2年前の1月に大阪市平野区の市営住宅から7ヶ月の乳児が突き落とされた事件を覚えていますか?

背後事情や対策等を検証した報告書が公開されました。

乳児落とされ死亡 大阪市虐待検証部会“ 情報共有が不十分”

大阪市の児童虐待への対応を検証する有識者の部会は、おととし、生後7か月の赤ちゃんが団地の階段の踊り場から落とされて亡くなった事件について、母親から子育てに関する相談がたびたび市などに寄せられていたにもかかわらず、対応や部署間の情報共有が不十分だったとする報告書をまとめました。

大阪市内では、おととし1月、生後7か月の赤ちゃんが団地の階段の踊り場から落とされて亡くなり、殺害した罪に問われた母親に対して大阪地方裁判所は、「育児や家事の疲労が蓄積するなか、行政機関などに何度も助けを求めたが、適切なサポートが得られなかった」などと指摘しました。(以下省略)

https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220801/2000064469.html

報告書は大阪市ウェブサイトに掲載されています。

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この事件は発生直後やその後の経緯等を当サイトでお伝えしました。

【毎日新聞より・2/18追記】「誰か止めて」ワンオペ育児の果て、乳児を殺害した母の告白 大阪市平野区(執行猶予付き判決)

【ニュース・2/19追記】0歳女児を9階踊り場から転落させ殺害 母親を逮捕→執行猶予付判決 大阪市平野区

本報告書で明らかになった点

容疑者本人に知的障害があった旨は報じられていました。それに加え、第1子と第3子が療育手帳所持、第1子~第3子が要保護児童対策地域協議会(要対協)に「虐待種別:ネグレクト、リスク評価:虐待の恐れあり)」として登録されていました。

亡くなった第4子を出生する前から、育児環境は極めて深刻でした。第4子にも高度の虐待リスクが存在するのは明らかでした。公言できずとも、担当者レベルでは「出生しても、適切に養育するのは不可能だ」という認識があったのでしょう。

ただ、担当者や家族等と相談の上、産む事を決意しました。出産前には第3子をショートステイで預けるなど、可能な限りの環境を整えていました。

出産直後に第4子も要対協に登録されました。種別は第1子等と同じです。

事態が悪化したのは生後3ヶ月の頃でした。第3子の体調不良が長引いているのに加え、母や父方祖母も体調を崩し、養育が困難となってしまいました。第3子のショートステイも滞り、様々な負荷が母親に集中し出しました。

日が経つにつれ、事態は更に悪化します。第4子の育児すら困難となります。母親は保育所等への入所を希望(区役所も推奨)しましたが、父方祖母が反対しました。

ネグレクトは深刻化していきます。第4子の入院先から区役所へ汚れに関する相談が寄せられました。既に適切な育児を行えなくなっていました。出生前から悲観視されていた通りです。

生後5ヶ月頃には鬱が進行していました。第4子を預けたい母親と手元で育てたい父方祖母・父の間で意見が対立します。板挟みとなり、ますます追い詰められてしまいます。

母親の考えも不安定です。「預けたい」「預けたくない」「手元で育てたい」等、コロコロと変わります。精神が安定していません。

事態が急激に悪化したのは生後7ヶ月の頃でした。第4子に加え、父・父方祖母・第3子がインフルエンザに感染しました。全ての家事・育児・看病負担が母親に集中し、パニック状態に陥りました。この4日後に事案が発生しました。

本事案ではこども相談センター(児童相談所)・平野区子育て支援室・同地域保健活動担当が母親と頻繁に電話連絡等を取り合っていました。不在という日もありましたが、連絡体制に不備があったとは受け取れませんでした。人手不足の中、水準以上の対応を行っていたと感じました。

ただ、報告書でも指摘されている通り、第4子に関して要対協実務者会議で取り扱われた形跡がありません。虐待リスクがある新生児の育児は慎重な対応が不可欠です。より広い範囲で情報が共有できていたら、より切迫感のある対応が行えたかもしれません。

本事案のポイントは、下記の点にあります。知的障害及び虐待リスクがある母親に、多大な家事・育児・看病負荷が掛かってしまった点です。本人の処理能力を遙かに超えてしまいました。

私も自分の能力を遙かに超える処理量を要求されてしまうと、何もかもが嫌になってしまう事があります。特に体調不良や他事で忙しい歳に、子供達から全く違う内容の要求を同時に出されると辛いです。

区役所の担当者は家族の実情を知っている筈です。第3子や第4子の育児で悩んでいるのに加え、複数の家族がインフルエンザに罹患したら、本人が対応しきれないのは自明でした。

後から振り返ると、積極的に対応すべきポイントはここでした。一時保護に反対する父親の意見を退け、保護を行うべきでした。

母親の責任がクローズアップされがちですが、父方祖母や父の印象は非常に悪いです。報告書を読む限りですが、文句を言うばかりです。様々な負担に思い悩む母親に全く寄り添っていません。

しかしながら、区役所等は祖母や父へのアプローチには消極的でした。専ら母親を介してやりとりしていました。この連絡仲介役に母親が疲れ果ててしまった側面もあります。

7ヶ月の乳児を突き落とした母親の責任は重大です。が、周囲(特に家族)の手助けが余りに不足していました。

大阪市にはこうした家庭が少なくありません。要対協登録件数は約6,300件、その内700件が平野区です。

職員増員等による積極的な関与が必要です。が、本家庭の様な実例を見てしまうと、積極的な関与によってどれだけ事態が好転するかと悲観的な思いも抱いてしまいます。