高校入試

同年度の入試では年明けに行われる第3回英検の結果が間に合ったのですが、令和7年度入試では間に合いません。通常型の英検としては、2024年第2回がラストチャンスとなります(他にS-CBTがある)。

令和6年度は大半の英検2級利用者が最低保障に不到達か 令和7年度は第3回英検の結果が間に合わない 大阪府立高校入試

こうした英語民間試験を活用(優遇)する制度は、どういった経緯で導入されたのでしょうか。大阪府教育委員会会議での発言や資料等を基に、まずは年表形式で表します。

年月日できごと(敬称は省略)
2007年4月1日9学区から4学区へ再編された。
2008年2月6日橋下徹が大阪府知事に就任した。
2010年4月民間人校長として、国際経験が豊かな中原徹(橋下知事の友人)が大阪府立和泉高等学校の校長に就任した。
2011年2月~3月私立高等学校の授業料無償化の拡大や公私の受入れ比率の廃止により、選抜環境が大きく変化した。
2011年4月中原徹が校長を務める和泉高校にて、TOEFL 指導に特化した科目「英語超人」を設定
2011年4月北野高校・高津高校・豊中高校・天王寺高校・茨木高校・生野高校・大手前高校・三国丘高校・四條畷高校・岸和田高校を「グローバルリーダーズハイスクール(GLHS)」とし、府内全域を学区とする「文理学科」(普通科も併置)を設置した。
2011年9月21日大阪維新の会が学区を府内全域へと変更する教育基本条例案を府議会へ提出した。
2011年11月松井一郎が大阪府知事に就任した。
2011年12月橋下徹が大阪市長に就任した。
2012年2月大阪府知事が平成26年4月から学区を府内全域とする大阪府立学校条例案を府議会へ提出した。
2012年3月府議会にて教育基本条例案・大阪府立学校条例案が可決された(4月より施行)
2013年2~3月前期入学者選抜の募集人員の拡大、及び選抜日程を繰り上げた入試を実施した。
2013年3月「第1次大阪府教育振興基本計画」を策定した。
2013年4月1日中原徹が大阪府教育委員会教育長に就任した。
臨時教育委員会にて、中原教育長が主張する「英語教育改革(高校(英語)入試改革を含む)について外部人事を含めたメンバーによるプロジェクトチーム」を立ち上げると決定した
出席者から「フォニックスの導入には賛成。」「カリキュラム外で進めていくのが良い」「フォニックスの後に児童英検がよい」「府だけで動くのは地域的な問題点等によりいろいろなトラブルが起こる危険性がある」「小学校からとなると、英語の能力差がかなり出てしまう」「国全体の方向性と異なる方向へ踏み出すことを確認しておく必要がある」等の指摘があった。
2013年4月19日学区撤廃につき、教育委員長が「学区撤廃で入試情報が重要となり、大規模な塾や予備校が伸びていく。今の受験は情報戦であり、学力戦ではない。」と危惧した。(※現に危惧した現象が発生している)。
2013年5月17日教育委員会にて外部登用2人(元高校教諭・ALT)、他部局と兼務するプロパー5人で構成された英語教育改革プロジェクトチームが報告された。
2013年5月20日英語教育改革プロジェクトチームが発足した。
2013年9月20日英語教育改革として、大阪府立高等学校入学者選抜における英語資格(外部検定)の活用及びSuper English Teacher(SET)を活用したTOEFLiBT英語教育の推進について決定した
出席者から「現行の入試制度を維持しながら、英語力に自信のある子ども達の更なる努力を認め、チャンスを増やす非常に画期的な制度」「各家庭の教育費の分担の中でできる範囲」「英語を極めて飛躍していくには、国語力が重要」「過剰な学力数値主義へ加速度がつくのではという不安」「夏休みにグローバルリーダーズハイスクールの生徒20人とハーバードやMITに行ってきたが、生徒たちの感想は一様に英語ができないということであった」等の発言があった。
2013年9月24日中原徹ブログに「あくまでも基本は学力検査(既存の入試問題)であり、この新制度は、外部テストの活用を希望する受験生にのみ適用されます。」との投稿があった。
2013年11月5日2017年度入試より英語資格を入試に利用する旨を保護者へ通知した
2014年4月学区が撤廃された。
2014年5月16日2017年度前期及び後期入学者選抜の英語の学力検査問題の改善(難化)の方向性について、意見聴取を行った。英語資格活用に加え、発展を中心とした問題(当時の制度では「標準と発展を中心とした問題」及び「B選択問題」につき、「リード文も英文とする」「語数を多くする」「リスニングを別問題とする、配点を増やす」等が報告された。
