本日6月20日に開催された第52回大阪府学校教育審議会にて、現在の中学2年生が受験する令和8年度入試からの実施を検討している高校入試制度改革について議論が行われました。

検討されているポイントは3点です。「入試日程の前倒し」「特色入試の導入」「複数校受験」です。

私学無償化で公立人気低迷の大阪、府立高一般入試の前倒し素案を公表 私学側は反発
https://news.yahoo.co.jp/articles/15dae93c568fb6f920cdf8ef3ba042b2ab295d13

検討点の狙いを一言で表すと「私学潰し」です。

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(7/12追記)
7月11日に行われた第53回大阪府学校教育審議会にて、「本議論は一部報道機関が報じた様な、私学への流出防止を図るのが主たる目的ではない」との発言が何度も繰り返されました。

確かに日本語教育や自立支援が必要な生徒に関する選抜制度は私立高校(全日制)と直接競合するものではないでしょう(むしろ通信制と重なりやすい?)。

しかし、私立高校の専願者が急増した直後というタイミング、そして次回以降の審議会にて議論される選抜日程や方法の改革は、公立高校の受験者増を図る目的が色濃く出ていると受け止めざるを得ません。

私立高校が受験生を獲得しようとする熱量は凄まじいです。子供がお世話になっている中学校からは毎日の様に数多くの私立高校の案内冊子やプリントが配布されていますが、公立高校はたまにモノクロの印刷物が配布される程度です。恐らくは広報に投じられる人材や費用が圧倒的に違うのでしょう。

公立高校の魅力を向上するには、一にも二にも「予算」です。入試改革やカリキュラムの変更も重要ですが、竹槍やクワで戦わせる様なものです。

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審議会で配付された資料は既に掲載されています。

Download (PDF, 1.75MB)

入試日程の2月下旬(21日や22日?)への前倒し

https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/85382/52shiryo.pdf

現行は特別選抜(2月中旬)と一般選抜(3月中旬)に分かれている日程を、2月下旬に一本化する案が検討されています。

現行制度の一般選抜日程は年度末も差し迫った3月に実施されています。令和7年度入試は3月12日、その直後に卒業式が行われます。公立高校を受験する中学生は最後の最後まで慌ただしい日を過ごし、卒業式当日でも進学先が決定していません。

中学3年生の2月中旬以降は授業が成立しにくいとも聞きます。私立高校への進学を希望する専願者は概ね2月14日頃に進学先が決定し、それ以降はほぼ勉強しないとも聞きました。

私立専願とする主たる理由として「進学先が早期に決定する」「中学校での実力テストでほぼ決まる」と指摘されています。公立日程の前倒しにより、進学先の早期決定という私学専願のメリットを薄めます。

ただ、2月25日~27日は国公立大学の一般入試が行われます。2月23日は天皇誕生日です。3月1日が卒業式です。となれば2月21日や22日が有力となります。祝日たる天皇誕生日と入試日を重ねる日程を府教委が選択するとは考えにくいです。

高校入試当日や前日は高校は閉鎖されるのが一般的です。国公立大学の入試直前の高校生はピリピリしています。学校の教室で自習したり、分からない問題を先生に訊きに行ったりもします。この期間に高校を閉鎖するのは非現実的です。

前期入試が終わった途端に卒業式がやってきます。高校3年間の集大成とも言える時期が高校入試と重なると、高校の運営は難しいでしょう。

学校審議会が意図する2月下旬に一般入試は難しいと感じました。現実的なのは高校卒業式後の3月初頭ではないでしょうか。もしくは現特別選抜の日程たる2月中旬か。

特色入試の導入


募集人員の一定割合を「特色枠」とするものです。

現行制度では受験者に自己申告書(1300~1400字程度)の提出を求めていますが、受験生や中学校にとって自己申告書の作成が重い負担となっています。

これはボーダーゾーンでの合否判定に用いられる事がありますが限定的です。高校によって若干の違いはありますが、概ね数人程度です。あまり機能していないのが実情でしょう。

検討案では特色枠志願者のみに自己申告書を求め、これと各校のアドミッションポリシーを照らし合わせる等をして合否判定を行うとされています。

ただ、検討案からは特色枠も一般枠も同一日程で試験を行う様に見えます。特色枠への志願者が特色枠不合格でも、一般枠での合否判定も行うと読み取れます。

受験生や中学校からの視点では、「できる限り特色枠と一般枠での2回判定を行って欲しい」と考えるでしょう。特色枠での合格枠が多ければ多いほど、そうした動きが顕著となります。反対に若干数であれば、受験生も中学校も特色枠への出願は慎重になります。

模試等で合否の見通しが立つ一般枠とは異なり、特色枠での合否は結果が出るまで分かりません。特色枠での出願を検討したとしても、一般枠へ向けた勉強の手は抜けません。

メリハリを強めた入試は私立ともバッティングしかねません。違いは「一般入試へ向けた受験勉強の負荷」でしょう。

複数校受験

他の2つと比べ、複数校受験制度はまだ詳細が見えません。

このポンチ図を見る限りでは、第1希望で定員を満たさなかった高校についてのみ第2希望での判定が行われる様に読めます。

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(6/27追記)
録画中継を改めて見直しました。やはり「第1希望で定員を満たさなかった高校」につき、第2希望の審査を行う案でした。愛知県の様な複合選抜には言及していません。

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令和6年度入試では数多くの高校が2次募集でも定員割れしました。2次募集への出願要件が厳しく、行きたい高校が募集を行っていても出願できなかったケースが多かったと考えられます。

二次募集を実施する大阪府立高校 二次でも全校定員割れ

しかし第2希望を定員割れ高校の補充だと捉えると、対象となる生徒や学校は極めて限定的です。そもそも第2希望とした高校への出願者が定員を超えた段階で、第2希望で入学できる可能性が消滅しかねません。

第50回大阪府学校教育審議会で配布された資料には、愛知県の複合選抜制度が含まれていました。

この制度は単純に2校に出願できるのではありません。高校を4グループ(1A・1B・2A・2B)に分け、1A・1Bもしくは2A・2Bから受験校を選択します。

通学可能かつ似た学力水準の高校を組み合わせやすいグループには受験生が集まりやすい一方、組み合わせにくいグループは二の足を踏みます。グループ分けによって、受験生の志望動向(ひいては高校からの大学進学実績)を調整できます。

グループ分けは高校や受験生に極めて大きな影響を及ぼします。細心の注意やシミュレーションが必要となります。とても数ヶ月で導入できるものではありません。

ただ、仮に導入された場合、公立高校を不合格となる受験生は激減します。一定程度の学力差がある高校を併願すれば、少なくとも第2希望の高校には合格します。

死活問題となるのは文理学科を不合格となった高学力層を受け入れ、スパルタとも形容される様な高強度の教育を3年間行う事によって有名大学への進学実績を積み重ねていた、いわゆる私立高校特進コースです。

これが愛知県の私立高校(中高一貫校を除く)の進学実績が振るわない理由です。高学力層を公立高校でしっかり引き受けているのは、愛知県が「公立王国」と呼ばれる一因です。

入試日程の前倒しが中下位学力層の志望動向と直結、そして複数校受験制度(複合選抜)は高学力層の私立高校への戻り率(歩留率)が大幅に下落します。

なお、本審議会では英検やC問題には触れていません。これらの見直しは無さそうです。

但し、複数校受験と難易度別問題は両立しません。第1希望のA高校がC問題、第2希望のB高校はB問題、果たしてどの様に合否判定を行うのでしょうか。1度の試験で2校の合否判定を行う場合、避けられない課題です。