こども家庭庁が発表した「保育所等関連状況取りまとめ(令和6年4月1日)」によると、全国で待機児童が最も自治体は大津市(184人)、2番目は西宮市(121人)でした。

保育所などの空きを待つ待機児童の数は全国的には減少していますが、関西ではことし4月の時点で891人と去年よりおよそ200人増えたことが厚生労働省のまとめでわかりました。
特に大津市など子育て世帯が増えている一部の自治体で急増していて保育士の確保が課題になっています。

厚生労働省のまとめによりますと関西2府4県の待機児童の数はことし4月の時点で891人で、3000人を超えていた10年ほど前に比べると減っていますが去年よりも192人増えました。
府県別に見ますと▽滋賀県で353人(+184人)▽兵庫県で256人(+15人)▽奈良県で135人(+51人)▽大阪府で111人(ー36人)▽和歌山県で22人(ー17人)▽京都府で14人(ー5人)となっています。
待機児童の数が多い市町村を見ますと▽大津市が184人で去年より178人増えて全国で最も多くなり、▽兵庫県西宮市も121人と去年より65人増えて全国で2番目、▽滋賀県守山市が去年より24人減ったものの58人で全国で4番目に多くなっています。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/osaka/20240902/2000087279.html

当ウェブサイトで何度も指摘している通り、待機児童数は保育所等への入所のしにくさを正しく反映していません。より正しく反映しているのは、申し込んだのに入所できなかった保留児童数から算出される「保留児童率」です。

大津市は保育所等待機児童数について(令和6年4月1日現在)を公表しています。これによると、令和6年度一斉入所では2,521人が申し込み、516人が保留児童となりました。保留率20.5%です。

https://www.city.otsu.lg.jp/soshiki/015/1410/o/62520.html

この保留率は大阪市の保留率19.9%とほぼ同一です。しかし、大津市の令和5年度一斉入所での保留率は13.0%に留まっていました。僅か1年で1.5倍となってしまいました。急激な変動に子育て世帯が戸惑っている光景が見えます。

大津市内で保育所等へ入所するのが最も難しい地域の一つであると考えられる、逢坂・中央学区(概ね大津市中心部)の数字を見てみます。大阪市だと中央区北部や北区東南部に相当する地域です。

https://www.city.otsu.lg.jp/material/files/group/10/R060401_oosaka.pdf

「1歳児申込数が232人、うち決定数が35人」という合計欄に驚くかもしれません。が、大津市は第1希望以下の累計希望数を合計希望数、そして各施設・年齢毎の決定数を合計決定数としています。純粋な申込数は第1希望の希望数に記載されています。

これによると、逢坂・中央学区の0歳児は申込数29人に対して決定数22人、1歳児は申込数67人に対して決定数35人と読み取れます。1歳児倍率が2倍弱と高い値ですが、大阪市北区東南部や中央区北部と著しい違いはありません。

また、入所するのにどれだけの点数が必要だったかは「最低審査区分」に記載されています。大阪市と同じ様に各家庭毎の状況を点数化して審査した結果、入所が決定した児童の中で最も低い点数を記しています。

「区分6」がフルタイム共働きのみ(大阪市だと200点に相当)、「区分7」がフルタイム共働きに若干の加点がある(同じく203点相当)、「区分8」はフルタイム共働きにきょうだい加点がある(同じく207点相当)と読み替えられます(詳しくは利用申込の手引き→利用調整基準の点数を参照)。

逢坂・中央学区で1歳児入所をするには少なくとも区分6(同200点)、多くは区分7(同203点)、一部の保育所等は区分8(同207点)や区分9(同209点相当)が必要となります。大阪市の上記地域より概ね高い点数が必要だという印象を受けました。

大津市の待機児童が全国一となった理由の一つには、同市の市域の広さも影響していると考えられます。大阪市の市域は約223平方キロメートルに対し、大津市は374平方キロメートルもあります。これに対して大阪市の時の区は269万人、大津市は34万人に過ぎません。

大阪市はほぼ全ての市街地が都市化されており、保育所等も万遍なくあります。自宅から一定時間内に登園可能な保育所等の有無という待機児童の定義に照らすと、大阪市では待機児童はほぼ発生しないのが現状です。

しかし大津市は市域が広く、登園可能な保育所等は限られています。琵琶湖によって市域が分断されており、市内の移動も決してスムーズではありません。別の地域の保育所等に空きがあっても、物理的に通えないという状況が生まれやすい地域性があります。

大津市は自然がまだまだ残っている地域です。それに加えて、地価が高騰する京都市内から多くのファミリー層が移り住んでいます。私にも結婚を機に京都市から大津市へ転居した知人がいます。ファミリー向けのマンションも数多く供給され続けています。そうした地域社会の変動に対し、保育所等の新設や保育士の採用等が追いついていません。

大津市は「保育士の確保を進めたい」としています。しかしながら、会社員と同様に保育士も給与水準が高い都市部での就業を選びがちです。大津に住み、京都で働く保育士は少なくないでしょう。給与水準が高い地域から低い地域へ呼び戻すのは容易ではありません。

ファミリー層の都市部からの移住による保育士不足とは、「母になるなら流山市」というキャッチフレーズが記憶に新しい、千葉県流山市を彷彿とさせます。

【6/13追記】「母・父になるなら流山市はやめろ」と「大阪市中心部で子供急増・教室不足」

保育所等の不足の次に来るのは「小学校不足」です。大阪市でも一部地域で深刻な状況となっています。