炎上質問を行った大家敏志参院議員自民党ウェブサイトより
岸田首相の答弁が批判を浴びています。
問題の発端となったのは、自民党を代表して大家敏志参議院政策審議会長代理が行った代表質問です。自民党ウェブサイトに掲載されています。文字起こしした物と同一です。
岸田総理は施政方針演説において、「構造的な賃上げ」政策の一環として、新たな分野で活躍するための能力・スキルを身につけること、いわゆるリスキリング支援を位置付けておられます。企業経由が中心となっている在職者向け支援を、個人への直接支援中心に見直すことなど、意欲的に取り組んでいくことは極めて重要です。岸田総理、ぜひともご検討いただきたい新しいリスキリング案を、私からお示しいたします。
子育てのための産休・育休を取りにくい理由の一つが、一定期間仕事を休むことで昇進・昇給で同期から遅れを取ることだと言われてきました。しかし、この懸念を乗り越えるために、産休・育休の期間にリスキリングによって、一定のスキルを身につけたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、子育てをしながらもキャリアの停滞を最小限にしたり、逆にキャリアアップが可能になることも考えられます。
大胆なこども政策を検討する中で、たとえば、このような方々への応援として、リスキリングと産休・育休を結び付けて、産休・育休中の親にリスキリング支援を行う企業に対して、国が一定の支援を行うなど、親が元気と勇気をもらい、子育てにも仕事にも前向きになるという、2重・3重にボトルネックを突破できる政策が考えられるのではないでしょうか。
この政策によって、結婚・育児期に女性の就業率が低下するいわゆる「M字カーブ」や、出産時に退職、または働き方を変えて、育児後は非正規で働くようになる、いわゆる「L字カーブ」の解消にも資するものだと考えます。
今ある仕事が、近い将来、AIに取って代わられることも予想され、私たちのキャリアにとって、リスキリングが「当たり前」になる時代が来る中、私が提案したような、リスキリング支援メニューの拡充が必要になるのではないかと思いますが、総理のお考えをお伺いいたします。
https://www.jimin.jp/news/policy/205091.html(太字部は独自に強調)
これに対する岸田首相の答弁です。
子育て世代に対するリスキリング支援と女性の就労の壁を取り除く取り組みについてお尋ねがありました。政府としては人への投資の支援パッケージを5年で1兆円に拡大しリスキリングへの支援を抜本的に強化していく中で、育児中など様々な状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押ししてまいります。
長い代表質問に対して、答弁はややあっさりしています。
両者をよく読むと、微妙な食い違いがあります。大家議員は「産休・育休の期間に」「リスキリングと産休・育休を結び付けて」と発言しています。「産休・育休中のリスキリングを」と明確に指摘しています。
これに対し、岸田首相は「育児中など様々な状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押し」と発言しました(動画から一言一句を確認済)。この部分において、岸田首相は「産休」や「育休」という言葉を一切用いていません。「育児中など」と発言したに留まっています。
岸田首相の発言が炎上した主な理由は、多くの方が「産休や育休中にリスキリングができるわけがない、子育ての実情を何ら知らない」と受け止めた点にあるでしょう。
しかし、「育児中」となるとニュアンスがやや違っています。「育児中」には様々なステージがあります。育休中の世帯、保育所等を利用して復職した世帯、子供が小中学生に成長した世帯、全てが「育児中」です。我が家もこうしたステージの真っ只中にあります。
育児中でもそれ以外でも、様々な方が学び直しを行うのは賛成です。スキルアップや賃上げを目標とする方もいれば、自己実現を通じた人生の充実を図る方もいるでしょう。
ただ、育児中は非常に忙しいです。自分の学び直しを行う時間はなく、目の前の仕事や育児や家事で精一杯です。自分の事は二の次です。
ただ、子供が成長するに従い、少しずつ時間に余裕が出てくるのも事実です。我が家の場合は子供が年中~年長や小学校2年生以降になった頃にやや落ち着き、夜もしっかり眠れるようになりました。
こうしたタイミングで政府から「もし良かったら、学び直しをしませんか?」というメニューが提示されると心が動きます。初めは1日20分ずつから始めよう、結果が残らなくても学んでみよう、様々な思いが頭を過ぎります。
1月30日の衆院予算委員会で首相が同趣旨の補足を行っています。
岸田文雄首相は、育児休業中の人たちのリスキリング(学び直し)を「後押しする」とした自らの国会答弁が批判されていることについて、「あらゆる(ライフ)ステージにおいて、本人が希望したならば、リスキリングに取り組める環境整備を強化していくことが重要だという趣旨で申し上げた」と述べた。
参院本会議での答弁もこうした趣旨でした。
岸田首相が勇み足だったのは、「育児中」と例示してしまった点です。「育児中でもリスキリングしろ、さもなければ賃上げはしない」と受け止められない発言でした。「強化していく中で、様々な状況にあっても…」とすれば何ら問題はありませんでした。
問題視すべきなのは大家議員の質問です。産休・育休で疲弊している子育て世帯の実情を全く勘案せぬままに質問を行いました。質問を作成するプロセスにおいて、自民党内から「産休や育休中にリスキリングは無理だ」という指摘がなかったのでしょうか。また、首相官邸との摺り合わせはできていたのでしょうか。
もしもどこからも問題視する指摘がなかったのであれば、この発言こそが政権与党の体質を示す物となってしまいます。
中には育休中や産休中にもリスキリングできる方がいるでしょう。代表的なのは自民党の松川るい参院議員です。
可能な方は、育休中にも堂々とリスキリングする機会を享受してもらいたいし、周りの方はそれを批判しないでというのが私の偽らざる気持ちです。私自身、育休中に金融・投資、経済の勉強をさせてもらいました。娘を育てる以上のことができて良かったと思っています。「時間」が人の究極の資源ですから。
— 松川るい =自民党= (@Matsukawa_Rui) January 29, 2023
羨ましい限りです。四天王寺中高→東大→外務省→参院議員を務めている方の体力や知力と一般人のそれは比較になりません。そこまで強い人間は極一部です。
一般化されてしまうと、「産休中や育休中にリスキリングを行うべき」という風潮に繋がりかねません。