大阪市の松井市長が市長会見(2019年5月16日)にて、2019年4月1日時点での待機児童数・入所保留児童数等(速報値)を発表しました。
報道発表資料 保育所等の待機児童数(平成31年4月1日現在・速報値)を公表します
https://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/kodomo/0000442973.html
これについては後日、別記事にて詳細に分析します。
今回は同じ市長会見で発言した、「保育現場に子育て経験者を」という考え方を取り上げます。
保育支援員(准保育士)制度?
大阪市の待機児童対策における最大の課題として、松井市長は「保育士確保」を取り上げました。
しかし、更に多くの保育士有資格者に就業を促すのではありません。無資格だが研修等によって保育士とみなせる「准保育士制度」を念頭において検討しているそうです。
NHK:(中略)これまで取られてきた対策の、あるいはその成果を見たときの課題っていうのはどういうところにあるとお感じでしょうか。
松井:やっぱりこれは保育士確保が一番の課題だと思っています。これは知事時代も吉村市長と一緒に、准保育士制度というか、保育士資格はないけれども研修によって保育士と見なせる、そういう人材によって保育園の、要は受入数を増やしていきたいと、定員を増やしたいと。こういう提案してきましたけども、なかなか厚労省と全て話がまとまらず、保育士と見なせる人材確保っていうのはなかなか了解を得れてませんから。
府域でいうならば、だいたい保育士資格を持たれてる方の3分の1程度しか保育の現場では働いていただいておりませんから。その残りの3分の2の方々は今、別の場所で仕事をされたり、いったん現場から離れられて自分の人生は違うところで過ごされてるわけで、この人たちを無理やり保育の現場に引き戻すっていうのは、これはなかなか難しいのでね。
かといって税金投入して、あまりにも圧倒的な身分保障するというのは、これは財政的にも厳しいし、税を使ってその分野にだけ個人の所得を上げていくっていうのもこれは公正・公平な税の使い方とは言えないと思いますのでね。
ということでやっぱり今一番、これからの一番の課題は、保育の人材確保というところが一番の課題になると思ってます。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190516-00010002-wordleaf-pol(以下同じ)
これは昨春に「保育支援員」として特区構想を要望したものです。
松井知事(当時)は保育士不足に対応するため、保育士1人の業務を保育支援員1.5人で代替できるよう要望。実現すれば、現行基準で保育士6人を確保する必要がある施設の場合、保育士4人と支援員3人で運営できるようになり「保育の質を落とさず人手を確保しやすくなる」と主張した。
果たして保育士の業務を「保育支援員」で代替できるのでしょうか。
保育士業務を分析し、チーム保育を目指す
大阪府・大阪市が国家戦略特区ワーキンググループに提出した資料から検討します。
【提案のねらい・考え方】
○ 厚生労働省の緩和策で認められている幼稚園教諭等の活用は難しいため、子育て支援員等に独自の研修を積み上げて養成する「保育支援員」を活用したい。厚生労働省の緩和策の範囲内(各時間帯2/3は保育士を配置)で運用することにより、質は維持できるので、定員拡大にも活用できるよう、基準数に入れてもらいたい。
○ 「保育支援員」の位置付けは、保育士の役割(高い専門性)そのものを代替するのではなく、保育士の指導・指示を受け保育士とともに軽易な保育を担うという「チーム保育」の実効性を高めるものである。
大阪府・市は保育士の業務を詳細に分解し、提案しました。
具体的には食事援助・就寝援助・移動時の見守り・掃除・おやつ・排泄対応等を保育支援員が、室内遊び・会議/記録/報告・表現活動・連絡帳の記入・保育計画の準備や記録等を保育士が担う、としています。
この表を読んで「絵に描いた餅」だと感じました。
保育士の業務がペーパーワーク偏重になり、子どもと接する時間が著しく少なくなっています。これで十分な保育が行えるのでしょうか。
確かに保育所で行う業務の全てを保育士が行う必要性はないでしょう。しかし、園児と直に接する業務をそれぞれ保育士/保育支援員に分けて担うのは非現実的です。
子どもから見ると、職員は全て「先生」です。誰にでも分け隔て無く声を掛け、遊んでもらおうとします。子どもに保育士と非保育士の区別はありません。
緊急時の判断にも違いが出るでしょう。養成校でしっかりした教育を受けた、もしくは保育士試験をクリアした保育士であれば、子どもの様子が普段と違ったら何らかの病気等を容易に疑えるでしょう。
しかし、保育支援員にそこまでの気づきを要求できるでしょうか。専門知識というバックボーンの有無は大きな違いを産みます。
また、保育所を利用している保護者は、「保育士が保育を行う」という制度を信頼しています。仮に配置基準の半数近くが非保育士となったら、「保育士が保育を行う」という建前が崩れてしまいます。
チーム保育のイメージ図では、保育支援員の導入によって子どもと向き合う時間が増えて安全確保に資するとされています。
しかし、人数が減少した保育士がペーパーワークや支援員の指揮監督に追われてしまい、子どもと向き合う時間が減少するという疑念を抱かざるを得ません。
若手を採用し、離職を食い止めろ→USJ年間パス?
