文部科学省が各教育委員会に対して「座席配置の工夫や適切な換気の確保等の措置を講じた上で、給食の時間において、児童生徒等の間で会話を行うことも可能」「感染状況も踏まえつつ、地域の実情に応じた取組を御検討」と通知しました。
給食時「適切な対策行えば会話は可能」都道府県教委などに通知
新型コロナ対策の基本的対処方針で「黙食」の記述がなくなったことを受け、文部科学省は給食の時の過ごし方について、適切な対策を行えば会話は可能だとする通知を都道府県の教育委員会などに出しました。
政府はこれまで、新型コロナ対策の基本的対処方針で「飲食はなるべく少人数で黙食を基本とする」などと明記していましたが、今月25日の変更でこの記述が削除されました。
これを受け文部科学省は29日、給食の時の過ごし方などについての通知を全国の教育委員会などに出しました。
通知では、基本的対処方針の変更について説明するとともに、文部科学省のマニュアルでも必ずしも「黙食」を求めていないことを改めて伝えています。
そのうえで、「座席配置の工夫や適切な換気の確保などの措置を講じた上で、給食の時間において、児童生徒などの間で会話を行うことも可能」などとして、地域の実情に応じた取り組みを検討するように求めています。
またマスクの着用をめぐっても、児童や生徒の心情に配慮したうえで、マスクを外す場面を設けたり、体育の授業などでは外すように促したりするなどの取り組みも伝えています。
学校での新型コロナ対策をめぐっては、「継続した対策が必要だ」という声がある一方、「黙食やマスクなどが子どもたちのストレスやコミュニケーション不足の一因になっている」という声もあり、意見が分かれています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221129/k10013907061000.html
通知文は文部科学省ウェブサイトに掲載されています。
今般の変更前の基本的対処方針においては、「二(5)1)国民への周知等」として、「国民に対し、基本的な感染対策を徹底することに加え、飲食はなるべく少人数で黙食を基本とし、会話をする際にはマスクの着用を徹底すること(中略)等を促す。」とされていましたが、今般の変更により当該記述が削除されました。
この点、文部科学省が作成する「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」においては、「会食に当たっては、飛沫を飛ばさないよう、例えば、机を向かい合わせにしない、大声での会話を控えるなどの対応が必要です。」等とし、従前から、必ず「黙食」とすることを求めてはいないところです。
実際にも、一部の地域において行われているように、座席配置の工夫や適切な換気の確保等の措置を講じた上で、給食の時間において、児童生徒等の間で会話を行うことも可能ですので、感染状況も踏まえつつ、地域の実情に応じた取組を御検討いただくよう、よろしくお願いします。
https://www.mext.go.jp/content/20221129-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf
確かに「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル(Ver.8)」には「会食に当たっては、飛沫を飛ばさないよう、例えば、机を向かい合わせにしない、大声での会話を控えるなどの対応が必要です。」と記載されているだけであり、黙食を求めているわけではありません。「大声での会話」を控える様に求めています。
大阪市マニュアル(現行)には「会話を控える」と記載
文部科学省の通知はあくまで事務連絡です。実際に学校現場でどの様に運用するかは、各教育委員会の方針の下、各学校が定める事とされています。
大阪市教委は「学校園における新型コロナウイルス感染症 対策マニュアル」を定め、これに基づいて各学校が対策等を行っています。コロナ関係で学校に問い合わせると、まず先生がマニュアルを探しています。
ここには「会話を控えるよう指導すること」と記載されています。これが黙食を求める根拠です。
・喫食にあたっては、飛沫を飛ばさないよう、机を向かい合わせにせず、会話を控えるよう指導すること。なお、ランチルームや食堂を利用する場合は、児童生徒等の間隔を 2m 程度離し、直接向かい合わせにならないよう工夫すること。
・また、給食喫食後は、必ず速やかにマスクを着用するよう指導すること。
https://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/cmsfiles/contents/0000496/496258/8-2.pdf
子供に黙食の実態を訊ねた所、「机は前を向いたまま食べている。殆どの子は静かに食べているが、一部の男の子が騒がしい。いつもいつも先生に注意されている。」と聞きました。
