昨年1月、大阪市平野区の市営住宅から乳児を突き落として殺害した疑いで母親が逮捕された事件を覚えていますか?

【ニュース・2/19追記】0歳女児を9階踊り場から転落させ殺害 母親を逮捕→執行猶予付判決 大阪市平野区

結審後に勾留が取り消された被告が、毎日新聞のインタビューに答えています。

「誰か止めて」ワンオペ育児の果て、乳児を殺害した母の告白
https://mainichi.jp/articles/20210210/k00/00m/040/177000c

毎日新聞には事件に至る経緯が細かく掲載されています。

知的障害がある母親と4人の子供

事件前、知的障害があった被告は重い家事と育児に苦しんでいました。

 平野区は大阪府八尾市に隣接し、大阪市の南東部にある。被告は当時、40代の夫と70代の義母、生後7カ月~11歳の子4人と一軒家で暮らしていた。

 被告には中程度の知的障害があり、気持ちを伝えたり、計算や片付けをしたりすることが苦手だったが、義母に支えられながら育児に励んだ。長男にも知的障害があり、次女は難病を抱えて一時入院した。片道40分近くを電車で乗り継ぎ、入院中の次女に母乳を届けるなど、懸命に愛情を注いだ。

 19年6月、三女が生まれ、育児の負担が重くなった。「次女と三女が同時に泣き始めると手がつけられなかった。眠れず、ひどい頭痛になった」と被告は振り返る。食が細り、体重がみるみる落ちた。10月、区の保健福祉センターに勤める保健師に「しんどい。もうふらふら」と吐露した。

ただでさえ乳児の育児は負担が非常に重いです(思い出したくない)。それに加え、知的障害がある長男や難病を有する次女の育児も重荷となっていました。同居している姑や夫の手助けを得たとしても、全く手が足りません。

2人が同時に泣き始めると本当に辛いですね。私も経験があります。思い出したくありません。

区の保健福祉センターに勤める保健師に相談したのは、恐らくは区役所等で行われる3か月健診の際でしょう。記入した用紙に「困っている事、相談したい事」を記入する欄があったのを覚えています。

相談を受けた平野区役所は、被告の家族関係を把握していた筈です。本人の知的障害、そして知的障害・難病・新生児という子供を抱えていたら、育児ノイローゼになるのも当然です。

姑と夫がインフルエンザでワンオペ、そして事件が

年明け後、事態は一段と悪化しました。育児や家事を分担していた姑や夫がインフルエンザに罹り、全ての負担が被告にのし掛かってきました。

被告や夫は平野区役所保健福祉センターへ相談しましたが、十分な対応が行われませんでした。

 年が明けると、状況はさらに深刻になった。夫や義母ら家族4人がインフルエンザにかかり、被告は1人で育児や家事をこなす「ワンオペ」状態に。20年1月16日、保健福祉センターを訪れ、三女の一時保育施設を探してもらうよう相談した。夫も同18日、民間の乳児院に一時預かりが可能か問い合わせたが、翌週まで空きがなかった。「この子さえおらんかったら」。そんな思いが強くなっていた。事件が起きたのは、その翌日のことだ。

その数日後、事件は起きました。

 19日午前10時半ごろ。日曜日の住宅街に、救急車のサイレンが鳴り響いた。市営住宅の公園で三女が倒れており、間もなく死亡が確認された。大阪府警は「子どもが転落した」と自ら通報した被告を、殺人容疑で逮捕。当初、「突き落としてはいない」と否認したが、その後、容疑を認め、「反省と後悔の気持ちでいっぱいです」と供述した。

4階から突き落としても死なず、今度は9階から突き落としました。ほぼ即死だったそうです。

住宅の4階付近と9階付近から2回、立て続けに三女を落として死亡させていたことが分かった。

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200718/dom2007180006-n1.html

少なくとも被告は2度、夫も1度は平野区役所へ相談していました。家族構成等を鑑みると、状況は切迫していると判断できた筈です。

ここで区役所が適切に手を差し伸べていたら、事件は防げたかもしれません。区は「必要・適切な対応を取っていた」と主張していますが、事件を防ぐには全く不十分でした。

 事件は防げなかったのか。被告は区保健福祉センターの保健師に相談していたとされる。区は個人情報を理由に詳細を明らかにしなかったが、「必要・適切な対応を取っていた」との認識を示した。

虐待死が多発する平野区

実は平野区は乳幼児の虐待死が続発しています。2年前には両親に虐待された知的障害がある姉が弟を殺害した事件が発生しました。

【ニュース・6/14追記】長女が3歳弟を殺害 両親は長男監禁 長男長女は知的障害 大阪市平野区

他区でもこうした事件は発生しますが、平野区の様に多発しているわけではありません。同区は市営住宅が非常に多く、様々な事情を有する子育て世帯が少なくないのが実情です。

