「こども誰でも通園制度」が本格実施に向けて動き出しました。果たして令和8年度に無難に実施されるのでしょうか。
政府が創設を目指す「こども誰でも通園制度」は、すべての子どもの育ちを支えることを目的に保育所などの利用要件を緩和し、親が就労していなくても時間単位などで子どもを預けられるようにする新たな通園制度です。
令和8年度からすべての自治体で実施されるのを前に、来年度、各地で試行的な事業が行われる予定で、25日、こども家庭庁で開かれた保育所の事業者や専門家らによる検討会で具体的な指針が取りまとめられました。
それによりますと、対象となるのは0歳6か月から3歳未満の子どもで、保育所や認定こども園、幼稚園、地域子育て支援拠点、児童発達支援センターなどで行うとしています。
また、提供体制を確保するため、1人当たりの利用時間の上限を「月10時間」とするとほか、慣れるまでに時間がかかる子どもへの対応として、初回などに「親子通園」を取り入れることも可能とするということです。
試行的事業について、こども家庭庁はおよそ150の自治体での実施を想定して公募を行っていますが、今後、すべての自治体で実施することを見据え、計画的に提供体制を整備するよう求めています。(以下省略)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231225/k10014299011000.html
詳細な内容はこども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業実施の在り方に関する検討会(第4回)での議論や配付資料で把握できます。
お世話になっている保育所の園長先生は、以前に「うちでは無理だと思う。保育士が足りないし、既に園児でいっぱい。」との旨を話していました。
令和5年度モデル事業の状況調査には、事業を実施している施設や実施状況が掲載されています。その中から首都圏や大阪府で実施しているモデル事業を抜き出します。
自治体 | 設置主体等 |
千葉県松戸市 | 公立保育所3園 |
東京都文京区 | 認可外保育施設の空き教室 |
東京都品川区 | 小規模保育事業(要支援児童に特化) |
東京都八王子市 | 幼稚園型認定こども園 |
神奈川県川崎市 | 支援拠点を併設する認可保育所2箇所 |
大阪府豊中市 | 幼保連携型こども園(主体は学校法人) |
大阪府高槻市 | 未就園児家庭支援を実施している幼稚園型認定こども園 |
モデル事業という性質の為かもしれませんが、純粋な私立保育所はありません。3自治体は幼稚園や学校法人を主体とする認定こども園、2自治体は様々な支援に長けた公立保育所や支援拠点併設保育所、1自治体は小規模保育、1自治体は認可外保育施設の空きスペースを利用しました。
ここから見えてくるのは、「一般的な私立保育所が誰でも通園制度として不特定多数の園児を預かるのは難しいのではないか」という現実です。
多くの幼稚園は未就園の2歳児を対象とした預かりや園庭開放を行っており、そのスキームを誰でも通園制度に転用しています。ノウハウやマンパワーも持ち合わせています。
様々な園児と接する機会が多いのは、公立保育所や支援拠点併設保育所でしょう。こちらも新制度との相性は良さそうです。
誰でも通園制度に特化した施設を開設した自治体もあります。同制度の制度概要等には「要支援児童」という言葉が繰り返し用いられています。隠れた目的の一つが「要支援児童の支援・保護」なのでしょう。
モデル事業を見る限り、待機児童問題がまだ継続している都市部の一般的な私立保育所が誰でも預かるのは困難だと考えられます。そもそも制度設計の射程に含まれていないかもしれません。
保育所等を利用していない子育て世帯の支援が重要かつ必要なのはその通りです。しかしながら、特に都市部の保育所等はマンパワーに余裕がありません。
なお、利用時間の上限は月10時間(国庫支援基準、自治体独自の引き上げも可?)、利用料金は1時間300円程度(具体的な金額は自治体が決定)とされています。
この水準では予約開始と同時に申込みが殺到し、あっという間に埋まってしまうでしょう。「誰でも通園制度」ではなく「早い者勝ち通園制度」です。苦情や不満が殺到します。