保育施設へ入所する際には、「保育利用調整基準」に則って選考が行われています。平成29年度一斉入所以降の入所者を対象とした、基準の改正案・新たな要領案が公表されています。
・大阪市保育施設等の利用調整に関する事務取扱要綱」(案)
・大阪市保育施設等の利用調整に関する事務取扱要綱」(保育利用調整基準)の一部改正(案)
・内容一覧「新旧対照表」(案)
・大阪市家庭的保育事業等の連携施設に係る優先利用に関する事務取扱要領」(案)
公表されている改正案には多くの方に影響を及ぼす修正内容が含まれています。そこで、重要な改正点を中心に、一つ一つ取り上げていきます。
改正の趣旨は、(1)保育士優先枠の設定、(2)年度後半産まれの子供を少し優先、(3)連携施設の優先枠に関する要領設定です。
保育士の優先枠
改正案では新たに「保育士の優先枠」が記載されています。連携施設への優先枠に次いで優先される内容となっています。
(保育士の優先枠)
第7条の2
申込児童の保護者のいずれかが保育士(大阪府内に係る国家戦略特別区域限定保育士を含む。)であって、大阪市内に所在する保育施設等(利用調整時点において保育施設等としての認可を受けているものに限る。)において直接雇用により勤務する(月20日以上かつ週30時間以上又は週5日以上かつ日6時間以上勤務する又は勤務予定である場合に限る。)ために利用調整申請があった場合、第4条第1項の規定にかかわらず、当該児童について、前条の規定による利用調整に次いで優先的に利用調整を行う。
保育士の子どもが保育所等へ入所できなかった為に復職できず、保育士不足に陥るのを避ける為の措置でしょう。保育士が就職・復職しやすくなる効果が期待できます。改正趣旨も同内容です。
本市では、厚生労働省の定義による待機児童が平成28年4月1日現在で273人いるなど、保育を必要としながら保育を受けることができない児童を解消することが喫緊の課題となっているが、このような状況の一因として、保育施設等で勤務する保育士の不足が考えられるところである。
保育士の保育施設等への職場復帰を促すことで1人でも多くのこどもが保育施設等を利用できるようになると考えられることから、保育士のこどもを利用調整において優先することとした。
しかし、待機児童問題が深刻な地域を中心に、重大な副作用が生じる事態があります。「きょうだいが在籍している等、高い点数を有する児童であっても、保育士以外の家庭で希望保育所へ入所できないケースが多発する」という懸念です。
大阪市では市内中心部の1-2歳児を中心に、入所するのに201点以上を必要とする保育所等が少なくありません。H28保育所等一斉入所結果分析(5)によると、1歳児では84施設が該当すると推測されています。中には205点・207点を必要とする施設もあります。きょうだいが在籍していても、入所できなかったケースも現に生じています。
この様な事態が生じている原因は当該地域における保育所不足に加え、年齢毎の募集数が極めて少ない保育所がある為です。総定員が多い保育所ながらも、0歳児募集数が「3人」という保育所を想像すると分かりやすいです。
改正案によると、こうした保育所に保育士の子供が入所を希望した場合、より高い点数・強い理由がある児童よりも優先されます。保育士の子供が優先入所する合理性はあるでしょう。しかし、高い点数を有する児童と比較すると、やや均衡を逸していると感じています。事実上、全ての保育所等への入所についてオールマイティとなってしまいます。
目的は「保育士が復職・就職する為の、子供の保育所等への入所」にあるでしょう。優先性はその範囲内に留めるべきではないでしょうか。つまり、「第1希望の保育所へ入所できるかは分からないが、容易に登園可能な範囲にある保育所のいずれかには入所できる」という水準の優先性です。
一部の保育所等は入所するのに極めて高い点数が必要です。が、地域型保育事業を含む地域単位で考えると、204点以上あればほぼ全ての地域・年齢で保育所等へ入所できていると推測されます。
保育士優先枠の対象は基本点数表・就労の90点~100点に該当する方です。世帯全体では190点以上となるでしょう。これらを踏まえると、「保護者が第7条の2に該当する保育士であれば、一定点数(4-6点?)を加点する」というのが一つの考え方になるのではないでしょうか。
こうした加点措置であれば、保育士の就職・復職支援とそれ以外の世帯の希望との調和が図れそうです。
9/10追記:当初案のまま導入されそうです
