保育士の配置基準の緩和策がまとまりました。果たして狙い通りの効果を上げるのでしょうか、そして保護者や児童にメリットはあるのでしょうか。
保育士確保へ朝夕1人や教諭活用 16年度から配置基準緩和
2015/12/4 20:23厚生労働省は4日、保育士の配置基準に関する緩和策をとりまとめた。規制緩和で深刻な保育士不足を和らげたい考えだ。今年度中に省令を改正し、来年4月から新ルールを適用する。
保育士2人以上の配置を義務付けている現行ルールを変更する。子どもの少ない朝夕に限り保育士1人に加え、研修を受けた保育ママなど資格を持たない人での保育を認める。子どもが多い日中に多くの保育士を配置して、手厚く保育できる効果が見込まれる。
配置する保育士数の3分の1以下ならば、幼稚園や小学校の教諭、養護教諭による保育も可能になる。幼稚園教諭は3~5歳児、小学校教諭は5歳児を主に保育し、養護教諭は年齢にかかわらず保育できる。幼・保・小が接続して保育や教育を提供しやすくなる。
今年10月時点で保育士の有効求人倍率(全国)は1.93倍と前年同月を0.43ポイント上回る。保育の受け皿整備に伴い必要となる保育士を確保するため、緊急的な措置として緩和を認めた。
とりまとめが行われたのは「第3回保育士等確保対策検討会」です。検討会へ「保育の担い手確保に向けた緊急的な取りまとめ(案)」が提出されており、報道されている内容と同一です。
保育の担い手確保に向けた緊急的な取りまとめ(案) をjpeg化(ここから以下引用)
取りまとめ(案)は(1)朝夕の保育士配置の要件弾力化、(2)幼稚園教諭及び小学校教諭等の活用、(3)研修代替要員等の加配人員における保育士以外の人員配置の弾力化で構成されています。
事業者の選択によって導入・あくまで時限的措置
なお、この要件緩和策は「平成28年度から事業者の選択により実施できることとする」とされています。全ての保育所で要件が一律緩和されるわけではありません。
また、「この措置は、あくまで待機児童を解消し、受け皿拡大が一段落するまでの緊急的・時限的な対応とする」ともされています。(少なくとも現時点では)未来永劫に渡って行われる対応ではない、とされています。
朝夕の保育士配置の要件弾力化
○各年齢で定める配置基準により算定される数が2人を下回っており、かつ、朝夕などの児童が少数である時間帯に限り、1人は保育士資格を有さない一定の者も活用可能とする。
○ 「保育士資格を有さない一定の者 」について は、質の確保の観点から、「保育士資格を有しないが当該施設等で十分な業務経験を有する者」「子育て支援員研修を修了した者」「家庭的保育者」など、適切な対応が可能な者に限ることとする。
○保育士の確保が難しく、一日のうち保育士2名体制を遵守した勤務シフト作成等の人事管理が困難な状況の中、児童が少数である時間帯について緊急的 に保育 士要件の弾力化を行うことにより、園児の多い日中のコアタイムに保育士資格者を集中的に配置することが可能となり、保育所全体でみて保育の質の向上につながる。
保育士確保が困難な事業者において有資格者を園児が多い日中に集中配置し、園児が少ない朝夕は保育士1名+無資格者1名でも差し支えないとする内容です。
「配置基準によって算定される数が2人を下回る」とはどういったケースでしょうか。保育所の場合では乳児のみなら5人、1・2歳児のみなら11人までとなります。中小規模の保育所や小規模保育施設では該当する時間帯がままあるのではないでしょうか。
保育所にお世話になっている保護者からの目線としては、児童がより少数かつ経験を重ねた保育士と適切な研修を受けた無資格者の組み合わせ、かつ緊急時には所長や管理者が適切に対応できる状態であれば、保育は回るのかなと感じます。
