多くの共働き世帯が利用している「学童保育」の職員配置基準が緩和されようとしています。

 政府は8日の閣議で、地方自治体からの提案に基づく規制緩和や権限移譲の実現に向け、13本の関連法をまとめて見直す第9次地方分権一括法案を決定した。共働き家庭などの小学生を放課後に預かる「放課後児童クラブ(学童保育)」の職員配置基準を、全国一律ではなく市区町村が条例で設定できるようにするのが柱。

 現行の児童福祉法と厚生労働省令は、支援員と呼ばれる学童保育の職員について、1教室当たり原則2人以上の配置を義務付けている。職員の確保が難しい地方からの提案を受け同法などを改正し、2020年度からは「従うべき基準」ではなく「参酌すべき基準」に緩和して、支援員1人でも運営可能にする。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019030800336&g=pol

内閣府等が公表している資料を見ていきましょう。

放課後児童健全育成事業に従事する者及びその員数の基準について、従うべき基準から参酌すべき基準に 見直し(児童福祉法)

・ 「放課後児童健全育成事業に従事する者及びその員数に係る基準」について 、厚生労働省令で定める基準を参酌しつつ、市町村が条例で定めることができるようにする。
・ これにより、事業の質を担保した上で、地域の実情に応じた運営が可能となる。
(施行日:2020.4.1)

https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/doc/09ikkatsu-gaiyou_kakugi.pdf(5ページ)

支援員採用に悩む中山間地域からの提案

この規制緩和は、実は地方自治体からの要望によるものでした。

記載されている提案主体は、豊田市、うるま市、九州地方知事会、長洲町、岐阜県、本巣市、中津川市、全国知事会、全国市長会、全国町村会、出雲市、栃木県、松山市、広島市です。

人口流出に苦しんでいる自治体が多いのが特徴的です。どういった背景があるのでしょうか。

平成30年5月11日に地方三団体(知事会・市長会・町村会)からのヒアリング等が行われました。

・利用者が少数の中山間地域において放課後児童クラブを継続していきたいが、現行制度では人材の確保が難しい。
・人員不足で代替職員の確保が難しい中、支援員の資格を取得するために補助員が現場を離れて研修を受講することが難しい。
・十分子育て経験のある方で、一定の実績が認められれば、支援員として認定するなどの 柔軟なやり方もあるのではないか。

第33回地方分権改革有識者会議・第72回提案募集検討専門部会・合同会議・資料7

深刻な人口流出に陥っている中山間地域等においては一定の有資格者を採用するのが難しい状況となっていました。

放課後児童クラブは授業を終えた時間帯や長期休業中に開かれます。この時間帯は家事や育児等で忙しい人間が多く、従事できる人間を採用するのは決して容易ではないでしょう。

各地方からの提案内容は、「地方からの提案個表(第87回提案募集検討専門部会資料)」に掲載されています。

その後、11月9日に首相と知事会との懇談会が行われました。そこで首相から「そういうのは地方にお任せするほうがいいのではないか」との発言がありました(第25回地方分権改革有識者会議・議事録12ページ)。

押し切られる厚労省

最終的には、11月19日に開催された第87回提案募集検討専門部会で内容が決定されました。

上記部会では、突っ込んだ議論が行われました。

(厚生労働省)
地方自治体から放課後児童クラブ事業について、「従うべき基準」を遵守しながら必要な人員を確保することは、地域によっては難しい状況にあるところも多い等の理由から、参酌化について強い要望があったところ。加えて、放課後児童クラブの現行の基準については、平成26年に厚生労働省として基準が制定 されるまでの間は、厚生労働省が示したガイドラインを踏まえつつ、地域の実情に応じて事業が実施されてきたという経緯もある。

これらを踏まえると、放課後児童クラブの質の確保と、地域の実情に応じた放課後児童クラブの安全的・継続的な運営を両立する限界の案として、現行の「従うべき基準」の内容自体を維持した上で、参酌基準とする方法があるのではないかと考えている。

(髙橋部会長)
我々は参酌化しても質が必ずしも低下するとは考えていない。質が低下することを懸念する声があることは承知している。

(厚生労働省)
施行後3年を目途として 、その施行状況を勘案し、放課後児童健全育成事業の質の確保の観点から検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる、といった内容である。

