大阪府立高校入試が前倒しされる見通しです。早ければ、現中学1年生が受験する令和9年度入試より実施されます。

今年は約半数で定員割れ『大阪府の公立高校』 入試日程を3月上旬→2月下旬に前倒しの方針 私立高校の入試時期と近づける
https://news.yahoo.co.jp/articles/98bac3f6dd888f721f6c915412b71eaac3961208

これは「府立高校改革の具体的な方向性とそれを踏まえた入学者選抜制度改革について」(大阪府学校教育審議会)によるものです。

報道では入試日程ばかりが報じられていますが、制度改革には他の内容も含まれています。主要な部分をご紹介します。

高校の特色や魅力に適う選抜

募集定員の一定割合において、具体的に求める生徒像に極めて合致する生徒を優先的に合格とするなど、各高校の特色や魅力を発揮できる選抜制度を検討すべき

各学校が求める生徒がより優先的に合格しやすくなる為に、「アドミッションポリシーによる選抜」を強化するものです。

現行制度では学力試験において一定順位(募集定員の90%~110%のボーダーゾーン)に入らなければ、アドミッションポリシーによる選抜対象とはなりません。

そこで学力検査による一般選抜とは別個の「アドミッションポリシー選抜枠」(AP選抜枠)を設け、各学校の裁量による入試を行うとする方針です。一言で言えば「推薦枠の導入」です。

現行制度では入学希望者全員が「自己申告書」を提出していますが、今後はAP選抜枠での選考を求める生徒のみが提出する事となります。

ただ、AP選抜枠と一般選抜の関係は不明です。併願できるのであれば、多くの受験生がAP選抜枠と一般選抜との併願を希望するでしょう。一方で併願できなければ、合否が読めないAP選抜枠のみでの受験は不確実性が高すぎます。

AP選抜枠の試験日程も不明です。一般選抜より前に実施して合否判定するのであれば、試験全体の日程が非常に窮屈となります。2学期末の評定をもって内申が決定する可能性もあります。学力検査の結果も加味するのであれば、AP選抜枠の面接は学力検査の直前もしくは直後に実施せざるを得ません。

高校生活充実のための選抜日程

誰もが安心して高校生活をスタートできる選抜制度を検討すべき

審議会では「3月末の合否決定から入学式までの期間が短すぎる」「中学校との引き継ぎに時間が取れない」「中学校の卒業式でも進路が決まっていないのはおかしい」等の意見がありました。指摘は真っ当です。

一方で中学3年生の3学期(特に2月)は極めて窮屈になります。私立入試と公立入試の準備がほぼ同時期に進む事になるので、学校も受験生も保護者は今以上に慌ただしい2月となります。

また、答申では「公立高校志願者の確保」「受験生が私立高校へ流れる動きを食い止める」等の表現はありません。しかし、入試日程の変更が検討され始めたのは、令和6年度入試の結果が確定した3月下旬でした。定員割れした公立高校が急増し、危機感を有したという時系列は否定できません。

答申では「一般選抜の日程を数週間程度早めることが望ましい」と記載されていますが、具体的な日程は記載されていません。一般選抜の日程を変更すると、中学校の授業や進路指導、私立高校の試験日程、公立高校の受け入れ準備等、関係各方面に非常に大きな影響が発生します。大学入試のスケジュールにも制限されます。

一般選抜の日程を前倒しする事により、私立から公立へと引き戻すことはできるのでしょうか。少し考えてみたのですが、答えは「難しい」となりました。

勉強嫌いで早く入試から解放されたい中学生は別として、それなりに高校入試を考えている中学生は見学会や説明会等によって複数の公立・私立高校の情報を集めます。私立高校に魅力を感じた中学生であれば、たとえ公立高校の一般選抜日程が前倒しになっても私立専願のままで受験するでしょう。

公立高校に魅力があれば、試験日程が遅くても多くの希望者が集まります。毎年多くの志願者が集まるGLHSが典型例です。

複数の受験機会の確保

複数の受験機会を確保できる選抜制度を検討すべき

審議会では「定員割れした高校を第2希望とした場合に合否判定を行う」旨の発言がありました。愛知県の複合選抜制度の様に第1希望及び第2希望の双方で合否判定が行われるのではなさそうです。

複合選抜制度は公立高校全体での定員割れや不合格者を減らせるというメリットがありますが、「大量の第1希望不合格者・第2希望合格者を生み出す」という大きなデメリットもあります。

定員割れした高校のみで第2希望による選抜を行うとなると、願書提出時にどの高校が定員割れするかと予想するのは困難です。また、自分の希望や学力と乖離した高校を第2希望と記入して合格した場合、不本意入学を促進するだけです。

「生徒一人ひとりの安定した受験機会」を確保したいのであれば、願書提出後の志願変更を行えると歓迎されるでしょう。高倍率となった高校を回避でき、定員割れした高校へ志願変更する事もできます。実質的に合格できる機会が拡大します。

「公立高校の魅力向上」には資金投入を

答申ではその他に「学校のブランディングを推進する」「普通科改革を進める」などが折り込まれています。しかし、生徒や保護者が公私の違いを最も強く認識するのは「校舎や設備」です。全てとは言いませんが、公立高校の老朽化は本当に酷いです。

老朽化が深刻な大阪府立高校、築70年以上で改築予定

これに関連し、第54回大阪府学校教育審議会で大阪私立中学校高等学校連合会の草島葉子氏から「大阪府立高校の生徒1人あたりの教育単価は約111万円、全国45位」という指摘がありました。


https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/88019/54shiryo.pdf

私立高校関係者から「公立高校に魅力を与えるためには、1 人当たりの投資が大切」「トイレが綺麗でないということは、教育にお金がかかってない証拠」と言われてしまうとは、大阪府や公立高校関係者は恥ずかしくないのでしょうか。

ここ1年ほどの大阪府学校教育審議会の中継映像や資料等は概ね目を通しました。その中で最も説得的かつ論理明快だったのは、草島氏の発言や提出資料でした(発言内容は第54回大阪府学校教育審議会概要に、資料は同提出資料に掲載されています。)

公立高校の魅力向上は小手先の制度変更等で可能なほど甘くはないでしょう。私立高校無償化を実施する資金は公立高校への投資に用いられるべきでした。