(事故が起きた南海中学校プール、高知新聞より)

事故は起こるべくして起きました。

新たに「亡くなった小学4年生は小さく生まれ、事故時の身長は約110センチだった」「最後に教員が児童の姿を確認したのは、プールに入った直後だった」「バタ足前に行ったプールサイドを蹴って水中を進む『けのび』に児童が参加した記憶が無い」ことが明らかになりました。

父親によると、男児は約1600グラムの低出生体重児で生まれ、身長は110センチほど。やせ形で浮きにくかったが、活発な性格で「プールは好きだった」という。(中略)

父親は学校から謝罪を受けたが、「(授業を受けた児童36人の)どの子が泳げないかを指導していた3人は十分把握していなかった」と伝えられたという。

男児が事故当日、プールに入る前に教頭へ「怖い」と話したことも知らされた。

水泳の授業では、バタ足の練習の前にプールの壁を蹴って水面を進む「けのび」の練習があったが、男児がいつ確認できなくなったか分からない、と説明されたという。

https://digital.asahi.com/articles/ASS793RWGS79PLXB01BM.html

 バタ足の前に行われた「けのび」の指導では、児童たちは壁を蹴って進み、前方で先生に受け止めてもらう。

ただ、市教委が、この授業で指導や子どもの安全監視にあたっていた教頭と学級担任2人の教員計3人から聞き取ったところ、いずれも男児の記憶がないとしたという。

教員たちが男児の姿をプールで最後にはっきりと確認したのは「児童たちがプールに入った最初のころ、飛び込み台に近い浅いエリアにいる姿だった」という。

https://digital.asahi.com/articles/ASS793VWTS79PLPB001M.html

これらの情報を組み合わせると、非常に恐ろしい様相が浮き上がってきました。

泳ぎが苦手な身長110センチの児童が水深114~132.5センチのプールへ

初めに身長問題です。児童は1600gという低出生体重児として生まれたので、小学4年生でも身長が約110センチしかありませんでした。概ね5歳6か月の平均身長に相当します。目立って小柄です。

日常生活や授業(特に体育)でも苦労があったでしょう。それを周囲の児童や先生方の協力によって乗り越えてきた筈です。取材に対して児童の父親は「うちの子は学校も先生も大好きで信頼していた。」とも話していました。

しかし、南海中学校で行われたプールの授業では配慮がありませんでした。中学校プールの水深は114~132.5センチです。

ここに身長約110センチの児童が入ったらどうなるのでしょうか。最も浅い場所でも頭が水面下に沈みます。深い場所では手を挙げても水面上に達しません。

溺れても誰かが気付くのは難しいです。水中でもがきながら、ゆっくりと水底へ沈んでしまいます。5歳児が中学生用プールで泳ぐ姿を想像して下さい。

プールサイドを蹴って進む「けのび」の練習

水泳の授業で初めに行ったのは、プールサイドを蹴って水中を進む「けのび」でした。しかし、教員は誰1人として「けのび」の練習に児童が参加したという認識を有していません。

また、「けのび」の練習では水中を進んだ先にて先生が受け止めるものとされていますが、当該授業では受け止めていませんでした。

仮に児童が「けのび」で水中を進んでも、進んだ先には誰もいませんでした。水深は132.5センチです。水面上に顔が出ず、周囲に誰もおらず、水中でゆっくりと溺れてしまった可能性があります。

沈んでいる児童をバタ足練習中の児童が発見

「けのび」の次はバタ足の練習が行われました。じかし、「けのび」と同じく、児童がバタ足の練習に参加していた姿は誰一人として見ていません。。

その後、バタ足の練習中に深い場所に児童が沈んでいるのを他の児童が発見し、児童2人がプールサイドに引き上げました。プール内で指導していた教員は、当該児童の姿が見えない事に全く気づいていませんでした。

児童が発見されたのはバタ足の練習中でした。しかし、バタ足や「けのび」の練習に参加した姿は誰1人として記憶していません。

また、児童が見つかった場所はプール内の深い場所でした。バタ足の練習中には行かない場所です。

主たる事故原因は「中学校プールを使用する」という意思決定

これらの経緯から考えるに、事故が起きた最大の原因は「小学4年生、しかも低身長の児童が在籍しているクラスが、中学生用プールで水泳授業を行った」に尽きます。先にも記した通り、5歳児が中学生用プールで水遊びをするようなものです。溺れない訳がありません。

しかも当該児童は水泳が苦手なグループに属し、その中でも更に苦手とされていました。事故までに2回行った授業でも教員に抱きかかえられ、事故直前には教頭先生に「怖い」と漏らしていました。

事故が起こり得る予兆はそこかしこにありました。どうして教員がこれらを無視し、中学校プールにて3回目の水泳授業を実施したかに強い疑問を感じます。

通常であれば、少なくとも誰かが「○○君は中学校プールで水泳を行うのは危険だと思う。何らかの対策が必要不可欠だ。」と主張できる筈です。その上で中学校プールでの水泳を中止する、専属の教員が傍に付く、小学校用プールで授業を行う1-3年生に混ぜて貰う、等の対策を検討し得ました。

規模が小さな学校なので、身長が一回り小さい児童の存在は全教職員や大半の児童が知っていた筈です。有名人だったでしょう。

プールの故障に際して中学校用プールを利用するというのは一つのアイデアでした。しかし、そこに当該児童の存在が欠落していました。認識できていたら、中学校プールで水泳授業を行う事の危険性は予見できました。

更に事故前に何度も危ない場面があったという報告が、学年団や教頭を通じて校長先生に上がっている筈です。

当時の監視体制も非難されるべきです。しかし最も重要なのは中学校プールで授業を行うと発案、市教委と協議・決断、更には危険性を認識・予見しながらも中学校プールを使い続けた意思決定です。証拠書類等が破棄されないか、心配です。

(7/11追記)
高知放送によると、南海中学校のプールを使用すると判断したのは中村仁也校長でした。

長浜小によりますと6月4日に小学校のプールのろ過ポンプの故障が見つかった後、中村仁也校長らが南海中のプール利用を検討するため翌5日に南海中に行き、プールの水深を測りました。

その際、一番深いところは120センチだったため中村校長は長浜小のプールの深さとさほど変わらないと判断し、高知市教育委員会の学校環境整備課に南海中のプール利用を伝えました。

そして、市教委と学校の間でそれ以上安全性に対する協議が行われないまま6日の中学校のプール利用が決まったということです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b1a5c01476e06d458abfcb2c72e71d142d9d484c

校長と同行者が南海中学校のプールの深さを測定したそうですが、いったいどうやって測定したのでしょうか。満水状態で正確な高さを測るのは不可能ですし、無水状態だと正確な水面が分かりません。プールサイド脇とプール中央部では水深も違います。

また、誰が同行したかも気になりました。中学校プールを使用する4-6年担任の誰かだと考えられますが、身長が低い4年生の存在を認識できていたのでしょうか。

高知市教委も歯止めを掛けませんでした。ただ、身長が低い児童の存在まで把握できていなかったと考えられます。

遺族対応及び証拠保全の観点から、中村校長は長浜小学校から外すべきです。事故に密接に関わっている可能性が濃厚です。