大阪地裁とは反対の判決となりました。

生後4ヶ月の乳児は認可外保育施設で死亡した事件につき、大阪高裁は大阪市の責任は認めない一方、運営会社の責任は認めて5000万円余りの賠償を命じました。

うつ伏せに寝かされ死亡 2審は賠償命じる
11月25日 20時28分

6年前、大阪市の保育園で生後4か月の男の子がうつ伏せに寝かされたあと死亡したことについて、両親が、保育園を運営していた会社や大阪市に賠償を求めた裁判で、2審の大阪高等裁判所は、訴えを退けた1審の判決を取り消し、保育園を運営していた会社に5000万円余りの賠償を命じました。
6年前、大阪・都島区にあった保育園「ラッコランド京橋園」で、当時生後4か月だった棚橋幸誠くんがうつ伏せに寝かされたあと死亡し、両親が、保育園を運営していた会社や大阪市に合わせて6500万円の賠償を求めていました。1審の大阪地方裁判所は去年、「窒息死ではなく、眠っている間に突然死亡する乳幼児突然死症候群が原因だ」などとして、訴えを退けていました。
25日の2審の判決で、大阪高等裁判所の林圭介裁判長は「幸誠くんは、寝返りをしてうつ伏せになったことで鼻や口がふさがり、窒息死に至ったと推認できる」として、保育園を運営していた会社に5000万円余りの賠償を命じました。一方、大阪市については、「法律に基づく指導監督の趣旨を踏まえた措置を取っていた」として、1審に続き責任を認めませんでした。
判決について幸誠くんの母親の棚橋恵美さんは、「申し訳ないことをしたと自分を責め続けてきたが、これで息子にいい報告ができます」と話していました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151125/k10010319411000.html

ラッコランド京橋園事件

事件を時系列等でまとめました。

日時場所等出来事
H14.6.7ラッコランド十三園(大阪市淀川区十三本町2、現在は飲食店等が入居)ベッドで寝ていた生後4ヶ月の女の赤ちゃんが、口にビニール製のシーツがかぶさったままぐったりしているのを職員が気付き病院へ搬送。後に死亡。
H15ラッコランド京橋園(大阪市都島区東野田町5、現在は飲食店等が入居)開設
H19.9-21.9大阪市が保育士不足等を3年連続で指摘、改善勧告を行う
H21.11.17午前8時半頃に頃に幸誠ちゃんを預ける。保育部屋の床に寝かせられた後、11時50分頃に泣き声に気付いた男性職員が隣の部屋のベッドに寝かせた。約1時間後、幸誠ちゃんがうつぶせ寝のまま鼻血を出しているのに女性職員が気付き、病院に搬送したが、午後2時10分過ぎに死亡が確認された。死因は窒息。同園には全職員7人のうち保育士の資格者が1人しかいなかった。事故当時は不在だったため、無資格の職員2人(19歳男性、採用後1ヶ月の幼稚園教諭資格保有者25歳)が園児17人(乳児3人及び1-5歳児)を保育していた。
H22.3まで京橋園・十三園両園を自主的に閉鎖。
H23.5.24大阪地裁大阪市・運営会社の実質的経営者ら数人を相手取り、被害児童の両親が約6400万円の損害賠償を求める訴訟を提訴
大阪府警都島署元実質的経営者ら4人を業務上過失致死容疑で大阪府警都島署に刑事告訴
H23.5.31都島署は「相当処分」の意見書を付け、4人を業務上過失致死容疑で大阪地検へ書類送検
H24.1大阪地検嫌疑不十分として4人を不起訴
H25.9.13大阪検察審査会不起訴処分を不服として、両親が大阪検察審査会へ審査申立
H26.4.9不起訴相当と議決。「不起訴を覆すだけの証拠が認められない」と判断。
H26.9.24大阪地裁原告の請求を棄却する判決。「幸誠ちゃんは顔を横に向けていた」とする施設の職員の証言などを踏まえ、幸誠ちゃんはベッドのマットレスで鼻や口がふさがっている状態ではなかったと指摘。死因について乳幼児突然死症候群(SIDS)と認定し、予見可能性を否定、施設側の責任を認めなかった。

判決内容を不服とし、後日控訴。

H27.5.21大阪高裁施設で唯一の有資格者だった元保育士へ証人尋問。「午睡チェックもベットルームをのぞくだけ、赤ちゃんは、薄暗いベットルームで一日の大半を過ごしていたこと」と証言。(引用元)
H27.11.25施設の責任を認めなかった地裁判決を変更、運営会社側に約5000万円の賠償を命じる。裁判長は幸誠ちゃんがはき出したとみられる液体がマットレスに深く染み込んでいた点を重視。「顔を真下にした状態で鼻や口をふさがれ、窒息死に至ったと推測できる」と述べた。1審に引き続き、大阪市の責任は認めず。

