遂に決着しました。大阪府が掲げる「高校授業料完全無償化」につき、私学団体(大阪私立中学校高等学校連合会)と合意しました。

高校授業料の完全無償化、私学側が大阪府の修正案で合意…2024年度から実施へ

 大阪府が検討する府民対象の高校授業料完全無償化の制度案について、大阪私立中学校高等学校連合会の辻本賢会長らが9日、吉村洋文知事と府庁で面談し、私立高校への補助額の上限となる標準授業料(年60万円)を63万円に引き上げるなどとした知事案に合意した。現制度に参加する96校全てで所得制限なしの完全無償化が来年度から実現する見通しとなった。

 現制度は、年収800万円未満の世帯などが補助対象で、60万円を上回る分は学校が負担する仕組み。全世帯が対象となる新制度の素案では、標準授業料を据え置いたため、負担が増える私学側が反発していた。

 授業料が60万円を超えるのは96校中41校で現制度の負担総額は約9・5億円。知事案で負担が生じる学校は25校に減り、総額も約7・9億円に縮小するという。

 これとは別に、私学への経常費助成も生徒1人あたり約32万5500円から2万円程度を増やす。

 この日の面談で、辻本会長は「教育の自由と多様性の保障という理念が共有できた」と述べ、吉村知事は「子どもたちが『生まれて良かった』と思える教育を目指し、皆さんと歩みたい」と応じた。

 府は新制度案を9月府議会に諮る。実現すれば、2024年度に高3、25年度に高2と高3、26年度に全学年と段階的に実施されることになる。

https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20230809-OYO1T50041/

大阪府が「名」を取り、私学団体が「実」を取った交渉でした。

大阪府(具体的には吉村知事及び大阪維新の会)は「高校授業料完全無償化」を押し通しました。今後の選挙(特に国政選挙)で「大阪では高校授業料が所得制限無しで完全に無償化されました。」と有権者へアピールする事が出来ます。理念及び選挙に重要な「名」を取りました。

反対に私学団体及び私立学校は「大幅な支援拡大」を獲得しました。当初に大阪府が掲げていた案では、授業料キャップ制度による私立学校の負担額(標準授業料60万円を超える部分の自己負担)は9.5億から17億円へと増加する見込みでした。

しかし、標準授業料は63万円へと引き上げられます。これは私立高校の平均授業料(62万9,350円)を上回ります。標準授業料を超える学校は41校から25校へ減少し、私立学校の負担総額も約9.5億円から約7.9億円へと減少します。

全国最低水準だった「経常費助成」も引き上げられます。現行の32万5,500円から2026年度には約2万円程度が上積みされます。

 府は当初、標準授業料の年間60万円を超える分は保護者の世帯年収に関わらず全額学校負担とする制度案を作成。その場合、学校の負担総額は現行の計約9・5億円から同約17億円に膨らむ計算だった。これに対し、私学側から「教育の質を維持できない」との懸念が示され、府が修正案を提示していた。

 修正案では、標準授業料を現行の生徒1人当たり年間60万円から63万円に増額。私学経営を下支えする「経常費助成」も32万5500円から段階的に引き上げ、26年度までに2万円程度上乗せする。これにより、新たな標準授業料は府内の私立高校の平均授業料(22年度で62万9350円、施設整備含む)を上回るほか、全国で2番目に低かった経常費助成も全国標準近い水準となる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/06413c7da8546015d477bb23031eff5f9dc916a0

