いよいよ来週、2019年10月から「幼児教育・保育の無償化」が実施されます。

東京新聞(中日新聞)では全面的に保育料を無償化した大阪府守口市、そして職場環境を改善して保育士を採用したなごころ保育園(愛知県大府市)の事例を取り上げています。

全面的に保育料を無償化した大阪府守口市

<幼保無償化の行方>(上) 独自で実施、大阪府守口市

 10月から幼稚園や保育所などの利用料が無料になる。消費税の増収分を活用する国の政策で、子育て世帯の負担軽減が期待される一方、保育施設に入りたくても入れない待機児童問題や、保育士不足が悪化する懸念もある。無償化で保育所や幼稚園はどう変わり、保護者が安心して預けられるようにするにはどうしたらいいのか。模索する現場を訪ねた。

◆受け皿拡充、転入者が増加

 木のぬくもりに包まれた保育室。「おはようございます」と園児たちの元気なあいさつが響く。大阪府守口市中心部のマンション1階にある小規模の認可保育所「Fineひまわり保育園」。市内の社会福祉法人が昨年4月に開設し、ゼロ~2歳の21人が通う。利用料は皆、無料だ。

 「保育料分を子どもの教育費として貯蓄したい」。4月から娘を預けるパートの内山田香さん(32)は笑顔を見せる。専業主婦だったが、保育園が無料なことにも背中を押され、働くことに。2歳の息子を通わせる町田美奈さん(31)は「駅が近く、勤務先にも行きやすい」。

 保護者の収入などで決まる認可保育所の保育料は一人当たり全国平均3万7000円。子育て世帯の負担は小さくない。大阪市に隣接する守口市は人口減少が進む中、子育て世代を呼び込もうと2017年に、独自に幼保無償化に踏み切った。

 対象は市内のゼロ~5歳児。世帯の所得に関係なく、市外も含め市民が預ける認可の保育所や幼稚園、認定こども園の利用料を市が負担している。

 年間の予算は6億7000万円ほど。財源は公立の保育園と幼稚園の再編で捻出した。16園から半分に減らし、残った8園のうち5園を民間に移管。職員数や施設の維持管理費を削減した。

 一方で、受け皿づくりも進めた。希望者が増えることを見据え、幼稚園を保育機能のある認定こども園に。無償化を呼び水に、民間事業者に小規模保育所の新設を呼び掛けた結果、17年から3年間で市内に新たに16施設ができた。受け入れ枠は、無償化前より279人増えた。

 Fineひまわり保育園もその一つ。海老名ゆりえ園長(26)は「保育園に入りたいのに入れないという声は以前からあった。市民のニーズに応え、地域へ貢献したいと考えた」と話す。

 効果は如実に表れた。減り続けていた市内のゼロ~5歳児は15年から4年間で300人増加。無償化前の16年に17人だった待機児童は昨年4月に48人に増えたが、受け入れ施設も増え、ことし4月にゼロとなった。

 市が昨年12月に市内の子育て世帯を対象に行ったアンケートでは、協力した525世帯のうち121世帯が無償化前後で「就労状況に変化があった」と回答。うち79世帯は「新たに働きだした」「長時間働きだした」「求職中」と答えた。市の担当者は「働きたいけど子どもの預け先がなく、あきらめていた潜在的な保育の需要を掘り起こせた」と分析する。

 ただ、新たな問題も。息子2人を市内の認定こども園に、娘をこども園から離れた保育所に預けている女性(29)は「送迎が大変」とこぼす。娘も同じこども園に預けたかったが、希望者が多く、かなわなかった。「無償化後に市外からの入居者が増え、第1希望の施設に入れないという声を聞く。他の自治体でも無償化が始まるから、少しは良くなると思うけど…」

 また、市内の保育所などは慢性的な保育士不足で、市は、保育所などが保育士を募る就職フェアの出展費や人材育成研修の参加費などを補助する新事業も始めた。担当者は「多方向から支援したい」と力を込める。

https://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2019091902000002.html

