先日、大阪市内で深刻な保育士不足が生じている旨をお伝えしました。

大阪市は深刻な保育士不足、保育士・園児の様子が分かる動画広告で募集中

これに対し、大阪市は保育士への補助制度を更に拡充する方針を固めました。

その一つとして、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などの年間パス費や帰省費等の補助」が検討されています。

USJ年パス・帰省費も補助 大阪市が保育士確保大作戦

大阪市は、他の都道府県出身者で市内の保育所に新規採用された保育士に、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などの年間パス費や帰省費を補助する方針を固めた。待機児童対策で保育所が急増する中、地方から保育士を呼び込む狙いだ。

具体的には、USJなどの年間パス費を2万5千円まで補助。帰省費は近畿外が6万円、大阪府以外の近畿1府4県の出身者には2万円を補助する。勤務先の保育所を通じて支給する仕組みで、新年度予算案に2800万円を計上する。

吉村洋文市長は待機児童ゼロを公約に掲げ、2018年4月現在の待機児童数は前年の325人から65人に減少した。一方、大阪市内の保育所が急増し、同年1月の府内の保育士の有効求人倍率は全国平均の3・38倍を大きく上回る5・13倍だった。

府内出身者だけでは、保育士確保が難しい状況になり、市は九州や四国などの短大や専門学校に聞き取り調査をして、学生のニーズを探っていた。

吉村氏は「保育士の獲得競争は過熱している。大阪市も負けないようにしたい」と話している。

https://digital.asahi.com/articles/ASM1K4W9DM1KPTIL01X.html

USJ年間パスは19,800円から購入できます。事業が想定しているのは、「ユニバーサル年間パス(25,800円)」でしょう。


https://www.usj.co.jp/ticket/apass/

大阪市は平成31年度当初予算案(要求段階)を公表しています。

新年度から新たに「保育人材確保対策事業(保育士ウェルカム事業)」が掲げられています。USJの年間パス費や帰省費を補助する事業となります。

こども青少年局(一般会計)予算事業一覧(12月12日要求段階)

同事業として新年度予算案では1926.1万円が要求されています(報道では2800万円が計上される予定とされているので、別の項目に紛れている部分もありそうです)。

報道で指摘されているとおり、大阪市内は深刻な保育士不足が生じています。これに対し、待遇を引き上げて応募数・採用数を引き上げるのは妥当な方法です。

引き抜かれる他県は大変

但し、気になる点もあります。一つは大阪市長が「大阪市内だけでは保育士を確保できない」という旨を発言した部分です。

既に大阪市内に居住している保育士資格保有者の採用活動は進んでいます。保育士としての就業を希望している大半の方は、既に働いているでしょう。大阪市が大阪市外・大阪府外へ目を向けるのは合理的です。

一方、目を向けられる方は大変です。待遇が良い大阪市や大都市圏の保育所に保育士が引き抜かれ、地元の保育所等が保育士不足に直面する恐れがあります。「大阪市に保育士を引き抜かれた」という怨嗟の声が聞こえてきそうです。

また、USJの年間パス費や帰省費を補助するのは合理的でしょうか。USJに興味が無い方もいるでしょう。「USJ年間パスで保育士を釣るのか」という指摘もあります。

であれば、端的に給与という形で補助すべきではないでしょうか。

こうした方法を利用しても、大阪市内での保育士採用は今後も難航すると考えられます。新卒者の採用や有資格者の再就職を促進するのに加え、保育士養成数その物を増やすべき段階かもしれません。

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(1/21追記)
メールを頂きました。地名等を伏せた上で一部を引用させて頂きます。ありがとうございます。

市内○○区の保育園に現在通園中です。保育士不足の問題は子供が通う保育園にも当てはまるようです。閉園時間の短縮が○月から行われる予定です。理由は保育士の退職。人材確保が難しい為となっています。

様々な保育所が保育士不足に直面している様子です。

USJ年間パス代や帰省費を補助するという手段はさておき、より多くの有資格者の就職を促す方法の一つとして「給与増」は効果的な方法の一つです。

1/23追記:USJ年パスは養成校からの要望、上限2年、制度を利用する保育所等へ補助

詳細が予算市長ヒアリング資料に掲載されています。USJの年間パス購入費等を補助するに至った詳しい経緯が明らかになりました。

この資料によると、他府県の保育士養成校の担当者等から「USJの年間パス等は都市部を希望する学生が大阪市を選ぶポイントになる」「年パスは学生が喜ぶ、家族を呼んで割安で利用できるので親孝行になる」「年パスもあるなら非常に良い」といった声があったそうです。

また、ヒアリング資料では「2年間補助する」とされています。また、「等」が付いているので、USJに限った事業ではありません(とは言え、年間パス費がUSJを上回る市内遊興施設が思い浮かびません)。

ただし、採用された全ての保育士が補助されるわけではありません。資料には「保育所等が市内遊興施設の年間パス購入費等に相当する額を支給した場合に保育所等に対して補助を実施」と記載されています。

つまり、この補助事業を利用する保育所等に採用された保育士のみがUSJ年間パス等購入費の補助を受けられる、と解されます。

では、どれだけの保育所等が利用するのでしょうか。

平成29年に行われたアンケートで興味深い回答がありました。大阪市新規採用保育士特別給付に対する補助事業(1-2年目に各10万円を支給)について、約半数の施設が「採用済保育士との処遇に差が出るので利用していない」と答えていました。

USJ年間パス等購入費の補助も同じ構図です。新規採用された保育士のみが購入費の補助を受けられ、それ以外の保育士は無し。面白いはずがありません。

不公平感を解消するには全保育士に同等の補助を行う方法が考えられますが、施設が負担する費用が高騰します。

事業を利用する施設として想定されるのが、不公平感を感じるベテラン保育士が少ない施設です。つまり、ここ数年中に開所した新しい施設です。採用に苦戦している施設も多く、一つの採用ツールとして検討されるでしょう。

そもそも年間パス等購入費を補助するに至った主な理由は、養成校等へのヒアリングでした。養成校等の担当者が「学生がUSJによく遊びにいく話を聞くから、年間パスがもらえたら嬉しいかも」と軽く答えたケースもあるでしょう。

仮に事業が実施されたら、一定の効果はあるでしょう。しかし、市内遊興施設に限られた使い勝手の悪い制度、そして事業費に見合った効果があるのか疑問です。