2014年8月22日「大阪府立高等学校入学者選抜制度改善方針(案)の周知」を決定した。発展的問題(いわゆるC問題)に関する記載は無い。
2014年9月19日教育委員会会議にて、「大阪の学力向上に向けた重点対策について」が取り上げられた。「学校の中における緩み」「全力を尽くすというような声は聞かれなかった」等の発言があった。
2014年9月26日「大阪府立高等学校の英語学力検査問題改革について」を公表した。ここで初めて「発展的問題」という言葉が登場した。
2014年10月立川さおり教育委員が2013年10月の府教委会議にて中原教育長から高圧的な発言をされたと指摘した。
2014年11月21日「大阪府公立高等学校入学者選抜制度改善方針」を決定したが、委員の意見や質問が掲載されていない。
2014年11月大阪府教委が2016年度入試により実施する「公立高等学校入学者選抜制度改善方針」を公表した。
主な変更内容は評定の絶対評価化・入試日程の一本化(前後期制の廃止)・入試は原則5教科・難易度別問題(ABC問題)の導入・自己申告書のボーダーゾーン判定材料化など。
8月当初案とは異なり、「国語、数学、英語の学力検査問題について、一般選抜においては、基礎的問題、標準的問題、発展的問題の3種類、特別選抜においては、基礎的問題と標準的問題の2種類を、それぞれ作成する。各高等学校は、使用する問題を選択して教育委員会に申請し、教育委員会はこの申請を踏まえて決定する。理科、社会については、各選抜において 1 種類ずつとする。」との文章が付け加えられている。
2014年12月19日中原徹教育長のパワハラ行為に関する第一次調査報告書が提出された
2015年2月20日2016年4月より北野高校・天王寺高校の全クラスを文理学科とすると決定した。
2015年2月20日第三者委が中原教育長が立川氏や職員4人に異動を仄めかすなど強圧的な発言をしたとする報告書をまとめた。
2015年3月11日パワハラ発言等の引責により、中原徹教育長が辞任した。
2015年3月27日隂山英男教育委員長が辞任した
2016年2月2017年度選抜にて「学力検査「英語」において、外部機関が認証した英語力判定テスト(TOEFL iBT、IELTS及び実用英語技能検定を対象とする。)のスコア等を活用する。なお、活用にあたり必要な事項は、府教育委員会が別に定める。」と教育委員会にて決定した。
2016年2月「受検料が高い、非常にハードルが高い」「特急券みたいなものなので、これぐらいのハードルの高さはいいと思う。」「経済的な負担と何とか軽減していくための方策」「入試問題の作成が非常に難しい」等の指摘があった。
2016年2~3月2014年11月に決定された、「公立高等学校入学者選抜制度改善方針」に則った入試が実施された。初めて「発展的問題」が出題された。
2016年4月北野高校・天王寺高校が普通科募集停止、文理学科1学科のみに改編された。
2016年6月大阪府議会にて森議員(大阪維新の会)が英語教育改革の取り組みについて質問し、教育長が4技能の重要性・英語民間試験の活用・発展的問題の導入等を答弁した。
2017年3月英語資格を利用した入試が実施された
2017年7月2918年度よりGLHS10校は文理学科のみとすると決定した。
2018年3月教育委員会にて委員より「大学の入試における外部機関が認証した英語力判定テストの活用の方針が明らかになってきた」「今一度チェックをして、こういう基準にした方がいいのではないかということを、今一度やっていただきたい。」との指摘があった。高等学校課長より「取得した外部検定と、その生徒が選抜で実際に取った得点の状況の相関については妥当なものであり、今はこの基準で実施しているが、今後も適宜見直しを行っていきたい。」との答弁があった。
2018年4月北野・天王寺以外のGLHS8校が普通科募集停止、文理学科1学科のみに改編された。
2019年11月萩生田文科相(当時)が翌年度から実施する共通テストにおける英語民間検定の導入見送りを表明
2021年3月教育委員会にて委員が「英語資格の基準見直し」について質問した。高等学校課長は「大きな問題はない」「現在の基準が適切な否かは今後も検討分析していく」等と答弁した。
2024年8月府立高校改革及び入学者選抜制度等に関して、学校教育審議会より答申が行われた。出題難易度や英語資格に関する記載はない。

