賛否両論が渦巻いています。保育士の子供が保育所等へ優先的に入所できる仕組み(「優先入所制度」という)の整備を求め、厚生労働省は各自治体へ通知を出しました。

保育士の子ども、優先して保育所に 離職防ぎ待機児童対策

厚生労働省は2018年度から、保育士の子どもが優先的に保育所に入れるようにする。入所の優先順位を高めるほか、保育士が自ら勤める保育所に子どもを預けることを認める。仕組みの整備を求める通知を市町村に出す。資格を持っていても働いていない「潜在保育士」は80万人いるとされる。保育士の子育てによる離職を防ぎ、待機児童対策を進める。

原則として18年度の入所申し込みから適用する。認可保育所は自治体への申し込み人数が定員枠を上回った場合、親の就労状況や子どもの人数などを見て優先順位を決める。今後は親が保育士の場合に、順位を上げる。

これまでも保育士が地元の保育所に勤めている場合に、子どもの入所を優遇する自治体はあった。優先順位を決めるための「ポイント」が、自分が住んでいない自治体で働く保育士の子どもも高くなるようにする。多くの自治体は保育士が働く保育所に自分の子どもを入れることを認めていないが、厚労省はこれも認めるよう自治体に指示する。

都市部では待機児童の問題が深刻だ。保育の定員そのものが増えなければ、他の利用者に影響が及ぶ可能性はある。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21759950R01C17A0MM8000/

通知「保育士等の子どもの優先入所等に係る取扱いについて」はインターネット上に公開されています。一部を引用します。

保育士等の子どもの保育園等への入園の可能性が大きく高まるような点数付けを行い、可能な限り速やかに入園を確定させることは、

・当該保育士等の勤務する保育園等が早期に当該保育士等の子どもの入園決定を把握して当該保育士の職場への復帰を確定させ、利用定員を増やすことを可能にし、保育の受け入れ枠の増加に大きく寄与するとともに、

・保育士等が妊娠・出産後、円滑に職場復帰できる環境を整えることにより、高い使命感と希望をもって保育の道を選んだ方々が、仕事と家庭の両立を実現しながら、将来にわたって活躍することが可能となり、保育士の処遇の改善にも大きな効果が見込まれることから、待機児童の解消等のために保育人材の確保が必要な市町村においては、このような取組を行うよう努めること。

優先入所制度によって復職希望者等が復帰を確定させ、利用定員を増大させる効果を期待しています。後半部分では保育士等の仕事と家庭の両立に触れていますが、これは他の家庭でも変わりません。

日経新聞の記事でふれられていないのは「待機児童の解消等のために保育人材の確保が必要な市町村においては、このような取組を行うよう努めること」という一文です。

この通知は「待機児童が生じている」「保育人材が不足している」自治体を念頭に発したものではないでしょうか。また努力義務です。つまり、全ての自治体に対して優先入所制度の導入を求めるものではなさそうです。

保育士等とその子供が同じ施設でもOK?

(1)保育士等が勤務している保育園等については、一律に当該保育士等の子どもを入園させない取扱いとしている市町村がみられるが、保育士等が勤務する保育園等に当該保育士等の子どもが入園できる環境を整えることは、保育士等の仕事と家庭の両立の実現や長期的な就業継続に大きく寄与することから、扱いに差を設けず、他の保育園等の場合と同様に入園の対象とすること。なお、その際、必要に応じて、当該保育士等の子どもを当該保育士等以外の者が担任を務めるクラスに入園させる等の配慮を行うことも考えられる。

保育士等が勤務している保育所等については、保育士等の子供を入所させないのが一般的だと聞きます。大阪市もその様な取扱いを行っていると聞きます(明文規定を探しているのですが見つかりません)。

これは身びいきを防ぎ、仕事と家庭が混在するのを予防する目的があるのでしょう。公立小中学校でも同様の取扱いを行っているとも聞きます。

しかし、通知はこうした取扱いを行わないように求めています。されども、私は反対です。最大の理由は「保育士等や保育施設が身びいきに気をつけても、子供は近寄ってくる」からです。

自分の母親(まれに父親)が保育士等として同じ建物内で働いていても、子供は「自分の親が近くにいてくれる!うれしい!そばにいく!」と感じるでしょう。いくら離しても近寄ってきます。親も仕事をしづらいです。配慮しても防げません。

また、他の保育士等・保護者も気を遣うでしょう。住んでいる地域の保育所等であれば、他の園児・保護者もご近所さんです。非常にやりにくくなるのは目に見ています。

例外的に認めうるのは、登園しうる保育所がその保育所しか無いケースです。過疎地等が当てはまるでしょう。

自治体を超えた優先入所制度

(2)保育士等の子どもの優先利用の実施に当たっては、・市町村の圏域を超えた利用調整の実施を行っていない市町村や・市町村の圏域を超えた利用調整は実施しているものの、当該保育士等の市町村内の保育園等への勤務を条件としている市町村が相当数存在するが、保育士等の中には、その居住する市町村以外の市町村に所在する保育園等に勤務する者も多数存在しており、当該保育士等について、その居住する市町村内の保育園等への勤務を条件とせずに市町村の圏域を超えた利用調整を行うことで、より多くの保育士等の職場への復帰が可能となり、当該市町村における待機児童の解消にも、広域的な待機児童の解消にも大きな効果が見込まれることから、こうした利用調整が行われるよう、積極的に各市町村間で協定を結ぶ等の連携・調整を行うこと。

大阪市は既に優先入所制度を導入しています。ただし、「大阪市内に居住し、市内の保育所等に入所を希望する、市内の保育所等へ勤務している保育士等」を対象とするものです。大阪市外の居住・入所・勤務、いずれかに当てはまると対象から外れます。

通知は居住する自治体以外の自治体の保育所等で働く保育士等も対象とする様に求めています。

確かに各保育施設が保育人材を採用しやすく効果はあるでしょう。しかし、問題もあります。「他自治体の保育人材の為に、入所できる可能性が下がる子育て世帯からの不満」です。

たとえば住んでいる自治体で保育人材を確保する為であれば、結果的には園児募集数が増えて入所しやすくなる効果が期待できます。

しかし、他の自治体での園児募集数が増えても、当該自治体にメリットはありません。子育て世帯は入所しにくくなるだけであり、強い不満の声が上がるのは明白です。

仮に導入するのであれば、特定の自治体間での相互優先入所制度が考えられます。人の行き来が一定程度ある自治体間において、互いに優先入所できるとするものです。

不安は制度利用者の増大・希望施設の偏り

とはいえ、不安もあります。優先入所制度利用者の増大です。

平成29年度入所から開始された大阪市の場合、申込者の1.37%が優先入所制度を利用しました(詳細はこちら)。制度がより周知され、かつ対象が看護師や養護教諭等に拡大される今年度は、より多くの方が優先入所制度を利用すると見込まれます。

また、優先入所を希望する保育所も偏っています。各地域の中核的な、駅に近い保育所が目立ちます。以前から多くの方が第1希望としており、優先入所制度によって更に入所しにくくなっています。全ての募集が優先入所で埋まったケースもありました。

優先入所制度自体には賛成です。しかし、他の入所希望者が過度に排斥されない様、何らかの縛りを掛ける必要があると感じています。無制限な優先入所制度は弊害を生みかねません。