毎年、全国の小学6年生・中学3年生を対象として「全国学力調査(学力テスト)」が行われています。

学力テストと並行して行われた保護者調査を分析したところ、両親の学歴や世帯収入が高い層では8割が子どもに大学進学を期待する一方、低い層では3割に留まっている事が明らかになりました。

「子どもを大学へ」 親の期待にも収入・学歴が影響

保護者の収入が多く学歴が高い家庭ほど、子どもは成績が良く、大学進学にかかる期待も高い――。昨春の全国学力調査を受けた小6と中3の保護者を対象にした調査で、そんな傾向がわかった。文部科学省が27日に調査結果を発表した。子どもに大学進学を期待するのは収入や学歴が高い層では8割に上るが、低い層は3割にとどまっている。

小中学生の段階から家庭環境によって、学力とともに進学への期待にも違いが生じていることが、調査によって裏付けられた形だ。政府は低所得層の子の進学を支援しようと、2020年度から大学など高等教育の授業料減免や給付型奨学金を拡充する。ただ高等教育への進学をさらに広めるには小中学生の段階からの対策も必要になってくる。

保護者調査は13年度に続いて2回目。今回は昨年4月に全国学力調査を受けた公立学校の小6と中3の保護者のうち約12万2千人が答え、お茶の水女子大が分析した。

分析では、両親の収入や学歴をもとに保護者を「上位層」「中上位層」「中下位層」「下位層」の4グループに分割。学力調査の成績との関係をみると小6、中3ともいずれの教科も、層が上がるほど平均正答率が高かった。例えば、中3の「数学A」は上位層の77・1%に対し、下位層は52・8%。小6の「算数B」でも上位層の57・7%に対し下位層は36・3%で、20ポイント以上の差がついていた。

格差は、子どもの進学への期待にも表れている。「どの段階の学校まで進んでほしいか」という設問で「大学」と答える人は、小6の上位層では80・8%だが、下位層は33・2%。中3も上位層の81・0%に対して下位層は29・3%にとどまり、小中とも約50ポイントもの差がある。子の学力に加え、保護者として進学費用を出す経済的余裕があるかどうかが、こうした期待に影響しているとみられる。

https://www.asahi.com/articles/ASL6V630YL6VUTIL04G.html

このニュースを読んで真っ先に気になったのは、「上位層・中上位層・中下位層・下位層の定義」でした。他サイトのニュース記事でも全く触れられていません。

これは、家庭の社会的経済的背景(SES, Socio-Economic Status)と呼ばれる指標です。両親の学歴・世帯収入から算出されます。

階層毎の構成・尺度を調べて行き着いたのは、平成25年度「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」でした。

同調査研究(14ページから15ページ)に、階層毎の所得や学歴が掲載されています。

平成25年度 全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究
https://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/hogosha_factorial_experiment.pdf

家庭の社会的経済的背景

階層によって、家庭所得(世帯収入)や両親の学歴(教育年数)に大きな違いがあります。

例えば小学6年生の保護者への調査結果を分かりやすく示してみました(平均的な学歴は年数から当てはめました)。なお、中学3年生での調査結果もほぼ同内容なので、割愛します。

小学6年生父親母親
家庭の社会経済的背景世帯収入平均的な学歴大卒率平均的な学歴大卒率
下位層348万円高校中退・高卒0.7%高卒0%
中下位層496万円高卒・専門卒3.9%高卒・短大・専門卒1.0%
中上位層640万円専門卒・大卒39.3%短大・専門卒7.2%
上位層919万円大卒89.2%短大・専門・大卒47.1%
平均603万円専門卒・大卒35.44%短大卒13.94%

例えば下位層の平均世帯収入は348万円、両親の学歴は概ね高卒であり、大学を卒業した両親はほぼ皆無です。

大学生活を経験していない両親からは、大卒へ期待する考え方は生まれにくいのかもしれません。また、進学に対する助言等も得られにくいです。

私の両親にも同じ雰囲気があり、受験・進学する時は非常に苦労しました。大卒のメリット、大学・学部の種類、受験費用や学費の目安、勉強のアドバイス等の情報は、家庭には全くありませんでした。

頼りにしたのは学校の先生と進路指導室に山積みされた進学情報誌や赤本でした。本番直前に急激に成績が伸び、辛うじて志望校に転がり込んだ覚えがあります。

反対に上位層は恵まれています。平均世帯収入は919万円、父親の学歴はほぼ大卒以上、母親も半数が大卒以上です。

勉強する事や大学を卒業して社会へ出る事のメリットを十分に認識しているでしょう。また、世帯収入にも余裕があります。

子どもに大卒を期待し、教育への投資を惜しまない姿が見えてきます。少し羨ましくなります。

地域の社会的経済的背景

社会的経済的背景は家庭に留まりません。「地域の社会的経済的背景」も定義されています。上位層が集う学校と低位層が集う学校では、自ずと学校毎の違いが生じてきます。

これは大阪市内で強く実感しています。学校データベースを作成した際、いわゆる文教地区・高級住宅街にある小学校と、低所得世帯向けの集合住宅が乱立している地域にある小学校では、学力テストの平均点に著しい差がありました。

大阪市立学校データベース

ただ、地域(学校)の社会的経済的背景の分類に対し、学力が高い学校もあります。同調査結果には、特徴的な取組が掲載されています。

下位層 の地域において高い学力と関連のある取り組みを見ると、将来就きたい仕事や夢について考えさせる指導や職場見学・職場体験活動といったキャリア教育、協働学習や課題発見・解決型の指導や総合的な学習の時間といった課題解決型の学習方法、目的や相手に応じて話したり聞いたりすることを指導する国語の授業、算数・国語の発展的な学習、コンピュータとインターネットの活用、子どもと教職員の地域への参加や関心が上位にあがった。

本分析における学力とは算数Bの結果であるが、下位層 の地域では、算数というよりも、むしろ国語の指導による影響が大きいようである。

下位層の地域では、いわゆるキャリア教育や国語の指導が効果を上げてそうです。

進学する事のメリットを説き、出題内容を理解する為の国語力を鍛える事により、学力に反映されているのでしょう。

上位層 において高い学力と関連のある学校の取り組みを見ると、少人数指導・習熟度別学習、児童と保護者の地域・学校への関心と参加、近隣の中学校との連携、学校による家庭学習のサポート、国語・算数における補充的な学習サポート、保護者のネットワーク、キャリア教育、国語の発展的な学習指導が高い学力と関連しているのが分かる。

上記で見てきた他の地域SES 区分とは異なり、少人数教育・習熟度別学習と補充的な学習サポートに関わる項目が多く見られる。これは先に見たように、上位層の地域では、家族SES の高い児童と低い児童の格差が大きく、児童全員が一緒に学習するよりも個別的な対応が求められており、それが結果として、全体的な学力を引き上げることにもつながっているものと推測できる。

上位層の地域では、学校内の学力差が問題となるそうです。授業に落ちこぼれそうな児童を個別にサポートする事により、学校全体の学力が引き上げられているそうです。

また、こうした地域の学校では、学外の進学塾に通っている児童も少なくないでしょう。先生が十分に指導しなくても、自己の能力や塾での指導で十分な学力を身につけているのかもしれません。