大半の子は黙食を継続していますが、一部の児童はできていない様子です。先生も繰り返し指導したり家庭に連絡したりしていますが、思うような効果を挙げていない様子です。
私は黙食を継続すべきという考えです。コミュニケーション能力の発達が阻害される、給食が楽しくない、不登校に繋がる等の意見もあります。が、コミュニケーション等は給食の前後に行えばよいだけです。
文科省のこうした通知で心配なのは、一部の反黙食派の児童や家庭が給食中に大声で騒ぎ、通知等を盾にとって正当化する事態です。どうしてもお喋りしたいなら、誰もいない教室で独り言でも呟きながら食べて欲しい気持ちです。
分科会メンバー「黙食を学校現場においても明確に撤廃を」
文科省の通知の根拠は、令和4年11月25日付で変更された基本的対処方針です。従来の対処方針(右)にあった「少人数で黙食を基本とし」等の一文が削除されています。
https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_taishou_20221125.pdf
これに関する意見が、令和4年10月13日新型コロナウイルス感染症対策分科会(第19回)にてありました。
東大の武藤先生が「その後にある学校に関する対策には、児童・生徒に対する不合理な振る舞いを是正することについて全然指摘がない。黙食やつい立てといった子供にとって不合理なことについて、学校現場においても撤廃することを明確に書いていただきたい。」と発言されていました。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai19/gijigaiyou.pdf
これに対して、尾身先生は「ここもいいですね」「今までどおり分科会からの政府にやってほしい」と引き取っていました。
一方、文部科学省の通知をよく読むと、黙食を撤廃する旨は明確に書かれていません。適切な措置を講じた上で会話を行う事も可能であり、地域の実情の応じた取り組みを促しているだけです。
武藤先生や基本的対処方針の意見を骨抜きにしたと考えるのか、教育委員会や学校といった現場に丸投げしたのか、少し悩ましいです。少なくとも「黙食を撤廃せよ!」とは書かれていません。
大阪府はCO2モニター・サーキュレーター・HEPAフィルタ付空気清浄機の導入進まず
文部科学省が求めている「適切な措置」とは「座席配置の工夫や適切な換気の確保等」です。文部科学省は同分科会に「学校における換気の実施に係る参考資料」を提出しています。
これには2方向の窓を同時に開けて換気を実施すると共に、二酸化炭素(CO2)モニター・サーキュレーター・HEPAフィルタ付空気清浄機等の導入を強く促しています。
興味深い資料も添付されています。都道府県別の公立学校における換気対策設備の設置状況に係るアンケート結果です。大阪府の上記3設備の設置率は全国最低水準です。情けない限りです。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai19/gijisidai_3.pdf
子供も「二酸化炭素モニターもサーキュレーターも空気清浄機も見た覚えが無い」と話していました(見落としているだけかもしれませんが)。常時窓を開けているだけです。これでは「適切な換気の確保等」はできていません。
追記:ワクチン接種率の低さ
重要な事を書き忘れていました。黙食を撤廃するのであれば、子供へのワクチン接種率が一定水準に達している事が必要です。
しかしながら、接種率は低いままです。11月28日時点での3回目接種率は5歳~11歳が5.3%、12歳~19歳が43.1%に過ぎません。11歳以下は2回目接種率すら19.1%に過ぎません。
https://www.kantei.go.jp/jp/content/nenreikaikyubetsu-vaccination_data.pdf
大阪市はより低い数字です。5歳~11歳の3回目接種率は1.23%(2回目までは6.41%)、12歳~17歳は20.75%です。全国平均を大幅に下回っています。
この状態で黙食を解除したら、教室がクラスターの嵐になるのは明白です。
冬は感染症の季節
加えて、文科省が黙食からの脱却を促す時期が最悪です。全国各地で新型コロナ第8波が始まっており、北海道や長野等では過去最多の感染者を更新しています。更にインフルエンザの流行も懸念されています。何度も「ツインデミック」という言葉を聞きました。
インフルエンザの流行の発端となるのは学校です。コロナ禍以降は学校関係ではインフルエンザは殆ど流行していません。マスクを初めとするコロナに対する感染対策によって、インフルエンザが封じ込められてしまいました。
これらを踏まえると、少なくとも大阪市内の公立学校で今すぐに黙食を撤廃するのは余りに時期尚早です。十分な換気設備を導入し、第8波やインフルエンザの流行シーズンを終えてからでも遅くありません。換気がしづらく、様々な病気が流行りやすい冬場に行う事ではありません。