キーパーソンは中原徹教育長(当時)です。橋下徹大阪府知事(当時)の友人でもありました。民間人校長として和泉高校の校長に就任し、2年後の2013年4月には大阪府教育長に就任しました。

就任直後に打ち出したのは「英語教育改革」でした。議論が急激に進み、僅か半年後の2013年9月には英語資格の活用が決定しました。十分な議論が行われたのでしょうか。

その翌年たる2014年には入学試験問題の改革にも着手しました。英語学力検査問題の改善(難化)という観点から語数の増加やリスニングの重視を打ち出しました。ただ、これらが議論されて案が示された2014年5月~8月には、発展的問題(C問題)に関する記述はありません。

2014年9月26日に示された「大阪府立高等学校の英語学力検査問題改革について」にて、初めて「発展的問題」という言葉が出現しました。そして同年11月には入試制度の大幅な変更が盛り込まれた「公立高等学校入学者選抜制度改善方針」が示されました。基礎的問題・標準的問題・発展的問題の3種類も含まれています。これが2016年度入試から導入されました。

英語資格や発展的問題の導入は、中原徹氏が教育長に就任してから僅か1年半の間で決定されました。教育に関する議論や制度設計等は慎重に進められるのが専らなのにも関わらず従来では考えられない程のスピードで進みました。学区の撤廃も同時に進み、当時の教育現場は相当に戸惑ったと思います。

しかしながら、中原教育長による更なる改革は急激に止まりました。パワハラ発言等を指摘され、翌年の2015年3月に辞任しました。が、同教育長が主導した英語資格や入試改革はそのまま導入されました。

導入過程や導入後には懸念する意見もありました。特に家庭の経済的負担は読み替え基準の妥当性については何度も指摘がありました。しかし、2013年~2014年に掛けて決定された事項は今もそのままです。2024年8月の答申案でも触れられていません。

日々の子供の学習や学校での授業・テスト等を通じて、「中学校入学後からの英語学習では、中学3年生までに英検2級を取得するのは極めて困難」と強く感じさせられました。

決して勉強が苦手な子供ではないのですが、中学校入学後からの学習では到底時間が足りません。日々の学習や部活動で多くの時間が費やされてしまいます。更に英検2級へ向けた学習を行うには本人のやる気と時間が不可欠ですが、それらが不足していました。

中学校入学後から英語を学習して英検2級を取得できるのは、相当の学力があり、日々の学習をコツコツ積み上げられる(特に地道な単語暗記やリスニング)生徒に限られるでしょう。

令和6年度入試で英語資格を活用した生徒は4,261人でした。同年度の大阪府内公立中学校の卒業予定者は66,840人でした。英語資格を活用できた生徒は6.4%のみでした。

ただ、これが文理学科等に代表される難関校の事実上の受験資格ともなっているのが実情です。学校の先生も塾の先生も「英検2級がなければ文理学科に合格するのは難しい」「英検無しでの受験は再検討して欲しい」「ここ数年の合格者の殆どは英検2級以上に合格していた」と話しています。

英語資格活用による入試改革は、事実上の「難関校の0次入試」として機能するに至っています。小学校からの早期学習、そして複数回受験による「課金」が絶対的に物を言う世界です。