都心部で多くの待機児童が生じる原因の一つは「ファミリー向け大規模マンションの新築」です。

建築から数年後をピークとして、非常に多くの子供が産まれます。それに伴い、付近の保育所等や小学校へ同時に多くの子供達が押し寄せます。

結果として、こうした地域の保育施設は著しく入所しにくくなり、また小学校は過密化が進行します。

数年前、大阪市はこうした大規模マンション内に保育所等を設置し、入居者が優先的に入所できる制度を導入しました。

【大阪市政】マンション事業者と保育所設置協議・入居者優先入所制度導入へ

しかし、制度が利用されていません。

ボトルネックとして指摘されているのは「優先入所期間が開所後3年間に限る」という点でした。これを5年間へ伸ばす制度変更が検討されています。

概要

これまで本市では、大規模マンションの建設による保育需要の増加に対応するため「大阪市大規模マンションの建設による保育需要の増加に対応するための保育施設等の整備に係る事前協議に関する条例」を定め、マンション事業者に保育施設等の設置を促し、また、当該マンションの居住児童の利用に当たっては優先的な利用調整を行うことを定めてきました。

しかしながら、「大阪市大規模マンション居住者に係る保育施設等の優先的な利用調整に関する事務取扱要綱」第8条に定める優先的な利用調整を行う期間(3年以内)ではマンション購買者の十分な動機づけにならず、結果的に保育施設等の設置促進が進んでいない状況です。

このような状況を踏まえ、今般、本市における子育て環境の充実に資することを目的とした必要な改正を行うため、市民の皆さまから幅広く意見を募集することとします。

https://www.city.osaka.lg.jp/templates/kisoku_boshu/kodomo/0000485044.html

現行制度は下記の通りです(資料は第11回大阪市待機児童解消特別チーム会議から引用)。

難航している様は、同会議で配布された別資料から読み取れます。

新築マンションからの保育所ニーズは、入居後3年後がピークとなるとされています。優先入所期間が新築後3年間だと、ピークアウト後の入所希望者が優先的に入所できなくなってしまいます。

6年保育を行う保育所であれば、フルタイム+きょうだい加点でほぼ入所できるでしょう。

しかし、こうしたマンション内に設置されるのは、0-2歳児の保育を行う地域型保育事業が主となるでしょう。

6年保育の保育所を第1希望とする世帯が多い中、新築後3年に限られた優先入所制度のインセンティブは高くありません。

ただ、大阪市が「マンション購買者の十分な動機づけにならず」としている記載より、むしろ「マンション販売者の十分なアピールポイントにならず」が正解だと感じます。

「条例施行後の事業者の主な意見」からは、辛辣な意見が掲載されています。メリットの少なさに加え、運営の難しさ・法令違反の恐れ・低採算性が指摘されています。

こうした意見を受け、大阪市は「5年間に延長したい」と判断しました。

主な利用者はフルタイム+パートタイム勤務夫婦か

ただ、5年間に延ばしたとしても、私は悲観的です。

待機児童問題が深刻な地域に建築されるファミリーマンションは、価格が高い物件が多いでしょう。低く見積もっても価格設定は3000万円からです。

こうした物件を購入するのはフルタイムで共働きしている世帯が少なくないでしょう。そうした世帯の多くは、6年保育の保育所への入所を希望しています。

となると、仮にマンション内に地域型保育施設があっても、第1希望として記入しづらいです。しかし、優先入所制度の対象となるのは「第1希望として記入した場合」のみです。

結果、こうしたマンションに入居する共働き世帯は優先入所制度を使わないケースが専らとなるでしょう。

想定しやすい利用者は、フルタイム+パートタイム勤務の夫婦です。

調整点数は180点から190点であり、都心部で保育施設へ入所するのは非常に厳しい点数です。しかし、こうした制度を利用すると、最優先で入所できます。

保育所等への入所希望者における公平性を無視してまで導入すべき制度か、疑問に感じる面も多いです。6年保育を行う保育所であれば、話は全く違うのですが。