これに対し、平野区役所や区内にある児童相談所のマンパワーは十分でしょうか。本事件では区役所の対応が十分とは言い難いです。きっと危険性は薄々と認識していたものの、人員に限界があったのかもしれません。

私も追い詰められた数年前に区役所へ相談に行きましたが、非常に冷たい対応をされました。決して忘れないでしょう。

事件は氷山の一角

帰宅した被告は事件を強く悔いています。

 被告は取材に、「1人で何でも抱えようとして、周りからの(支援の)手を避けてしまっていた。自分がぎりぎり(の状態)だと気付けなかった」と振り返る。夫は「罪を背負うのは自分も一緒。仕事、仕事で子育てに参加できていなかった」と悔やんだ。

 自宅の仏壇には三女の写真が花とともに供えられている。「ごめんね」「これからも見守っていてね」と語りかけ、毎日手を合わせているという。判決は2月18日に言い渡される。

子育ての形は家族によって全く違います。それぞれの事情を細かく汲み取った上、家族だけでの子育てが難しいと判断したらすかさず手を差し伸べるべきでした。

この事件は恐らくは氷山の一角です。様々な事情で厳しい子育てに追い込まれている方は少なくありません。そしてコロナ禍が拍車を掛けています。

こうした事件を防ぐにはどうすれば良いのでしょうか。被告は「ぎりぎりだと気づけず、支援の手を避けてしまった」と話しています。

周りからの(支援の)手を避けてしまっていた。いっぱいいっぱいで、自分がぎりぎり(の状態)だと気付けませんでした。

ワンオペで気が張り詰めていると、自分がぎりぎりだと認識できない気持ちは分かります。認識した途端、緊張の糸が切れてしまいます。

ただ、本当に支援の手が差し伸べられていたかは分かりません(ここは割り引いて聞いています)。

今から振り返ってすべきだったのは、「困っている」「助けて!」と声を上げる事だったと思います。

区役所の対応が不十分なら、病院・児童相談所・学校・保育施設・外部の支援組織等、様々な場所で窮状を訴えるべきでした。どこかで支援に繋がる可能性が増します。

追い詰められた以後、私は早めに「困ってる!」と声を上げる様にしています。

多いのは保育所や学校ですね。長年に渡って子供関係の仕事を続けている方ばかりなので、解決に繋がりそうな道筋(選択肢)を多く存じています。そこで紹介して頂いた外部の機関にお世話になりました。

また、追い詰められると人間は正常な判断ができなくなりますね。私自身もそうでした。そして、きっと被告も同様だったのでしょう。数年前の私は、被告と瓜二つだったのかもしれません。

判決は2月18日に大阪地裁で言い渡されます。

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(2/18追記)
母親に保護観察付きの懲役3年・執行猶予5年の判決が言い渡されました。

乳児殺害で母に保護観察猶予判決

去年1月、大阪・平野区で市営住宅の階段の踊り場から生後7か月の娘を落として殺害した罪に問われた母親に対し、大阪地方裁判所は、育児疲れなどで適応障害になり心神耗弱の状態だったと判断して、保護観察のついた執行猶予の判決を言い渡しました。

大阪・平野区の民谷瞳被告(37)は去年1月、生後7か月だった三女の柚希ちゃんを自宅近くの市営住宅の高層階の階段の踊り場から落として死なせたとして殺人の罪に問われました。

18日の判決で、大阪地方裁判所の坂口裕俊裁判長は、「被告は4人の子どもの育児や家事などによる睡眠不足や疲労が蓄積する中、家族や行政機関に何度も助けを求めていた。しかし適切なサポートが得られないまま適応障害となり、犯行当時は心神耗弱の状態だった。その経緯には気の毒な面も多くあり強く非難することはできない」と述べ、保護観察のついた懲役3年、執行猶予5年を言い渡しました。

この裁判の判決は当初、先月26日に言い渡される予定でしたが、裁判員が新型コロナウイルスに感染したことなどから、18日に延期されていました。

https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20210218/2000041472.html

適応障害や心神耗弱、そして母親の帰りを待つ家族の存在を最大限に考慮したのでしょう。

判決文で注目したのは「家族や行政機関に何度も助けを求めていた。しかし適切なサポートが得られないまま適応障害となり、犯行当時は心神耗弱の状態だった。」という部分です。

ここでいう「行政機関」とは大阪市や平野区役所です。行政機関の不作為、福祉を必要とする家庭への冷たさが厳しく指摘されています。

こうした事件が二度と起こらない様に、行政機関には適切なサポートを行って欲しいです。