地域型保育事業は2歳児クラスまでです。3歳児からは他の施設へ通う必要があります。すんなり決まれば良いですが、難航すると大変です。
ミニ保育所卒園児、保育所の優先入所を 厚労省が要請
2016/8/7 23:51 日本経済新聞
厚生労働省は2歳までの子どもを預かるミニ保育所(小規模保育所)を卒園した子どもを優先して保育所に入所させるよう自治体に要請した。同省の調査に利用者から3歳以降の保育を不安視する声が多く寄せられた。政府目標として掲げる2017年度末までの待機児童解消に向け、自治体に細やかな保育サービスを促す。
ミニ保育所は0~2歳児までを6~19人程度の少人数で預かる施設。昨年4月から正式に認可保育所となった。保育のニーズが高い1~2歳児の受け皿拡大として期待される一方で、現在の制度では3~5歳児を預かることができないため卒園後に待機児童になってしまう可能性がある。
厚労省は今年3月から5月にかけて、保護者などから保育に関する意見を募集した。調査では「ミニ保育所を卒園した後も継続して保育所に通えるか心配」という意見が多かった。
市町村などは保育所の定員よりも申請した子どもの数が多い場合、点数を付けて誰を優先するかを判断している。厚労省はひとり親の子どもなどを加点する指針を出しているが、細かい制度は自治体が独自に決めている。
厚労省は自治体に点数制度を公表するとともに、ミニ保育所を卒園した子どもへの配慮を要請。判断は自治体に委ねられるが、多くの市町村はミニ保育所卒園児への点数引き上げなどを検討する見込みだ。
大阪市の場合、保育所等への入所を検討している方の大半は0-5歳児までの保育を行う保育所を第1希望としています。小規模保育等の地域型保育事業の希望者は決して多くなく、希望順位も低いのが実情です。
内容周知の不十分さ・歴史が浅い事への懸念・施設の小ささ・2カ所保育の敬遠(きょうだいがいる場合)等、様々な理由が考えられます。大きな理由の一つが「3歳児以降の保育に対する不安」です。
地域型保育事業は原則として満3歳を迎えた年度末までの保育を行います。3歳児以降は別の保育所等へ通う事になります。記事にある通り、「卒園後に継続して保育所へ通えるか」を心配している方は少なくないでしょう。
保育所探しを再び行わなければならない事に対する負担感も相当強いでしょう。多くの2-3歳児の保護者は仕事と家事・育児の両立で精一杯です。これに加えて、保育所を見学して検討する時間を割くのは容易ではありません。
現行制度下では、大半の親が保育所を第一に検討・希望するのは当然だと見ています。
そもそも3歳児定員が少なすぎる
厚生労働省は地域型保育事業の卒園児へ加点する様に要請しています。これで問題は解決するのでしょうか。
実は既に大阪市では「6点」を加点しています(詳細は入所選考基準を参照)。しかしながら、加点があっても入所できなかったという話は時折耳にします。
例えば大阪市西区を考えてみます。待機児童問題が極めて深刻な同区では、他区より早く地域型保育事業が展開され、設置数は市内最大規模となっています。
同区での平成28年度一斉入所における3歳児入所希望者71人いました。それに対し、入所が決定したのは33人のみでした。入所倍率2.15倍、すなわち半数以上は決まらなかった結果です。実は中間発表時の予想倍率は7.67倍にも達していました。
決まらなかった児童の中には地域型保育事業の卒園児もいるでしょう。「地域型保育事業から認可外保育へ入所した」という話を聞いた事があります。
この様な事態を招いた原因は、「3歳児の保育定員・募集数が少なすぎる」という点にあります。点数制度を多少調整しても、入所できない3歳児の総数は変わりません。
また、加点措置を行ったとしても、結果が発表される2月前後にならなければ入所先は判明しません。親も子も落ち着かない状態で年明けを迎えるわけです。
設定が進まない連携施設
一つの解決方法として導入されているのは「連携施設」です。保育所や幼稚園等を対象とし、地域型保育事業の連携園となって物品貸与・合同行事の実施・優先入所枠の確保等も目指したものです。
しかし、地位型保育事業との運営方針・文化等の違い、職員数の確保が困難等の理由により、連携施設の設定は進んでいません。大阪市会でも取り上げられました。
【のりきよ議員】
連携施設の現状は?【大阪市担当者】
市内の地域型保育事業所は102カ所、連携施設として3歳児の受け入れ先を確保しているのは35カ所【のりきよ議員】
平成31年度末までの連携施設の確保義務がある、あと4年
本当に見つかるのか不安、どうして見つからないのか?【大阪市担当者】
保育士不足により、民間保育所では3歳児受け入れ枠が確保できない
私立幼稚園は3歳児受け入れ枠に余裕があるが、夏休み等に預かり保育を実施するのが難しい
連携先に派遣する代替保育士が普段と異なる環境での保育を行うので、事故リスクが高くなる
運営法人の教育・保育に対する考え方の違いから、不安がある
連携施設の設定には平成31年度末までの猶予期間が設けられています。しかし、それまでに全ての施設で決まるとは到底考えられません。なし崩し的な対応が迫られるのではないでしょうか。
制度自体に無理があった?
地域型保育事業には待機児童問題が特に深刻な0-2歳児の保育の場を確保するという目的がありました。確かに0-2歳児を保育する場所は大幅に増えました。しかし、3歳児といういわば出口戦略は等閑のままです。
「地域型保育事業で3-5歳児も保育できれば解決する」という意見もあります。子ども子育て会議において意見書が提出されています。
・都市部においては3歳児でも待機児童が発生していること。幼稚園が3歳児以降の受け皿になっていない
・そこで、地域型保育でも3歳児以降を受け入れられるように制度改正を行う。
・例えば、3歳~5歳までの子どもを12人預かる小規模認可保育所を作れるようにします
・既に企業主導型保育所や、同じ地域型保育の事業所内保育所では5歳まで預かれるようになっているので、小規模のみ0
~2歳に制限することは、意味をなさなくなっています
・ 小規模保育が全年齢対応になることで、より待機児童の解消に貢献しえます
しかし、身体能力が発達して走り回る3-5歳児を小規模な施設を利用して保育するのには無理があるでしょう。集団保育に欠け、人間関係が容易に固定化してしまいます。
3歳児以降の保育を地域型保育事業で行うのであれば、そもそも保育所へ移行するのが自然な方法です。
都市部を中心として、当面は全国で地域型保育事業が増えていく見込みです。しかし、こうした地域は保育所が足りていません。地域型保育事業の増加に伴い、3歳児の入所は困難さを増していく恐れが強いです。
既存の制度を利用するのであれば、3歳児以降は幼稚園での受け入れを図るのが無難です。特に大阪市では、地域型保育事業が多い地域と市立幼稚園がある程度重複しています。市立幼稚園の3歳児クラスを増やし、17時までの預かり保育を充実させれば助かる家庭は多いでしょう。
大半の保護者の希望は「認可保育所が第一」です。これを出発点として、話が進んで欲しいです。