令和5年5月1日時点で大阪府内の私立高校には91,504人が在籍中です。経常費助成の上積み額は18億3,008万円となります。

この2つを合わせると、私立学校への助成額は現行より約20億円も上積みされます。私学団体としては笑いが止まりません。映像にも現れています。


https://digital.asahi.com/articles/ASR8971R7R89OXIE02R.html

私学団体幹部が笑顔でいっぱいです。関係者がこれだけ笑っている姿を私は見た事がありません。

辻本会長も大満足です。

 9日、吉村洋文知事と意見交換した同連合会の辻本賢会長は「英断に感謝している」と府の対応を評価した。現行制度には府内の全日制私立高校97校中96校が参加している。

https://news.yahoo.co.jp/articles/06413c7da8546015d477bb23031eff5f9dc916a0

邪推すると「焼け太り」です。

懸念も指摘されています。

「公立高校と私立高校に通う子どもの数の割合は、2010年頃には7対3だったものが、現状6対4になって、私立高校が4で、少し増えているという状況があります。『私立はタダになるからいいじゃないか』という声があると思いますが話はそう簡単ではありません。今回はあくまで授業料が無料になる制度です。私立高校は入学金だけで平均約20万円かかります。公立高校だと入学料として5000円台で済みます。また、タブレットも公立高校は無償で貸与されますが、私立高校は買わなければなりません。修学旅行も公立よりも私立の方が海外に行くこともあるので高くなります。所得制限がある今までの無償化制度の中でも、私立高校の校長先生に聞くと、すでに『修学旅行にお金ないので、僕は行きません』というような生徒がいるという現状があります」

「私立高校は、関係者によると年間50万円ほど費用がかかるそうです。授業料を除いた額では合計3年間で150万円かかります。公立高校は授業料なども含めて年間で約10万から13万で、3年間で30万から40万円の負担だそうです。所得があまり多くない世帯の子どもの中で費用面から私立学校に行けず、選択肢が狭まっているという状況があります」

https://news.yahoo.co.jp/articles/1b7d12614cd3db2c0a461be576f8dd563d86d557

無償化されるのはあくまで授業料です。私立高校ではそれ以外の入学金や諸経費といった費用が掛かります。大まかに年間50万円、3年間で150万円も掛かります。無償で私立高校で学べるわけではありません。様々なお付き合いにも多くの費用が掛かるでしょう。

一方で公立高校は3年間で30万円~40万円です。負担感が全く違います。我が家も子供には「公立高校に進学して欲しい」と話しています。

既に実施されている私立高校無償化によって、様々な所得階層の出身者が私立高校で学んでいます。上記記事で指摘されている通り、修学旅行の費用に困窮している生徒もいます。選択できるクラブ活動が費用面で制限されていたり、中にはクラスTシャツの作成に反対する生徒もいるでしょう。

2026年から完全実施される見通しである授業料完全無償化の対象は、世帯所得が平均以上の世帯です。事実上、子育て世帯間の格差拡大政策です。同時に大阪維新の会の支持層と重なります。

最も大きな恩恵を受けるのは、当初から私立高校への進学を考えていた平均所得以上の子育て世帯でしょう。浮いた授業料を生活費・貯金・レジャー代・学校外教育費等に充当できます。

見逃せないのは中学受験です。中学校3年間の授業料はフルに支払う必要がありますが、高校3年間の授業料は無償化されます。中高一貫私立校に掛かる費用が大きく削減される事により、私立受験熱が加速するのは間違いありません。

反対に割を食うのは公立高校への進学者です。公立高校を数校見学しましたが、どこも建物や設備が非常に古いという印象を受けました。大阪府が重要視している文理学科設置校ですら同様です。

私立高校の設備等は非常に充実しています(例外はあるでしょうが)。高校生には勿体ないぐらいです。公立高校とは雲泥の差です。いくら私立高校は多額の授業料を徴収しているとは言え、この差にはモヤモヤしたものを感じました。

中学校での進路指導にも影響が出るでしょう。私立高校と公立高校での経済的負担が縮小した事により、私立高校への進学を希望・容認する家庭は増えます。いわゆる「私立専願」での受験です。

厳しい受験勉強ではなく、事前相談と大きく関係する中学校での実力テストを重要視する事になるでしょう。府立高校の受験者は確実に減ります。

大阪府が率先している府立高校の統廃合は加速します。特に人口減少地域・府周縁部にあって進学を意識しない府立高校は続々と消えていくでしょう。私立高校授業料完全無償化は事実上、中学生を私立高校へ誘導する政策です。