しかし、「保育士確保が困難な事業者」が、ベテラン保育士や緊急時対応が可能な所長等を配置し、適切なシフトを構成できるのでしょうか。一部の保育所では事業者自身がシフトを組めず、自治体に丸投げしていると聞きました。要件を弾力化する事業者は、裏返すと「保育士から避けられている事業者」と言えるでしょう。検討会でも「本特例について全ての園に認めるのではなく、運営に問題のある園には認めないなど、一定の条件が必要ではないか。」との指摘が出ています。
また、「保育所全体で見て保育の質の向上に繋がる」とは思えません。保育士の代わりに無資格者を配置するのが質の向上であれば、それこそ保育士制度の自殺です。
幼稚園教諭及び小学校教諭等の活用
○各教諭の活用に当たっては、幼稚園教諭については主に3~5歳児、小学校教諭については幼保小接続の観点から主に5歳児、養護教諭については現行の看護師等の取扱いと同様に年齢要件を設けないこととし、各教諭及び保健師・看護師・准看護師あわせて、配置する保育士の3分の1を超えない範囲内に限ることとする
○特に小学校教諭が保育を行う場合には、保育士養成課程における「保育課程論」・「保育の表現技術」(6単位)を履修することが望ましいが、少なくとも子育て支援員研修を受けるなど、保育を行う上で必要な研修等の受講を求めることとする
○幼稚園教諭や養護教諭についても、保育を行う上で必要な研修等の受講を促すこととする
○保育士の確保が困難な状況の中、保育士と近接する職種である幼稚園教諭・小学校教諭・養護教諭を保育士とみなし、限定的に認めることにより幼稚園教諭は3~5歳の教育、小学校教諭は幼保小接続の観点から、多様な者が加わることにより、保育所にとって効果的なものとなるとともに、事業者の採用及び人員配置の選択肢を増やすことにつながる
保育士の代わりに近接職種である幼稚園教諭・小学校教諭・養護教諭等を活用できる内容です。
多くの方が知っている事でしょうが、保育士と幼稚園教諭等は近接しながらも異なる職種です。取りまとめ案でも必要な研修の受講を求めています。であれば、むしろ近接職種の有資格者に保育士資格の取得を促すのが本筋でしょう。現に認定こども園では、保育士資格と幼稚園教諭免許を併有する「保育教諭」が求められています。
仮に認められるとして、本当に幼稚園教諭等が保育所で勤務するでしょうか。保育士不足の最大の原因は「低賃金」です。全産業平均のみならず、近接職種である幼稚園教諭等とも大きな差があります。そうした状況で、幼稚園教諭等が保育士として働く選択を取るとは少し考えにくいです。学校等の非常勤講師等、より賃金が高くて責任が軽い仕事があります。特に時限的な措置であれば、尚更保育所勤務は選びにくいです。
また、いざ自分の子供の担任が幼稚園教諭や小学校教諭等になったら、私は大きく戸惑ってしまうと思います。勝手が違うわけですから。子供も同様でしょう。
多様な保育という観点から、こうした近接職種の資格者が保育所へ加わるメリットは認めます。ただ、「保育士とみなす」のはデメリットの方が遙かに多く、また実効性も乏しいのでは無いでしょうか。
研修代替要員等の加配人員における保育士以外の人員配置の弾力化
○11時間開所8時間労働としていることなどにより、認可の際に最低基準上必要となる保育士数(例えば15名)を上回って必要となる保育士数(例えば15名に追加する3名)について、保育士資格を有しない一定の者を活用可能とする。
○保育士の確保が困難な状況の中、認可基準としての最低基準を満たしつつ、かつ、一定の要件の下、保育士資格を有しない一定の者の活用を可能とすることにより、保育士の勤務シフト等の人事管理を柔軟に行うことが可能になる(その際、日中のコアタイムの保育の質確保に最大限配慮することが必要)
最低基準を上回って必要とする保育士数の部分につき、無資格者も活用できるとする内容です。