企業主導型保育を悪用した詐欺事件が横行しています。

企業主導型保育所 開設めぐり詐欺か 会社役員ら3人逮捕

2019年7月3日 16時58分

待機児童の解消などを目的に企業などが整備する「企業主導型保育所」の開設をめぐって国の助成金の支給が決まったように装い、信用組合から融資金1億円余りをだまし取ったとして福岡市のコンサルティング会社の代表取締役ら3人が東京地検特捜部に逮捕されました。

逮捕されたのは福岡市早良区のコンサルティング会社、「WINカンパニー」の代表取締役川崎大資容疑者(51)ら3人です。

東京地検特捜部によりますと川崎容疑者らは去年10月、企業などが整備する「企業主導型保育所」の開設をめぐって、国の助成金の支給が決まったように装い横浜市の信用組合から融資金およそ1億990万円をだまし取ったとして詐欺の疑いが持たれています。

信用組合は国の助成金が認められることを融資の条件にしていましたが、川崎容疑者らは助成金の支給が決まったことを示す公益財団法人の通知書を偽造し、信用組合の担当者にメールで送っていたということです。

川崎容疑者の会社は助成金を申請する企業の代行業務を行っていたということで、特捜部は資金の流れの解明を進めています。特捜部は3人の認否を明らかにしていません。

川崎容疑者はかつて不動産業界のベンチャー企業として注目された「ABCホーム.」の元会長で以前、脱税や競売入札妨害の罪で有罪判決を受けています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190703/k10011980661000.html

審査の緩さが狙われた

一連の経緯は、データ・マックスが追い続けていました。

【続報】東京地検特捜部がWINカンパニー・川﨑大資ら3人を逮捕~助成決定書を偽造して融資を引き出した容疑

 東京地検特捜部は3日、株式会社WINカンパニーの代表を務める川﨑大資(51)と一山賢介(34)、板倉真(38)を詐欺容疑で通常逮捕した。

 逮捕容疑は横浜幸銀信用組合(本店:神奈川県横浜市中区)に対する「融資詐欺」で、データ・マックスが5月16日に配信した記事(関連リンク)で報じた「悪だくみの一場面」こそ、今回の逮捕容疑の根幹となる部分だった。

 東京地検の発表によると、川﨑容疑者は、自身が実質的に経営する「保育士相談窓口株式会社」の企業主導型保育所開設にあたって、保育所設置に必要な土地の取得費と保育所建築費に充てる資金をWINカンパニーが調達することを計画。資金の調達先として横浜幸銀に融資を申し込んだところ、企業主導型保育事業の助成決定を受けることを条件に融資を行う承認を得られたため、共謀して、「約1億5,000万円の助成金支給が決定した」とする内容の公益財団法人児童育成協会発行の助成決定通知書を偽造。(以下省略)

https://www.data-max.co.jp/article/30254?rct=win-company

従来型の認可保育所と比べ、企業主導型保育は容易に設置できる制度となっています。

 じつはこの企業主導型保育事業は、悪知恵のはたらく悪党たちからは、非常に魅力的な「金の成る木」に映っているのだ。その理由は主に2つある。

 (1)「参入の安易さ」。同事業を利用する企業について、助成金申請を行うにあたってとくに要件は定められていない。法人登記されていれば新設企業でもよく、要するに実態のないペーパーカンパニーであっても助成金申請することができる。

 (2)「審査のゆるさ」。助成金申請にあたって提出の必要な資料は主に「法人登記」「資金計画書」「整備費(工事費用など)についての見積もり2社(相見積)」の3つで、2017年度まではその地域にどれだけ保育需要があるのかなどの公的証明書も必要なかった。工事費用の相見積に至っては、その見積もりが適正価格であることを担保する理屈としているのが「助成金は4分の3しか支給されず残りは手出しになるため、おのずと低価格の見積もりを取るように企業は努めるはず」(審査を担当する公益財団法人児童育成協会の担当者)という性善説に依るものだ。

https://www.data-max.co.jp/article/29496?rct=win-company

認可保育所の設置に際しては、各自治体で審査が行われます。

例えば大阪市は公表された認可審査基準に則り、大阪市社会福祉審議会の意見を踏まえ、大阪市が設置・運営事業者を決定しています。

会議では様々な意見が出されており、一部意見は公表されています。

[主な意見・今後事業者に対する期待] ・こどもの発達に即した事業の実施となることが期待できる。
・各々のマニュアルについてよく備えられているので、実践に活かすよう職員に対する周知徹底に向けた研修体制の充実が望まれる。
・保育所保育指針について研鑽し理解していただくとともに、子どもや保護者、地域の状況など施設に応じた年間指導計画を当該施設の職員を中心に作成していただきたい。
・災害時における様々な状況を想定して、避難場所や避難経路を具体的に検討していただきたい。

https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/cmsfiles/contents/0000465/465729/50nin1ji.pdf

しかし、企業主導型保育の設置においては、こうした選定プロセスがブラックボックス化しています。

当該事業者に助成を決定した理由、過去の運営実績、施設長や経営者の考え方、保育内容や指針等を、審査を担当する児童育成協会は全く公表していません。公表しているのは、助成を決定した事業者・施設名・日時程度です。

企業主導型保育は情報収集が困難

では、入所を考えている保護者は、企業主導型保育に関する情報をどうやって知ればよいのでしょうか。

認可保育所等であれば、第一に市役所や区役所の保育窓口へ訊きに行きます。一定程度の情報を知る事ができます。その上で、各施設を見学する流れとなります。

しかし、企業主導型保育は自治体が所管していません。児童育成協会を通して内閣府が所管しています。

施設数が膨大かつ書類上の審査しか行っていないので、児童育成協会や内閣府に訊きに行っても得られる情報はほぼありません。

となると、残された手段は各事業者が公開しているウェブサイトのみです。

多くの企業主導型保育は理想的な保育を掲げ、適正な運営を心がけています。しかしながら、一部の事業者は実態と懸け離れた内容を掲載し、退所者が相次いでいるという話も聞いています。

自治体のグリップが効かない、保育所は保育士不足

現在も全国各地で企業主導型保育の開設が続いています。

待機児童問題が深刻な都市部を中心に入所希望者が少なくない反面、保育所整備が進んでいる地域や少子化が進展している地域では企業主導型保育の空きが目立っている様子です。

地域の保育需要を熟知しているのは、各自治体です。しかし、企業主導型保育の開設等においては、自治体のグリップが効かないのが大きな問題です。

大阪市内では数多くの企業主導型保育が作られ続けています。結果、大阪市では認可保育所等における深刻な保育士不足が生じています。

温厚な園長先生が「保育士が足りない、募集しても集まらない」と呟く声を何度も聞きました。一部クラスでは、園児数を減らす縮小運営を余儀なくされています。

別の保育士は「週末毎に保育士募集フェアに参加している(募集側として)」と話していました。

大半の保護者が希望しているのは、「6年保育を行う認可保育所での保育」です。

企業主導型保育や(0-2歳児の保育を行う)地域型保育事業が急増した結果、認可保育所がその機能を発揮できないのは矛盾そのものです。

子供の健やかな成長を見守り、保護者の就労等を手助けする保育は、各施設間の自由競争にそぐわない分野です。市場の失敗は児童に悪影響を及ぼします。

地域の保育需要や保育士数等を勘案し、企業主導型保育に対しても一定程度の参入規制が必要だと感じています。容易に悪用されるほどに緩いのが現状です。