「医療的ケア児」という言葉を聞いた事がありませんか?

たんを吸引したり、鼻から胃や腸まで通したチューブで栄養を注入したりとした「医療的ケア」を必要とする児童等を指す言葉です。過去10年間で2倍に増えたそうです。

お世話になっている小学校や保育所には在籍していませんが、時折街中で車いすにボンベを乗せて移動している子供を見かけます。

こうした医療的ケア児に付き添って登校する保護者を朝日新聞が取り上げています。

医療的ケア児に付き添う母 「通学したい」かなえたくて
https://digital.asahi.com/articles/ASP184SXDNDBUUPI005.html

自治体によって取り組みに大きな差があるという話は以前から聞いていました。ただ、具体的にどの自治体が先進的な取り組みを行っているかといった情報は全く知りませんでした。

朝日新聞が一例として取り上げたのは大阪府豊中市です。

 では、「先進的な自治体」とはどこか。保護者の付き添いなしでケア児を地域の小中学校が受け入れているという、大阪府豊中市を訪ねた。(中略)

 そんな中で、豊中市では医療的ケアが必要な子どもでも、まずは住んでいる地域の小中学校が就学先として決められる。最終的に特別支援学校を選ぶ子どももいるが、現在、12人が九つの小中学校に通っているという。

 木野さん一家は、そんな教育環境にひかれて大阪市から引っ越してきた。父親の巧也さんは滋賀県内の自治体に勤めているが、「勤務先の自治体でもこんな環境は実現できていません」。昨年1月には自民党の野田聖子幹事長代行ら、医療的ケア児の支援に取り組む超党派の国会議員グループが視察。「まるで外国みたいだ」との声が漏れた。なぜ、そんなことが可能なのか。

 背景のひとつに、人権教育に取り組んできた市の歴史があるという。豊中市では1978年に障害児教育基本方針を策定。障害のある子どもの教育保障を掲げてきた。市教育委員会の担当者は「医療的ケア児も地域の学校で一緒に学べるように受け入れる前提で、看護師も含めて体制を整えてきた」という。

 また市教委は現在、常勤2人、非常勤20人の看護師を雇い、ケア児が通う学校に毎日派遣している。子どものケアをする看護師は日替わりで代わることになるが、看護師にとっては仮に自分が体調不良で休んでも、ケアをする人がいないという事態を避けられる仕組みだ。

 それでも、看護師の確保には苦労しているという。常勤看護師の植田陽子さんは、「学校看護師としての仕事が、キャリアとして認知されていないのが大きい」と指摘する。

 長内(おさない)繁樹市長は現在、市教委が雇う看護師を市立豊中病院に所属させて、看護師を確保しやすくする構想を打ち出している。だが、コロナ禍もあって実現していない。病院の担当者は「どういう形で地域貢献をできるか考えたい」と話している。

超党派の国会議員グループが視察した内容が参加者のウェブサイトに掲載されています。

超党派議員勉強会「永田町子ども未来会議」での視察として大阪府豊中市に参りました。
衆議院議員 荒井聰議員他メンバーと共に、豊中市における障害児教育の取り組みについて、豊中市立北丘小学校・野畑小学校を視察させて頂きました。
豊中市では1952年に障害児教育について市民の相談に応じる教育相談室を設け、1978年に「豊中市障害児教育基本方針」を策定するなど、障害のある子どもたちが地域の学校に入学し、地域で生活することに重きを置いてきました。
障害の有無に関わらず、通常学級を学校生活の基盤とし日常生活に必要な力を伸ばし、集団生活の適応をはかる取り組みがなされています。
学校では教師と看護師がチームを組み、医療的ケア児とともに育つ子どもたちの姿、また人権尊重を基盤とし、どの子も安心して過ごせる学校の姿がありました。

https://instagrammernews.com/detail/2171225108214132572

最先端の「豊中モデル」視察

・市の教育委員会で、公務員として3名の常勤看護師を雇用し、その下に18名の非常勤看護師を雇用している。7つの公立小中学校で9人のお子さんの医療的ケアにローテーションで対応している。

