昨年末に発行されたとある論文集が「教育政策の実証分析」と言う特集を組みました。

フィナンシャル・レビュー
令和元年(2019年)第6号(通巻第141号)

<特集>教育政策の実証分析

https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/fr141.htm

その中で、特に大阪市に住んでいる子育て世帯にとって気掛かりとなる論文がありました。

全国学力・学習状況調査の小学校別結果公表が児童の学力に与える影響について
https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r141/r141_03.pdf

多くの方がご存じの通り、大阪市は全国学力・学習状況調査(学力テスト)の各学校別の結果を公表しています。また、当サイトでは、各学校別の数字を独自に集計した物を公表しています。

大阪市立学校データベース

上記論文の要約は下記の通りです(なお、本論文では東京都内の小学校の数字を利用しています)。

その結果,学校別の学力テスト結果の公表は,結果の公表された小学校に通う児童の学力を上げる効果があることが分かった。

さらに,この学力の上昇に付随して起こった学校の教育・運営方法と児童の学習行動の変化を分析した結果,学校別の結果が公表されるようになった自治体の小学校では,特に放課後の補習の頻度が増えており,児童は家で宿題をやるようになっていたことが分かった。

具体的な数字やメカニズムも指摘されています。

最も上昇率の高い科目は国語 A であり,1.54 点(つまり 0.154 標準偏差)上昇している。より発展的な内容を問う国語 B においても,1.09 点の上昇となっている。また,国語よりは小さいものの,算数 A では0.92 点,算数 B でも 0.76 点の上昇となっている。

ここでの点数は学力テストの点数その物ではなく、各児童の正答率を標準化(平均を50点、1標準偏差を10点とした)した数字です。

学力テストの結果を公表した小学校の点数は、他の小学校と比べて相対的に上昇した結果となりました。

各児童が「朝食を食べる」,「決まった時刻に起きる」,「決まった時刻に寝る」,「塾に通っている」場合は,その児童のテストスコアが高いという傾向が観察された。次に学校環境変数に移ると,「就学援助割合」が常にテストスコアと負の相関をみせている。このことは,就学援助を受けている児童が多い学校ほど,その学校に通う児童の正答率が一般的に低い傾向にあることを示している。

学級規模に関しては,全ての教科・内容で係数の符号が負であり,国語Aを除いてテストスコアとの相関は統計的に有意となっている(国語Bの場合は10パーセントのみ)。

各児童・家庭の生活状況と点数の関係も指摘されています。

朝食を食べる・決まった時刻に起床就寝する・塾に通っている児童の点数は高く、就学援助割合・学級規模が大きい学校の点数は低い傾向が現れました。

基本的な生活習慣が身についている児童は家庭が落ち着いて経済的な不安も少なく、勉強に集中して取り組めているのでしょう。

就学援助割合は世帯の経済的状況を表しています。経済難が学力低迷に直結しています。児童の学力と家庭の経済的状況は密接不可分な関係にあります。

また、学級規模が大きいほど、担任の先生は細かく指導するのが難しくなります。当然の結果です。

学校別結果公表を行なっている自治体の学校では,2014 年以降に,調査対象学年の児童に対して前年度に放課後を利用した補充的な学習サポートの実施数を増やしたことがわかる。また,(算数の)習熟度別授業の割合を減らしたことがわかる。

さらに,統計的な有意性は低い(10パーセント有意)が,家庭学習の課題(宿題)を与えたかという質問に対して,「よく行なった」と答える学校の割合が減っている。その他の学校教育変数に関しては,有意な影響は見られない。

学校別の結果を公表した小学校では、習熟度別授業の割合を減らした代わりに放課後の補習学習を増やしたそうです。

習熟度別の授業を実施するにはクラス編成や準備等の負荷が重いのでしょう。補充的な学習サポートの時間を増やし、学力が相対的に低い児童への指導に注力したと窺えます。

学校別結果公表を行なっている教育委員会管轄下の学校に通う児童が,家で学校の宿題をよくするようになったと答えていることがわかる。

学校から課される宿題の量が増えたのでしょうか。

大阪市立学校も参考に出来る

多くの方がご存じの通り、大阪市の小中学校は学力低迷に苦しんでいます。我が家がお世話になっている学校の例外ではありません。

その為か、学校から課される宿題の量はやや多いと感じています。計算ドリル・漢字・音読、私が小学生の時には考えられなかった分量です。時には追加プリントも持ち帰ってきます。

また、大阪市は各学校別の点数や内訳等を公表しています。数字が多くの保護者と共有されているので、懇談会や会議等の場で話題になる機会が少なくありません。

具体的な数字を公表した事によって、保護者や学校に一種の「危機感」が共有できたのではないでしょうか。

本論文は今後の大阪市立学校や教育委員会が取り組むべき方向性も示唆しています。

それは「基本的な生活習慣の徹底」「補習学習の充実」「小規模クラスの編成」でしょう。

前二項目については、お世話になっている学校では積極的に取り組んでいます。生活習慣チェックシートを先生に提出し、問題がある世帯には個別にヒアリングを行っているそうです。

また、週数日は授業終了後に補習学習会を開催し、児童が宿題等を持ち寄って先生達へ自由に質問する機会が設けられています。

これらはいわば「当たり前の内容」です。当然の内容を着実に積み重ねていく事こそが、重要ではないでしょうか。