大阪市の平成29年度予算案が公表されました。子育て支援を重点政策に掲げている吉村市長は、新年度予算でも引き続いて重点投資を行おうとしています。

予算規模が大きくかつ子育て世帯に大きな影響が生じるのは、(1)保育所等の大規模新設、(2)教育費無償化を4歳児に拡大、(3)基準を認可外保育施設に通う4-5歳児も教育費無償化対象とする、という項目でしょう。

今回は(1)保育所等の大規模新設を取り上げます。

大阪市 保育所新設140カ所…待機児童ゼロへ

大阪市は「待機児童ゼロ」を2018年春に達成するため、認可保育所など約140カ所(約5900人分)を新設する。16日に発表した17年度当初予算案に整備事業費116億5600万円を計上した。予算枠は16年度の43億3900万円から約2.7倍増で、市によると全国的にも異例の増額。約700カ所(入所枠約5万5000人分)を確保し、待機児童を来春解消するとしている。

「今回は『待機児童やり過ぎ』の予算。批判もあるだろうが、子どもに投資するのが政治スタイルだ」。吉村洋文市長は記者会見で、就任から2度目となる予算編成の狙いを強調した。

新設は認可保育所など55カ所、0~2歳児を受け入れる小規模な地域型保育事業所が88カ所。認可保育所など7カ所を建て替える。今年度は67カ所の整備で約2600人分を確保したが、それを大幅に上回る規模。市役所と全24区役所に民間運営の保育所を設置するなど独自策を進めるほか、保育士が子どもをベビーシッターなどに預ける際の費用を一部貸し付けるなど、保育人材の確保にも努める。(以下省略)

http://mainichi.jp/articles/20170217/k00/00m/040/129000c

大阪市は昨年12月の段階で、平成30年4月までに65箇所の保育所等新設を公表していました(詳細はこちら)。今回の予算案は、当初計画の2倍規模となっています。

詳しい内容は大阪市ウェブサイトに掲載されています。

平成30年4月の保育を必要とする全ての児童の入所枠を確保するため市民の保育ニーズにきめ細かに対応するための取組をすすめます

http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/seisakukikakushitsu/0000388604.html

これまでの大阪市政からは考えにくい重点投資であり、子育て世帯として心強く感じます。一方、これで待機児童・入所保留が解消されるかはやや疑問を感じます。

平成29年度一斉入所における入所保留は3000人強

昨秋~今冬にかけて平成29年度一斉入所募集・結果発表が行われました。あくまで昨秋の中間発表時点での数字(詳細はこちら)となりますが、保育所等に入所できない児童は約3400人と見込まれました。

ここから入所辞退・小規模保育等の新設が行われているので、実際に入所できない児童はもう少し減るでしょう。しかし、2次調整を経ても3000人前後の児童が保育所等へ入れず、困ってしまう状況は変わりありません。

平成30年度に向けて5900人規模の保育所等の新設を予定しています。従来の保育所の年齢別定員等を基に、入所枠を推定してみました。

0歳1歳2歳3歳4歳5歳合計
保育所等の新設2506007908908908904,220
地域型保育等(小規模等)の新設4446006001,644
保育所等の建替整備92535404040189
合計7031,2251,4259309309306,019

H29一斉入所での年齢別保留推定数に当てはめると、初年度は1歳児を除けば募集数が申込数を上回る見通しです。しかし、持ち上がりが生じる2年目以降は、2-3歳児でも入所できない児童が生じると推測されます。

また、待機児童・入所保留児童は地域間の偏りがあります。昨年10月で保留児童が最も多かったのは西区の376人、次いで北区・城東区・淀川区でした(詳細はこちら)。市内中心部や通勤しやすい場所に集中しています。

新設される保育所等がこうした地域に集中するわけではないでしょう。他地域より多く新設されるでしょうが、極端な偏りは行われないでしょう。

また、保育所等が不足している中心部では、適した土地・オフィスフロアも不足気味です。仮に適した場所(多くは駐車場)があったとしても、決して条件は良くありません。

新設される保育所の立地を見る限り、戸建てやマンション等に適しておらず、消去法的に保育所を設置したと思われる場所が少なくありません。

更に保育士不足が拍車を掛けます。大阪市の新年度予算案では「保育人材の確保対策事業」も打ち出しています(詳細はこちら)。一定の効果は上げるでしょう。

しかし、新設される保育所等に必要とされる保育士は、1500人前後となるでしょう。これだけの保育士を新たに採用するのは容易ではありません。また、採用水準が下がり、平塚市の事件の様に問題を起こした保育士が採用される可能性が高くなるでしょう。

大きな効果あり、しかし市中心部等は依然として入りにくい

保育所等の大規模新設により、待機児童・保留児童は大きく低下するでしょう。しかし、中心部を中心として、入所できない児童は今後も生じる見通しです。

また、計画通りに新設できない可能性は低くありません。計画が下振れしたら、待機児童等は減りません。

ただ、一部では「こんなに保育所等を新設しても、入所者がいるのか?」という疑問を聞きます。しかし、これに対しては楽観的に考えています。

子育て世帯の都市部への集中・核家族化・共働きの増加・女性の高学歴化によるフルタイム志向は今後も続くでしょう。少なくとも市中心部や隣接地域では、当面は保育所余剰とならないでしょう。

反面、市周縁部は異なります。既に保育所へ入りやすい状況となっています。今後も少子化が進む見通しです。

こうした地域で保育所等が新設されても、入所者確保に苦労する可能性が高いでしょう。その為、事業者も応募しにくいと思われます。

具体的な公募地域等は、恐らく5月頃に公表されるでしょう。予算案は2月市会・教育こども委員会で議論されます。