「令和10年度以降の大阪府公立高等学校入学者選抜制度(案)」令和7年7月大阪府教育委員会会議にて議論され、了承されました。

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主な変更点は下記の通りです。

(1)一般選抜の学力検査日は3月1日
(2)ABC問題に共通問題を採用
(3)英語資格の読替率引下げ
(4)学校特色枠
(5)第2志望制

一般選抜の学力検査日は3月1日

現在は一般入学者選抜試験は3月11日ないし12日に行われています。その後に中学校で卒業式が行われ、3月19日頃に合否が発表されています。

令和10年度入試からは試験日が原則として3月1日とされ、概ね1週間後に合否が発表されます。卒業式までに進路が確定し、新年度までに時間的なゆとりが出来ます。

一方で様々な入試事務が前倒しされます。とりわけ、出願前に学年末の内申点を確定させる必要があります。中学校の先生方は大変です。

ABC問題に共通問題を採用

令和10年度入試でも、国語・数学・英語は3種類の難易度別問題が出題されます。ただ、各問題で「共通問題」が出題されます。

国語、数学、英語の学力検査問題については、A問題、B問題及びC問題の3種類を作成する。3種類の問題構成は、A問題は基礎的問題及び共通問題、B問題は標準的問題及び共通問題、C問題は発展的問題及び共通問題とする。

共通問題を導入する目的は「第2志望校での合否判定」です(詳細は後記)。

現状はどうなっているのでしょうか。令和7年度一般入学者選抜 学力検査問題及び採点資料等より、国語・数学・英語のABC問題を比較しました。

すると、国語はBC問題の漢字問題が一部共通、数学はAB問題で一部共通、英語はABで半分程度(長文とリスニング)が共通して出題されていました。隣接する難易度で共通する問題はありましたが、ABC問題で共通して出題された問題は見つけられませんでした。

A問題受験者とC問題受験者では学力に相当の開きがあります。ましてやC問題受験者は入念な受験対策を行い、学力をギリギリまで高めています。共通問題の難易度調整と配点は非常に難しいでしょう。

共通問題による影響は第2志望校に留まりません。英語資格による最低保障制度にも大きく関係します(後記)。

英語資格の読替率引下げ

英語資格による読替率が引き下げられます。提出者が多い英検2級が8割保障から7割保障へ、英検準1級は10割保障から9割保障へと変わります。

極めて難しいC問題を解くよりも英検2級取得の方が容易であり、しかも家庭の経済力による複数回受験という力業が可能という歪な制度となっていました。

中には英検2級を合格するまで8回も受験した子供の同級生がいました。準2級以下も含めると、受検料だけで10万円を超える計算です。

また、合格後は英語の学習を捨て、他4教科の受験対策に専念するのが合格への近道となっていました(多くの志望者が当日点で8割を超える一部高校を除く)。新入生に英語の学力が伴っていないと嘆く校長先生もいました。

では、果たして多くの時間や受検料を費やし、7割保障(満点90点に対して63点)へと引き下げられた英検2級を取得する価値はあるのでしょうか。強く関係するのが、先に記した英語共通問題です。

共通問題の配点は明らかにされていませんが、第2志望校での合否判定に必要な学力を計れる程度の配点が必要です。国数英で各20点として考えます。

現行制度における英語C問題の配点は、リスニング30点とリーディング60点です。共通問題とされるのはリーディングの一部でしょう。リスニングは考えにくいです。

英語共通問題はA問題受験者でも一定程度の点数が得られる難易度となるでしょう。圧倒的な学力差があるC問題受験者にとっては、容易に解ける難易度です。配点20点を得られると計算できます。

当日点にて英検2級による最低保障63点を獲得するには、共通問題を除いた70点分の問題で43点を獲得できれば足ります。共通問題以外の得点率は61.4%で済みます。

難易度によって左右されますが、過去に拝見した資料によると文理学科合格者の大半は英語C問題で50点以上の素点を得ていました。文理学科の授業についていける基礎学力かつ英語C問題に対する適切な対策を行えば、得点率61.4%を得るのは決して困難ではないでしょう。

英検による読替率の引き下げだけであれば、未だ英検資格を取得する実益は高いです。しかし、共通問題の難易度及び配点によっては、英語資格を取得する必要性が大幅に低下する恐れがあります。

