これまで大阪市会等で何度も「保育士配置基準の緩和特例」について議論が行われてきました(詳細はこちら)。最終的には大阪市会で可決され、導入されようとしています。

具体的な内容が「大阪市児童福祉施設の保育士配置に関する取扱要綱」の制定(案)他にかかる意見公募の実施で公開されました。保育所・小規模保育A型・事業所内保育・認定こども園を対象とした各種要綱案です。

多くが同じ内容なので、「大阪市児童福祉施設の保育士配置に関する取扱要綱」を集中的に取り上げます。

大阪市児童福祉施設の保育士配置に関する取扱要綱(案)

大阪市児童福祉施設の保育士配置に関する取扱要綱(案)とは、児童福祉施設(保育所、幼保連携型認定こども園など(児童福祉法第7条第1項))・大阪市児童福祉施設の設備及び運営に関する基準を定めた条例における保育士の配置基準につき、「保育所等における保育士配置に係る特例について」を踏まえた上、必要な事項を定めたものです。

簡単にまとめると、「保育所・こども園における保育士配置基準」の大阪市特例を定める要綱案です。趣旨は大阪市会で議論された通りです。

【要綱案第1条】
具体的な内容について触れる前に指摘すべき点があります。要綱案では大阪市児童福祉施設・・・を定める条例を「設備運営基準」と定義しています。同条例は第6条及び附則が設けられていますが、要綱案第3条以下で参照している附則第94条はありません。

附則第94条があるのは児童福祉施設の設備及び運営に関する基準です。ひょっとして要綱案第1条は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」の誤りかもしれません。

(保育所の職員配置に係る特例)
第九十四条  保育の需要に応ずるに足りる保育所、認定こども園(子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)第二十七条第一項の確認を受けたものに限る。)又は家庭的保育事業等が不足していることに鑑み、当分の間、第三十三条第二項ただし書の規定を適用しないことができる。この場合において、同項本文の規定により必要な保育士が一人となる時は、当該保育士に加えて、都道府県知事(指定都市にあつては当該指定都市の市長とし、中核市にあつては当該中核市の市長とする。)が保育士と同等の知識及び経験を有すると認める者を置かなければならない。

児童福祉施設の設備及び運営に関する基準

そう考えれば要綱案第3条以下を読み進められます。仮に誤っていたら大問題です。修正して済む部分ではありません。取り越し苦労であるのを祈りたいです。

【案第3条第1項】
ようやく内容に触れられます。要綱案第3条は、上記基準における「保育士と同等の知識及び経験を有する」を定義しています。過去4年度で計2,250時間以上の保育を保育所で行った者、家庭的保育者(児童福祉法第6条の3第9項、「法」だけじゃ分からない)かつ大阪市の基準(要綱が見つからない!)を満たす者、子育て支援員かつ大阪市の基準(要綱が見つからない!)を満たす者、のいずれかに該当する者とされています。

【案第3条第2項】
また、幼稚園教諭を保育士と見做すことができる場合(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第95条)でも、3歳以上の児童の保育が望ましいとし、保育経験が無い幼稚園教諭は子育て支援員研修等の受講を努める様にとしています。

【案第3条第3項】
更に小学校教諭を保育士と見做す場合には5歳以上の児童の保育(いわゆる縦割り保育では3歳以上)が望ましいとし、幼稚園教諭と同条件での研修受講を努力目標としています。

【案第3条第4項】
なお、養護教諭には年齢制約が設けられていません。但し、同様に研修受講を努力目標としています。

【案第3条第5項】
更に8時間を越えて開所する保育所で追加的に配置すべき保育士については、その範囲内に限って案第3条第1項(家庭的保育者など)も含められるとしています(保育士と見做す各種教諭は、当然に保育士)。

非常に分かりにくい要綱案です。家庭的保育者に関する「大阪市家庭的保育事業等及び実施事業者バンクに関する要綱」は全く見つかりませんでした。どこにあるのでしょうか。

徹底した情報公開を

こうした保育士配置基準の緩和策は「保育の質」を低下させる懸念があるので、保育士不足の解消に繋がるとは言え、全面的に賛成するのは難しいです。

こうした保育士以外の職員を保育士・同等の知識を有する者として雇用するかは、各施設の判断に任されているでしょう。要綱が正式に決まっても、職員の採用の自由はあります。

保育所にお世話になっている家庭の立場として絶対に知りたいのは、「通っている施設・検討している施設で、こうした特例を利用した職員を採用・活用しているか」という点です。

従来通りに全員が保育士であれば、何の変わりもないでしょう。しかし、仮に各種教諭・支援員等を保育士等として採用した場合、そうした情報が保護者に伝わらないのは大きな問題です。

特例を利用して採用に至った経緯や考え方等をしっかり説明してくれれば、保護者としては納得・安心できます。しかし、黙ったまま働き始め、後になって実は保育士資格を有していなかったと判明したら動揺しかねません。

保育所を利用している保護者としては、あくまで「保育所・保育士に保育をお願いしている」という考えです。こっそりと非保育士が担任となり、保育を行っていたら複雑な気持ちとなります。

少なくとも「各施設毎の特例利用・採用の有無」は随時公開すべきでしょう。黙ってできる内容ではありません。

特例利用は公立保育所から

また、こうした非保育士の利用は、制度を積極的に推進している大阪市で行うべきです。公立保育所では保育士不足が激しく、縮小運営を余儀なくされていると聞きます。

大阪市は数多くの教諭を採用しています。本人の希望・適性等もありますが、学校・幼稚園等から保育所へ異動し、保育士として勤務するのは容易でしょう。保育士不足を補い、待機児童問題の解消に繋がります。また、ここで得られた経験等を市で蓄積し、私立保育所等へ還元できます。

こうした新しい施策を実施する場合は、大きな予算と人員がある市から導入して検証すべきです。保育の質が低下する恐れがないのであれば、何の問題もなくできるでしょう。そうでなければ、規模が小さい私立保育所で導入するのは二の足を踏みます。「まずは隗より始めよ」です。

賃上げ・労働環境の改善・家庭との両立確保が王道

こうした特例の利用は保育士等の確保に繋がるでしょう。しかし、保育士不足の主たる原因は「低賃金」「労働環境が悪い」「子育てや家庭との両立が困難」という部分にあります。

労働供給の増大に必要なのは規制緩和ではありません。賃上げ・労働環境の改善・家庭との両立確保による労働供給の増大です。自治体独自に出来る範囲には限界がありますが、可能な範囲で課題の改善に対処して欲しいです。

近頃、保育士から「給料が安い」「持ち帰り仕事が多い」と冗談半分で愚痴られる機会が増えてきました。保育士の待遇等がニュースで大きく報じられるにつれ、保育士も保護者等へ言いやすくなったのでしょう。本来は保護者へ話すべき内容ではありませんが、ついつい聞き入ってしまいます。

パブリックコメントは10月17日まで受付中

上記要項と同時に、ほぼ同じ特例を小規模保育A型・事業所内保育・認定こども園の保育教諭にも設ける要綱案も公開されています。

こうした要綱案等に関するパブリックコメントが受け付けられています。ただ、その締切は10月17日(月)となっています。本当はもっと早くご紹介する予定でしたが、一斉入所関係のとりまとめを優先して遅くなってしまいました(反省)。

意見のある方は土日の間にまとめ、17日(月)に到着する様に郵便・メール等でご提出下さい。詳細は意見公募ページに掲載されています。