そもそも大阪市はどうして保育士不足が深刻なのでしょうか。主な理由に一つは「若手の離職」です。
産経新聞:保育士の若手の離職もかなり多いと聞いたのですが、その辺りの対策はいかがでしょうか。
松井:そうだね。ただそれは1人1人条件が、やっぱり辞職する条件も違うと思いますのでね。これからやっぱり現役世代というのは、今、要は少子化でそういう若い世代減ってる中で、すぐ保育の資格を取れる大学を出た人だけを当てにして、この保育人材というのをまかなっていくというのは非常に大変だと思います。だからやっぱりそれ以外、違う分野の人たち、そういう人たちがこの保育の現場でなんらかの形で貢献できる仕組みを僕は必要だと思ってますけども。これはやっぱり厚労省の理解を、厚労省が了解してくれないとなかなかできない。
特にこの議論してるときにいつも政府と話すると、保育の質ということが確保できるのかと。保育士資格、正式な保育士資格を持たない人が質を確保できるのかという話になるんだけど、それはやっぱり自ら子育てを経験してきた、そういう年代の特にお母さんたち。もう子供が自立して、今まだまだそういう年代なっても若いわけだから。そういう子育てを経験してきた女性の皆さん。男性でもいいんですけど、そういう皆さんが一定期間研修することによって保育士並の仕事ができる環境、これを僕はぜひ、国において議論してつくっていくべきだと、こう思っています。
確かに若手の離職率が高いという話をしばしば聞きます。
しかし、だからと言って保育支援員制度を導入するのは、余りに突拍子もない話です。
お世話になっている保育所を退職された若手の先生が次に選んだ進路は様々です。
関西の別保育所で勤務する、地元に帰って別保育所で勤務する、全く違う業種で働く、結婚や出産するので家事や育児に専念する、疲れたのでしばらくゆっくりする、と様々です。
仮に保育支援員制度が導入されたら、保育士に掛かる負担が増大するのは避けられません。離職率を更に上向かせかねません。
近年、大阪市は様々な待遇改善事業を行っています。一定の効果が上がっていると考えられる物もあれば、不思議な物もあります。
その一つが「ウェルカム事業」です。新たに採用された保育士に対し、帰省費用や遊興施設の年間パスポート代を補助する制度です。
効果はまだ検証されていないそうです。
産経新聞:先ほどの保育士確保の関連で、やはりなかなか全体の待遇改善というのは難しいというお話でしたが、今、市がやっているウェルカム事業ですとか、そういうところで他の自治体との人材取り合い競争にいかに勝つかということだと思うんですが、その辺りはいかにお考えですか。
松井:大阪市は今、吉村市長時代から例えば、府域外から保育士として大阪市に来ていただける、そういう方々には家賃補助を打ったり、いろんな形で人材確保をしておりますので。待機児童というのは全国それぞれの状況が違います。まったく待機児童いないエリアもあるわけで、ぜひそういう需要が少ないエリアから需要が多いエリアに、保育士資格を持たれた方はぜひ、保育士資格を生かせる仕事に就いていただきたいな、そう思ってます。
朝日放送テレビ:待機児童に関してなんですけれども、いろいろウェルカム事業とかされている中で、今年、吉村市長が発表してたものとしてはUSJの年パス程度のものを出すっていうような話もあったんですが、現時点でそういった目玉というかの政策を打ち出されたことの効果みたいなものは出ているのでしょうか。
松井:そのことで要は人材が増えてると。
朝日放送テレビ:そうですね、問い合わせとかが増えているとか、申し込みが増えているというようなことは、現時点ではあるのでしょうか。
松井:それはちょっと具体的に、担当のほうどうですか。