パブリックコメントの結果公表を待たず、事実上、当初案通りに導入すると発表されました。また、同時に保育士への保育料の一部貸付制度(2年勤続によって返済免除)も発表されています。
保育士の子どもの優先入所と保育料の一部貸付を実施します
平成28年9月9日 14時発表
大阪市では、保育人材不足が深刻化し、全国的な課題となっている現状をふまえ(中略)、さらに保育人材を確保するための取り組みを強化し、新たに保育士の子どもの保育所等への優先入所と保育料の一部貸付事業を実施します。(以下省略)
http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/kodomo/0000375851.html
保育士不足の解消に繋がる一方、点数が高くて保育を必要とする児童が弾き出される恐れがあります。地域や保育所によっては問題が生じる局面もあるでしょう。
10月2日以降に産まれた子供を少しだけ優先
利用調整基準で同点だった場合に利用される「順位表」へ新たな項目が加えられています。経済的状況による調整より先に、10月2日以降に産まれた子供を優先して調整する内容です。
具体的には、下記に該当する児童を順位表の第5順位として調整します。
利用開始希望日の前々年度10月2日以降に出生し、前年度4月1日以前より本市内に居住していた児童であって、利用開始希望日の前年度の年度途中(10月利用開始分まで)より利用申込を行っているものの保育施設又は保育事業の利用に関する内定を一度も受けていないもの。
少し分かりにくいので要件毎に分解し、平成29年度一斉入所に当てはめて読み替えます。
(1)利用開始希望日(平成29年4月1日)の前々年度(平成27年)10月2日以降に出生した
(2)前年度(平成28年)4月1日以前より本市内に居住している
(3)利用開始希望日の前年度の年度途中(10月利用開始分まで→平成28年9月5日まで)より利用申込を行っている
(4)保育施設等の利用内定を一度も受けていない
平成29年度一斉入所の場合、平成27年10月2日以降に出生した・平成28年4月1日以前から大阪市内に住んでいる・平成28年10月利用分までに利用申込を行っている・内定を一度も受けていない、という児童が該当します。
狙いは年度後半に産まれた児童を入所しやすくし、年度前半産まれとの差別を少しでも解消する点にあるでしょう。改正趣旨にも同様の記載があります。
本市では保育施設等でこどもを預かるのは、原則として生後6か月以上からとしているため、4月1日時点で生後6か月に満たない場合は、保育施設等の利用が困難になる事例が見受けられる。これを踏まえて利用開始希望日の前年度4月1日時点で生後6か月に満たず本市に居住し、前年度の保育利用を申込みながら利用内定に至らなかった児童については、優先度を高めるようにすることとした。
0歳児一斉入所が可能な年度前半産まれと比べ、それが出来ない後半産まれの児童の保育所入所は極めて厳しいのが実情です。フルタイム共働きであれば0歳児一斉入所は容易ですが、市内中心部等の保育所を希望する1-2歳児は難しくなっています。
本改正案の趣旨には賛成です。ただ、この内容は「育休の切り上げ」を誘発しかねません。つまり、10月入所申込に合わせて育休を切り上げる動きです。10-11月産まれの児童であれば影響は小さいでしょう。しかし、2-3月産まれの児童・保護者への影響は大きいです。
年度後半産まれを優先させるのであれば、(3)の利用申込要件は不要ではないでしょうか。既に利用を申し込んでいる児童は同時に認可外施設も利用しているケースが多く、認可外加点(5-7点)で調整済みです。
育休切り上げの誘発、実は他の項目でも生じてしまっています。一斉入所申込までに復職・認可外へ入所し、加点を得るのが一例です。育休を切り上げるかは個人の判断ですが、利用調整基準が一因なのは少し悲しいです。
年度後半産まれの児童が入所しやすくするには、保育所等の新設・既設施設の1-2歳児募集枠の拡大が根本的な方法です。しかし、後者を実現する場合、それ以外の年齢の募集数・定員数に影響を及ぼしてしまいます。1-2歳児クラスを増員すれば良いだけの話ではありません。
なお、本改正案がそのまま導入された場合、導入前の9月5日までの利用申込が対象とされます。要綱の内容が事実上、遡及適用されてしまいます。全く問題ないとは言い切れません。
連携施設の優先枠に関する要領設定
連携施設への優先枠自体は以前から存在していました。しかし、具体的な調整方法は明らかにされていませんでした。そこで、新たに「大阪市家庭的保育事業等の連携施設に係る優先利用に関する事務取扱要領」が設けられます。