(磯部構成員)
貴省からは、地域の実情に応じて今後事業を展開する際、質と量が車の両輪である。質を蔑ろにすることは許されないとの説明があったが、その基本的考え方については我々も一貫して共有しているところ。当方針自体について、私も問題ないと思っているが、改めて確保すべき質について伺いたい。

(厚生労働省)
子どもの育ちのための環境が整っているか、指導員の資質がちゃんと整っているかについて環境整備を図っていくことが重要である。

(伊藤構成員)
自治体からは放課後児童健全育成事業の支援員の確保が非常に難しいという声が挙がっている。その際に支援員の待遇が必ずしも良くないのではないか、という話も伺っている。

(厚生労働省)
処遇改善については非常に重要な事項だと考えている。

当省としては現行の基準の内容は維持するということが大前提である。そういう意味では、国としての考え方は現行 の基準ということであり、その上で地方自治体において地域の実情に応じた柔軟な対応が図られるということで示した 案が当案である。

第87回提案募集検討専門部会議事概要より引用

厚生労働省は現行の基準を維持するとの建前の下、各地方の実情に委ねるとの内容となりました。部会長等の意見に押し切られたと感じました。

これを受け、第35回地方分権改革有識者会議・第88回提案募集検討専門部会 合同会議で決定しました。

(加瀬次長)
1が「放課後児童クラブに係る『従うべき基準』等の見直し」でございます。昨年から重点事項となっていたものでございまして、先ほど、髙橋部会長から御説明をいただいたものでございます。 「従うべき基準」としては、放課後児童支援員の員数、人数と都道府県が実施する研修の受講を含めました支援員の資格というものがございます。これについて、参酌すべき基準とするということでございます。

(島根県邑南町長)
今は、そういったマンパワーが不足している中で、町村においても、実情に合った人材の活用のもと放課後児童クラブをしっかり運営して、子育てを支援していくということは大変重要なことだと思っておりますので、引き続き、よろしくお願いしたいと思っております。

(谷口委員)
ニーズの拡大と質の確保というせめぎ合いを地域の現場でなさっているかということが、本当に喫緊の課題になっているかと思います。

その中で、今回、従うべき基準から参酌基準化ということは、大変な決断かと思うのですけれども、同時に、もう一つ視点を加えるとすれば、やはり、保護者の側のほうの意識変革というものも考えながら制度化を考える必要があるのではないかと。やはり、保護者がサービス利用者としてのステークホルダー化してしまうと、何か申し込んで、あるいはお金を払ってお願いすれば、あとは、そちらの責任でやってくれるでしょうというふうな利用者化をしてしまいますと、何かあったときにクレーマー化してしまうと。

そういった利用者というだけでなく、ともに運営していく参画者という姿勢というものを入れていかないと、これは、放課後児童クラブ以外の面でもそうかと思うのですけれども、そういった変革を踏まえた上で考えていかなければならないのではないかと。

(高橋専門部会長)
我々は、参酌化というのは、基本的には質の確保と矛盾しないと、要は、制度の設計のあり方や、運用のあり方次第であると、こういうことを常々申し上げてまいりました。

本法案は通常国会で成立するでしょう。どれだけの自治体が条例を改正し、支援員の配置基準を切り下げるのでしょうか。

危惧されるのは緊急時の対応です。

支援員が1人しかいない状態で緊急事態(災害やケガ等)が発生した場合、対応しきれない局面が生じかねません。

一方、常に複数の支援員が必要とは限りません。利用している児童が少数であれば、適切な能力や研修を受けた支援員なら対応できるでしょう。

とは言え、保護者目線としては、常に複数の指導員が従事している方が安心できるのは間違いないでしょう。

恵まれている大阪市の学童保育「いきいき」

我が家がお世話になっている大阪市の学童保育(児童いきいき放課後事業)では、2~5人程度の支援員が配置されている様子です。

利用する児童が多い時間帯は手厚く、少ない時間帯(特に5時以降)は最低限の支援員のみが従事しています。

他の自治体における学童保育の様子を聞く機会が増えてきました。

「利用者が多すぎて、3年生以降は利用出来ない」「利用料が高い」「月1回の保護者打ち合わせ会議が大変」などの話を聞きました。

これに対し、年500円(保険料)のみで利用でき、小学校に併設されている「いきいき」は恵まれていると感じました。

支援員の質や過ごし方等に不満がないわけではありませんが、放課後を安心して過ごせる場所が小学校内にあるのは本当に助かっています。