両親や被害児童にとって厳しい民事・刑事手続の結果が続いてきましたが、大阪高裁で原告の請求が認められる判決となりました。地裁での乳幼児突然死症候群(SIDS)と認定した地裁判断を変更、SIDSではなく顔を真下にした状態に起因する窒息死と認定した様子です。

職員(特に有資格者)が不足していた

認可外保育施設での死亡事故が後を絶ちません。多くの場合は保育士や職員が少なすぎ、乳幼児の様子を見切れていないのが原因でしょう。児童福祉施設最低基準等では0歳児が概ね3人に1人、1-2歳児は概ね6人の1人の保育士(認可外保育施設では1/3以上が保育士or看護師)を配置する事とされています。

ラッコランド京橋園で事故が起きた当時、無資格の職員2人で園児17人を保育していたそうです。基準に照らすと、事故当時、少なくとも3人の職員(内1人は保育士)を配置する義務がありました。3歳児以上ばかりならともかく、乳児も含む17人を2人で保育するのは無茶苦茶です。しかも1人は19歳の男性であり、適切な知識・経験等に乏しかったでしょう。

保育士や保育所で働いている人間でなくとも、常日頃から保育所を利用していれば保育が大量のマンパワーを要する活動であるのは一目瞭然です。また、適切な知識や経験も求められます。

巻き込まれないためには

では、こうした事故に巻き込まれないようにするにはどうすれば良いのでしょうか。保護者目線で考えてみます。

残念ながら、「行政の監督・指導が行き届いて、十分な保育士が配置されている保育所へ入所する」のが一番の対策です。お世話になっている保育所では定期的に区役所等の担当者が巡回しています。また子育てで困った事があれば、馴染みの保育士に相談しています。実は「気軽に相談できる」のは保育所における大きなメリットだと感じています。

また、仮に事故・事件等が発生した場合、保育所・行政等の責任は一般的に認められやすいでしょう。京都市の春日野園事件の様に、行政による積極的な原因究明も期待できます。日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度の加入しているので、災害の程度に応じた見舞金・医療費等が支払われます(詳細はこちら)。

保育所でなくとも、認定こども園・地域型保育事業も保育所に準ずる基準によって監督等が行われています。今年度からは、こうした施設も多くが給付の対象となりました

認可外保育施設の選び方

しかし、保育所の定員には制約があり、入所を希望する全ての児童が入所できるわけではありません。また、開所時間も限られています。そうした方のニーズは認可外保育施設が受け入れているのが現状です。では、認可外保育施設を選ぶには、どうした点を気をつければ良いでしょうか。

真っ先に見て頂きたいのは「認可外保育施設最新立入調査結果」です。認可外保育施設指導監督基準に沿って作成された評価基準に基づき、立入調査を行った結果が記載されています。「基準を満たす証明書発行」が発行されていれば、少なくとも目に見える問題はないでしょう。

しかし、文書指導が行われ、かつ改善報告を行っていない施設はやや注意が必要です。特に「保育従事者が1人勤務の時間帯がある」「月極契約乳幼児数に対して有資格者が不足している」施設は要注意です。

なお、立入調査を行っているにも関わらず、事故等が発生した場合に行政の責任を求めるのは極めて困難です。知る限り、裁判等で認められた事例はありません。行政の関与・責任の度合いが、極めて大きな違いです(保育所での事故等の責任を行政へ追及できるわけではありませんが)。

最終的には各施設を見学し、相互比較するのが求められます。市内中心部で保育所へなかなか入所できない地域にお住まいの方からは「10カ所以上の施設を見学したが、安心できる施設は1-2カ所だけだった」という厳しい話も聞きました。

また、以前に投稿した認可外保育施設の探し方・選び方よい保育施設の選び方 十か条(厚生労働省)もご覧下さい。

改善勧告に従わない「おひさま保育園(都島区)」は閉鎖か

なお、以前に改善勧告に従わないとして取り上げた認可外保育施設「おひさま保育園(都島区)」大阪市認可外保育施設一覧から消えていました。立ち入り調査結果にもありません。ウェブサイトも消去されています。

おひさま保育園も事故が起きたラッコランド京橋園も、ともに京橋駅近くにありました。繁華街に近い地域は保育所が極めて少ないです。一方、夜遅くまで営業している飲食店等で働く親からは深夜保育・24時間保育への強いニーズがあります。親が小さな子供と夜を一緒に過ごせるのが望ましいですが、理想論に過ぎないのも現実です。

であれば、こうした地域に夜間保育所・夜間小規模保育等を開所するのも一つの考え方でしょう。日中の労働や適切な育児を促せるような、福祉的・職業紹介的な機能も有すると効果を挙げられるかもしれません。