全ての年齢の保育料を無償化した守口市の事例は、何度かご紹介してきました。

【ニュース・12/21可決】守口市 0-5歳保育料完全無償化は実現・維持できるのか
【日経新聞より】「保育無償化」効果と課題 大阪・守口市
【幼児教育無償化・12/12東京新聞追記】何が変わるか、どう変わるか(大阪市・大阪府守口市の実例より)
守口市の2019年度入所結果が公表、申込数は高水準で推移、保留数は減少

多くの子育て世帯が歓迎しそうな「保育無償化」ですが、デメリットや問題点もあります。

一つは待機児童や入所保留児童の増加です。

守口市では導入から1-2年は待機児童数・入所保留児童数が大きく増加しましたが、導入3年目たる2019年度は減少に転じました。

新規利用申込数は高水準で推移していますが、多くの保育施設を急ピッチで新設した効果が出ています。

無償化による経済的恩恵を受ける世帯が偏っているのも大きな問題です。

そもそも入所できなければ保育料が無償となりません。入所できなかった世帯は強い不満感を抱くでしょう。

また、従来は高額の保育料を支払っていた高所得世帯は保育料負担が大きく減少しました。中には年間100万円も負担が減少した世帯もありました。

一方、保育料が低額に抑制されていた低所得世帯の負担額は若干減少したに過ぎません。

つまり、保育料無償化による恩恵を最も大きく受けるのは、「保育所等に入所しやすい共働き世帯、かつ高所得世帯」となります。

保育無償化には、子育て世帯間の格差を助長する効果があります。

職場環境改善による保育士の確保

保育士不足は依然として深刻です。

<幼保無償化の行方>(下) 保育士の確保

 ウサギのぬいぐるみを差し出した1歳の女の子に向かい、保育士の河野房子さん(55)がスマートフォンでパシャ。他の園児が友達の頭をなでたり、つかまり立ちしたりする様子も写真に収め、コメントをつけてそれぞれの保護者に送った。

 愛知県大府市の「なごころ保育園」で使っている「連絡帳アプリ」。子どもの園での様子を、担当した保育士が毎日、写真とともに伝える。

 連絡帳はノートに書いて保護者に渡すのが主流だが、「慣れれば、手書きより早くて楽」と河野さん。同園が進める保育士の働き方改革の一環だ。

 ほかにも、保育士らが手作りする壁の装飾もなくすなど、保育以外の業務を極力なくし、決められた勤務時間の中で園児としっかり向き合えるように。また、ゼロ~2歳児1人を担当する保育士を2人決め、交代で休みやすくした。このため、週休3日も可能で、副業も認められている。それでも、給与水準は周囲の園とほぼ変わらないという。

 同園は人材派遣などを手掛ける「長屋心」(名古屋市)が昨年4月に開園。ゼロ~5歳児を対象にした認可外施設だが、保育士の負担軽減と質の良い保育の実践を掲げ、開設時の20人の募集に80人が応募した。今春も10人の枠に45人が集まる人気ぶりだ。

 採用担当の佐橋奈沖美さん(49)は「保育に集中できる環境が魅力なのでは」と手応えを感じている。

 10月1日から始まる幼児教育・保育の無償化で懸念されていることの一つが、保育士不足だ。独立行政法人「福祉医療機構」(東京)が昨年8、9月に行った調査では、全国約1000の保育所と認定こども園の3割で保育士が不足。そのために子どもの受け入れを制限している施設も1割近くあった。無償化で希望者が増えても、十分に受け入れられない恐れがある。

 保育士不足の背景には、職場環境をめぐる厳しい現実がある。

 今春、別の認可保育所から、なごころ保育園に移った女性保育士(28)は前の職場では残業や休日出勤が多く、発表会の衣装などを自宅で持ち帰って作ることも。「達成感はあったけど、消耗した」。