学校特色枠

各高校の特色と受験生の興味関心のマッチングを図るべく、合格者決定の第1手順として「学校特色枠」が設定されます。

(3) 一般選抜において、合格者決定の第1手順として、学校特色枠を設定する。

生徒の個性や可能性を引き出すとともに、より各校の特色と受験生の興味関心とが合致する選抜制度とするため、新たに合格者決定の第1手順として学校特色枠を設定する。学校特色枠は、その枠に応募する者のみを対象とし、学校特色枠に応募しない志願者は、総合点による判定を行う。

学校特色枠の設定については、次のとおりとする。
ア 学校特色枠では、「学科の特性」「探究活動」「地域貢献」「文化的・体育的活動」など、各高等学校のアドミッション・ポリシー(求める生徒像)に応じた実施区分を設定して募集を行う。
イ 各校で設定できる実施区分は3種類までとする。
ウ 志願者が応募できる学校特色枠は1つとし、学校特色枠に応募する者は出願時に申告する。
エ 全日制の課程総合学科(エンパワメントスクール及びステップスクール)、定時制の課程及び通信制の課程においては、課程・学科等の特色を踏まえて面接を実施していることから、全ての志願者を対象にアドミッション・ポリシーを踏まえた選抜手順を別に定める。

https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/111282/hokoku1.pdf

学校特色枠への応募は任意です。応募者は各高校が定めた検査を受け、所定の手順(基準)によって合格者が決定されます。

5教科の学力検査を受検した後に第1手順としての学校特色枠による選考が、第1手順の合格者以外を対象とした第2手順としての総合点(学力検査の点数及び内申点の合計)による選考が行われます。

第1手順と第2手順の併願が可能という文言は明記されていませんが、両者とも学力検査を前提とし、かつ「第1手順と第2手順のいずれかを選択して出願する」といった文言はありません。当然ながら併願は可能でしょう。

学校特色枠へ応募するかは悩ましいです。各学校が求める生徒像・事前準備に掛かる労力・特色枠による合格可能性を慎重に吟味する必要があるでしょう。学校としては特色枠への応募を推奨したい一方、学力検査による手堅い合格を狙いたい塾は後ろ向きだと予想できます。

第2志望制

第1志望への出願後の志願者が定員を下回った高校を対象とした「第2志望制」が導入されます。第1志望校と同時に合否判定を行うので、「2次募集」とは明白に区別されます。

では、どれだけの高校が第2志望制の対象となるのでしょうか。令和7年度入試では約半数の普通科系高校が定員割れしました。これらは第2志望制の対象となります。

全日制高校128校の内、65校が定員割れ 大阪府公立高校一般選抜(令和7年度)

定員割れした高校にはいわゆる「進学校」は殆どなく、「非進学校」が中心です。

第2志望制の利用を検討するのは、主に「どうしても公立高校へ進学したい・させたい、私立はダメ。」と考える生徒・家庭でしょう。第2志望制の対象となる高校は少なくなく、受験戦略によっては私立高校の受験を回避できます。

一方、文理学科等の進学校を第1希望とする生徒・家庭にとっては利用しにくい制度です。令和7年度入試にて第2志望制としての出願を検討できたのは、寝屋川高校や八尾高校等と限られていました。

となると併願受験している私立高校の方が進学実績は高く、どの高校が対象となるか分からないという不確実性が付きまとう第2志望制よりも優先させやすいです。

デジタル併願制は見送り

今年4月、石破総理や吉村知事が「デジタル併願制」の導入を指示しました。本人の希望に基づき、各校の基準によって算出された成績上位者から合格校を決定する制度です。

「公立高校入試のデジタル併願制」 石破総理・大阪府の吉村知事が導入検討を指示(制度解説・資料あり)

本選抜制度改正案には「デジタル併願制」という文言や類推される考え方は含まれていません。第2志望制も当初案から変わりありません。

制度変更は現在の中学1年生の受験から

これらの変更点から、令和10年度からの入試は「中学校での授業や塾での受験対策がやや前倒しされる」「共通問題対策が必須」(落とせない)」「英検2級を取得しても安心できない、C問題対策は必須」「学校特色枠や第2志望制は大きな影響なし」と予想します。

現在の中学3年生や2年生は現行制度通りの受験となります。変わるのは、現在の中学1年生が受験する年度からです。受験対策等に若干の違いが出ます。

家庭にとって大きく影響するのは「英検2級の取得」でしょう。これまでは「強力なお守り」でしたが、令和10年度以降は「弱いお守り」となるのは避けられません。S-CBT等で何度も受験させる価値は希薄になると予想しています。

英検2級を取得した後に英語の学習ペースを落とすと、入試で痛い目に遭います。安心するには読替率90%となる英検準1級が必要でしょう。