「大阪市家庭的保育事業等~」という要領名を見て、「小規模保育には適用されないのか?」と疑問に感じた方もいるかもしれません。私もその1人です。しかし、大阪市の用語集では「家庭的保育事業等=地域型保育事業」とされています。
誤読・誤解を避ける観点から、「大阪市地域型保育事業~」とするのが無難かもしれません。
要領の趣旨は下記の通りです。
(1)優先入所の対象たる連携施設は保育所・認定こども園(幼稚園は含まない)
(2)優先利用枠の上限は、各事業者が協定書等によって定める
(3)優先利用希望が利用枠を超過した場合は、利用調整要綱・基準に基づいて調整を行う
要領の内容自体に大きな問題はないでしょう。しかし、要領外に大きな問題があります。肝となる連携施設・優先入所数が公表されていないのです。
現時点で連携施設を公表しているのは一部(西区等)に限られています。そして、優先入所数は全く公開されていません。保護者が優先入所枠の利用を検討しても、何ら判断材料が得られません。
要領の実施と同時に、連携施設・優先入所数等も公表するのが望ましいでしょう。申請状況等の公表を定めた利用調整要綱第9条を準用するのが簡単そうです。
パブコメは9月5日まで実施
本改正案に対する意見聴取手続(パブリックコメント)は9月5日まで行われています。紋切り型の回答が多いのが実情ですが、中には意見の趣旨が改正案に反映されるケースもあります。
思うところのある方、待機児童問題について一言ある方、入所できなくて切実に困っている方、保育所等で働いて困難に直面している方等、意見等がある方は是非応募して下さい。
年度後半生まれを優遇するという調整内容の変更についても、以下の問題があると考えられます。
・平成29年度申し込み分から適用となると、育休を延長して1歳入園を予定していた平成27年度前半生まれが不利になります。
それならば、育休を切り上げて平成28年度0歳入園を狙えばよかったとなる方が出てくるでしょうし、平成28年度0歳入園を狙ったが内定を受けられなかったり、入園したい園が0歳児の保育人数減で申し込みを断念し、やむを得ず1歳まで延長している方もいらっしゃるかと思います。
(書かれてもいますが、0歳の保育人数が3人の入園希望者は加点がない限り入園が非常に難しいケースが多いかと。)
今回の調整内容変更はこれらの方々にとっては後出しの不利な条件変更となります。
これは問題ではないでしょうか。
実施するのであれば、再来年度の一斉入所申し込みから適用とすべきと考えます。
・「前年度4月1日以前より本市内に居住していた児童である」という条件について、親の転勤や新居の完成が4月2日以降になった児童に対し、考慮されておらず、不要な条件であると考えます。
逆に今後、本来大阪市への転入が4月2日以降になるはずの児童について、市内の親族や知人の住所に住民票をあらかじめ移しておくという不正が働かれるおそれもあります。
どうしても大阪市への居住を要綱に盛り込みたいのであれば、認可保育園への申し込みが可能となる生後6か月となる月もしくは日までに居住している、とすべきではないでしょうか。それ以降に居住していても、元々申し込みが出来ませんので、申し込みが出来るのに入れなかった人という面では辻褄が合うのではないでしょうか。
申し訳ありません、「どうしても大阪市への居住を要綱に盛り込みたいのであれば」以降の下りはこちらに変更させてください。
「どうしても大阪市への居住を要綱に盛り込みたいのであれば、認可保育園への申し込みが可能となる生後6か月となる月もしくは日までに居住している、とすべきではないでしょうか。それ以前に居住していても、元々申し込みが出来ませんので、申し込み可能時期より前に大阪市に住んでいることで、年度前半生まれの「一斉申し込みより前に出生し大阪に居住している」という状況と条件を同等にできるのではと考えます。」
コメントありがとうございます。
確かに年度前半生まれで育休を延長した方や待機児童のままの方は、相対的に不利になってしまいますね。
0歳児一斉入所申込が制度的に不可能である、年度後半生まれを1歳児入所で救済する趣旨は理解できます。
問題はその方法と、事後的な変更によって不利益を受ける児童とのバランスでしょう。
生まれ月を理由として0歳児一斉入所申込ができなかった児童の救済措置が目的である以上、居住時期要件は必要でしょう。
時期を一律4月1日にするのではなく、「(入所申込が可能な)満6ヶ月までに」とした方がベターですね。
4月1日とした場合、10月2日生まれと3月31日生まれで要件が実質的に異なってしまいます。