同園で乳児3人を受け持つ女性保育士(23)も、以前勤めた幼稚園で約20人のクラスの担任に。工作の準備などにも追われ、子どもとうまく関われる自信が持てずに退職した。現在は、副業としてケーキ店でも働く。

 名城大の蓑輪明子准教授らが愛知県内の保育職員約1万人を対象に2017年度に行った労働実態調査では、正職員の84・6%が「仕事量が多い」と回答。行事の準備や壁の装飾など保育以外の業務で残業する人が多く、残業時間が過労死の危険性が高まる月60時間を超える人も162人おり、最高は135時間に達した。

 また、厚生労働省によると、17年の保育士の平均月給は約23万円。全業種の平均より10万円も少ない。保育士確保に向け、国や各自治体は給与の引き上げのほか、家賃の補助、子どもの保育料の無利子での貸し付けなど、多くの支援策を打ち出している。

 蓑輪准教授は「保育士が余裕を持って子どもと向き合い、やりがいを持って働ける環境づくりが大事」と話す。

https://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2019092002000005.html

記事で取り上げられている「なごころ保育園」は愛知県大府市にある保育所です。同園では、効率化した働き方を実践しています。

なごころ保育園
https://www.nagokoro-hoikuen.com/

その一つが「連絡帳アプリ」でしょう。導入しているのは「保育園ICTシステム コドモン」です。

「CoDMON(コドモン)」は保育園・幼稚園・学童・スクール・小学校などの、こども施設で働く先生の毎日をサポートするICTソフトです。
ICT化によって指導案や日誌の作成、園児毎の登降園管理や保育料計算、請求管理、さらには保護者連絡まで、一貫してサポートします。

https://www.codmon.com/

Download (PDF, 4.46MB)

同園はICT等を活用し、保育士が保育業務に専念できる環境を構築しているのでしょう。

お世話になっている保育所でも、少しずつですがICTを利用した業務効率化が進んでいます。ここ数年の間、出席簿・写真販売・緊急連絡等が電子化されました。

一方でアナログなままという業務も少なくありません。保育士が毎日作成する指導日記(と言うのでしょうか)・保護者への連絡物・連絡帳等は未だに紙媒体です。

思い切ってICTシステムや大量のパソコンやタブレットを導入すれば、業務は大きく効率化するでしょう。しかし導入費用や費用対効果、不安感もあるでしょう。

ただ、どの業界でも「システム化によって必要性の低い業務や紙媒体を減らす」のが業務効率化の第一歩です。その業務や紙、本当に必要でしょうか。

保育士が多忙という評判は求人難・離職率の高さ・低賃金等、様々な面に悪影響を及ぼしています。

子供を大切にする社会を維持・構築するには、子育ての場の一つである保育所や保育士に投資するのが重要です。

やりがいも大切ですが、より重要なのは業務を効率化して負担を軽減し、そして賃金を引き上げる事でしょう。

なごころ保育園のウェブサイトでは、採用情報も掲載されています。

中途採用は下記の様な待遇となっています。

勤務時間
6:45~19:30(シフト制) ①実働10h ②実働8h

給与
月給17万1,500円以上+各種手当

休日休暇
①週休3日制(日曜+2日)/年間休日157日 ②週休2日制(日曜+1日)/年間休日107日 ※祝日休み、年末年始休暇、有給休暇、産休・育休、介護休暇あり

福利厚生・待遇
社会保険完備、資格取得支援制度、研修制度、定期健康診断、給食手当支給 産休・育休制度、時短勤務制度、旅行サポート、スマートフォン貸与、 マイカー通勤可(無料駐車場完備)、職員専用休憩室完備

https://nagokoro-recruit.com/career/%e5%a4%a7%e5%ba%9c%ef%bc%88%e4%bf%9d%e8%82%b2%e5%a3%ab%ef%bc%89/

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人手不足が深刻なご時世、「やりがい」では人は集まりません。