気になる論文を見つけました。「我が国における子供の数と学歴・収入の関係」です。

我が国における子供の数と学歴・収入の関係
全国調査から明らかになる少子化の実態
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/PR/2022/release_20220428.pdf

上記論文からは下記の結論が示唆されています。

・少子化の原因は子供を持たない人の増加、及び子供を複数持つ人の割合の減少が大きい。
・子供を持たない人の割合は30年で3倍増となった。
・男性は高収入、高学歴、正規雇用であるほど子供の数が多い。
・若年層の雇用の不安定化や低収入が、交際、婚姻、子供の有無に影響を及ぼしている。
・特に世帯年収の低い夫婦につき、子育て費用が子供を持つことを躊躇わせている可能性がある。
・高学歴女性ほど子供の数が少なかったギャップが消失した(就労継続及び高収入の為か)
・大都市に住んでいる女性ほど子供を持つ割合及び3人以上子供がいる割合が少なかった。

いずれも納得できる結論です。肌感覚とも概ね一致しています。

以前から知っていたとは言え、子供を持たない人の割合は30年で3倍増となったのは溜息が出ます。特に厳しいのは男性です。

上記論文には「1943 年-1948 年の間と、1971-1975 年の間に生まれた人を比較すると、子供を持たない人の割合は、男性では 14.3%から 39.9%、女性では 11.6%から 27.6%にまで増えていることが明らかになった。」と記載されています。

1971-1975年の間に生まれた男性(2022年で51歳~47歳)の内、子供がいるのは約6割に過ぎません。周囲の男性は子供がいる方が多いのですが、私自身がそうしたコミュニティに属しているからでしょう。保育所や小学校は子供がいる家庭の集まりです。

男性の収入や学歴と子供の数との関係は、既に様々な媒体等で指摘されています。一方、女性の収入や学歴との関係は興味深いです。

非大卒女性が子供を持つ割合やその人数は、年を追う毎に減少しています。一方、大卒女性は1966年~1970年生まれ(2022年で56歳~52歳)を境に切り返している様に見えます。そして1971年~1975年生まれにおいては、非大卒と大卒女性の特殊出生率が並びました。

この頃の時代は余り詳しくありませんが、契機となったのは1986年に施行された男女雇用機会均等法、そして1992年に施行された育児休業法でしょう。女性の就労や出産に伴う就労継続を力強く後押しする法令です。

周囲を見る限り、高学歴女性であるほど高学歴男性と結婚する割合が高いと感じています。同質性が高い大学や職場で出会い、交際から結婚に至るケースです。世帯収入も高く、多くの子を育てる余裕も出てきます。

また、「大都市に住んでいる女性ほど子供を持つ割合及び3人以上子供がいる割合が少なかった。」は強く実感しています。都市部では「住居の広さ」が子供の人数に対する強い制限となります。

子供に個室を持たせたくても、地価が高い都市部で十分な広さを有する住まいに居住するのは決して容易ではありません。となると、より多くの子供を望んでも、世帯収入で住める住居の広さに応じた人数に留まってしまうのです。

東京ほどではありませんが、大阪でもマンションの価格上昇が続いています。どんどん手から遠のいていきます。十分な広さが望めなければ、大阪市外を含めた郊外へ転出する選択肢も考え込んでしまいます。

ズレている少子化対策

これらを踏まえると、政府や自治体等が行っている少子化対策は明らかにズレています。最重視すべきなのは「若年層の経済対策」でしょう。すなわち雇用の安定です。不安定な非正規職で交際、結婚、出産、育児という長期スパンを描きにくいのは当然です。

これに大失敗したのはいわゆる就職氷河期世代です。第3次ベビーブームは遂に起こらず、非正規職で老後を迎える世代の社会保障費が社会全体に重くのしかかります(政府はどうするのでしょうか、切り捨てるつもりでしょうか?)。

いくら保育所を整備したり育児休業を充実させても、そこに至らない人間には何のメリットもありません。「子供は贅沢品だ」という意見も聞きます。

ここ1-2年はコロナ禍で出生減が進み、それ以上に婚姻数が減少しました。そして、今年は強烈なインフレがやってきます。出産や子育てには強い逆風が吹き荒れます。