・豊中市では、特別支援学校に通う必要がない

・学校に看護師を固定配置するのではなく、教育委員会所属で巡回方式を採用。ローテーションの配置や調整は、常勤看護師が行なっている。

・子供たちのケアをする看護師は毎日入れ替わるが、どの看護師が入っても同じケアができるように情報共有を徹底。

https://www.arai21.net/?p=8940

「小学校に医ケア児が普通に通える」豊中市に行ったけど外国みたいだった件
https://www.komazaki.net/activity/2019/11/post9800/

各学校に看護師を固定的に配置するのではなく、豊中市(市立豊中病院)からローテーション的に派遣する形式を採用しているのですね。看護師個人ではなく、組織的に対応する体制が整っています。

大阪市で急務となっているのは「待機児童における医療的ケア児・障害児の増加」です。実は保育所等へ入所できなかった待機児童の内、大部分は医療的ケア児や障害児が占めています。

 毎日新聞が20政令市を対象に、2019年度当初の待機児童に占める障害児と医療的ケア児の割合を調べたところ、大阪市が28人中25人の9割と突出して高い割合だった。

https://mainichi.jp/articles/20191224/k00/00m/040/033000c

医療的ケア児や障害児の保育を行うには、見合った設備や人員が必要です。しかしながら、そうした設備等を私立保育所が準備するのは決して容易ではありません。

そこで大阪市は、医療的ケア児の保育を行う保育所に対し、看護師の人件費を補助する制度を構築します。

 大阪市は1日、2021年度から日常的に医療支援を必要とする「医療的ケア児」を受け入れた保育所に対し、看護師の人件費を補助する方針を明らかにした。保育所に入所できていない待機児童の多くが障害児と医療的ケア児で、「待機児童ゼロ」を目指して受け入れ拡大を図る。

 市によると、医療的ケア児1人に対し、看護師1人分の人件費約550万円を補助する。市立保育所に勤める看護師の平均給与に相当し、複数人分の予算確保を目指すという。

 市の待機児童20人(20年4月現在)のうち、障害児と医療的ケア児が計15人に上る。医療的ケア児の受け入れには原則看護師が必要で、全国的な人材不足や人件費の負担が課題となっていた。

 市はこれまで、障害児を受け入れる際に必要な保育士の人件費や、教材購入費の補助などを実施。障害児の受け入れ数は195人で、19年度に比べて約2割増えたという。

https://mainichi.jp/articles/20201201/k00/00m/040/268000c

同時に大阪市は「医療的ケア児受入れに関するガイドライン」を策定しました。

医療的ケア児受入れに関するガイドライン

このガイドラインは、医療的ケア児の保育所入所において、保護者・区保健福祉センター・保育所が留意すべき点、また、個々の医療的ケア児の状況に応じて安全性を確保し、医療的ケアを行いながら保育を実施する場合の具体的な内容についてまとめたものです。

保育と医療の協働の中、こども達が仲間と共に生活することで育まれる相互理解は、互いの成長へと発展していきます。医療的ケア児と周りのこども達が「育ち合う」場として保育所が存在することで、全てのこども達の成長・発達を保障できるよう、職員はもとより、保護者をはじめ関係者の方々にこのガイドラインを活用していただければと考えています

https://www.city.osaka.lg.jp/templates/kisoku_kohyo/cmsfiles/contents/0000521/521016/gaidorain.pdf

また、小学校は全教員がインクルーシブ教育に関する研修を受講し、日頃から府立支援学校と連携をとって障害児や医療的ケア児の教育や看護等にあたっているそうです。

身近な範囲に医療的ケア児がいないので、私自身の認識は甘くて薄いと感じています。多くの方が医療的ケア児の実情や支援制度を知っていければよいですね。