B:年間パスポート、ウェルカム事業の件ですよね。それについては予算ベースしたときにも各自治体からいろいろと問い合わせのほうあります。具体的にこの事業については今後、特に西日本中心に各保育士の養成施設、われわれPR活動してまいりまして、保育士さん、こちらを探しに来ていただくようPR活動行ってまいりたいと思っています。これからやっていきたいと思っております。
正直なところ、ウェルカム事業は筋が悪いと感じています。「お笑いの街、大阪らしい」と言われてしまえばそれまでです。
保育士不足は本当に深刻です。2019年度保育所等一斉入所の募集数等を見ていても、保育士不足によって募集数を縮減したと推測される施設が少なくありません。
また、何人かの方からは「○○保育園の1歳児クラスの募集数が減ったのは、先生が全然採用できないからだ」という声を窺いました。
保育士の手厚い配置基準・待遇を向上した京都市
実は現在、保育士有資格者の3分の1しか保育所等で働いていません。残り3分の2の方が保育所等で働くには、どうすれば良いのでしょうか。
これを示唆する資料を京都市が公表しています。
大阪市と同じ様に京都市も待機児童対策に積極的に取り組んでいます。しかし、保育士採用に関する手法は少し異なります。
京都市は国基準を上回る保育士を配置し、年収を大幅に引き上げました。結果、京都市で働く保育士の離職率は政令市で最も低い8.2%に留まりました。
では、大阪市の保育士離職率は何パーセントでしょうか。20政令市中17位の14%という高水準です。
保育に必要な保育士を雇用するには、一旦採用した保育士に長く働き続けて頂くのは一番です。その為には離職率を減らす必要があります。
保育支援員制度によって保育士不足を補おうとする大阪市と、保育士の配置基準と待遇を見直して離職率を引き下げた京都市。どちらが園児の保育に資するでしょうか。
私は 市長に賛成です。
一定条件で保育従事者の要件を緩和し、そこから専門性を高めるのが現実にそくした対応だと思います。
保育の質について、有資格者数=ではありません。各園の保育環境・保育内容・安全対策などが大きく影響します。ダメな園にいけば、優秀な保育者でもどうにもならないのと同様に、優れた園にいけば、保育補助・異職種からの転職も保育に活かされます。
資格に執着するのは安全性よりも処遇への不満が大きい。まわりくどいことをぜず、保育士資格に補助金をつけるのが良いと思います。学者による効果の低い政策案が散財を招いている。ITビジネスまで参入してきてお金まみれ。さらに、小規模保育などは、保育士資格すら必要のない抜け道となり、専門学校講師と特定法人の関係も深く結びついている。結果、保育業界はカオス状態です。
大阪の考えに賛成です。園長・副園長・主幹保育教諭2名・主幹保育教諭代替(常勤)・標準時間対応保育士・90名以下の施設は、(休憩)保育士1名の配置が必要な制度となっています。配置基準に該当しない5名から7名の保育士がそろわなければ補助金が大幅に減算されてしまうのです。はじめに、そこに人数を費やしチーム保育にまで及ばない実態があります。代替保育士、休憩保育士、チーム保育の要件を緩和することで、受入数の拡大や職員の増員が期待できるのではないかと思います。保育の質は資格の有無は大切ですが、園の保育方針や保育環境も大きく左右します。良い園で働けば良い保育士に育つし、良くない園で働けばよくない癖がつくと思います。
少子化対策?地域貢献?保育の質の向上?どれを充実するにも保育士が必要です。それとも要件を緩和しますか?
保育士不足は、理想と現実のズレを物語っていると思います。
保育支援員、子育てを終えたお母さん達の経験をあてにするというのが怖い。自立ってことは子供は18歳以上?ざっくり20年前の子育てが通用すると思うのか。まだ、新卒の子達の方がアップデートされた情報を持っている。今の子育てで離乳食の最初は果汁から、とか自信満々に言われても困る。