H28保育所等一斉入所結果分析、3回目は区毎・年齢毎の入所決定状況を考察していきます。
大阪市では今年の発表分から各区毎・年齢毎の申込数・利用数を発表しています。これにより、実際に入所が決まった数字が明らかになりました。
大阪市の保育所入所待機児童数について(平成28年4月1日現在)より作成
入所倍率1.5倍超は西区・北区
上記表では倍率2倍以上をオレンジ、1.5倍以上を薄オレンジで表しています。
入所倍率が1.5倍を超え、1/3以上が入所できなかったのは西区と北区でした。両区とも大型マンションの建設が盛んに行われていて、保育を必要とする子育て世帯が多く転入している為でしょう。
西区は1.61倍と市内ワーストの入所倍率でした。特に2-3歳児は高くて、2倍を超えています。入所できたのは半分未満でした。0-1歳児で入所できなかった児童が数多く2-3歳児入所へ申し込んでいると推測されます。
西区の3歳児は「地域型保育事業の卒園児」が少なくないでしょう。待機児童問題が深刻な西区は、市内他区に先駆けて地域型保育事業(保育ママ・小規模保育事業)の整備を行ってきました。施設数や総定員に対する割合は市内屈指の高さでしょう。
しかし、地域型保育事業で保育が出来るのは原則として2歳児(満3歳を迎えた年度の年度末)までです。卒園児が数多くいる西区では3歳児保育の入所倍率がひときわ高くなっていると考えられます。
一方、北区は1歳児が1.85倍、2歳児が2.29倍と高くなっています。保育を必要とする子どもが多い一方、西区と比べて保育所整備に重点を置いています。その為、1-2歳児の入所倍率と比べて3歳児の入所倍率は抑えられているのではないでしょうか。
都心部の1-2歳児は半数強のみが入所決定
子育て世帯の転入が著しい区では、1-2歳児の入所倍率が高くなっています。上記2区以外では、都島区・中央区・天王寺区・浪速区・阿倍野区が該当します。入所を申し込んだ1-2歳児の内、入所できたのは半数強程度という結果でした。
こうした地域では、保育所等の整備が追いついていません。特に大型タワーマンションが建設されると街が1個増えた事となりますが、保育所はそうした地域でピンポイントに増えません。
こうした地域・年齢で保育所等へ入所するには、大半の場合はフルタイム共働きが必要となってきます。そうでなければ厳しい状況と言えるでしょう。
実は入所しやすい0歳児(1.11倍)
ここからは年齢別に見ていきます。まずは0歳児です。
0歳児全体の入所倍率は1.11倍でした。全年齢の入所倍率1.25倍を下回り、5歳児と並んで最も低い入所倍率となっています。10人中、概ね9人は入所が決まっています。募集数ベースで見ると、実質倍率は1倍前後となるでしょう。
1-2歳児と比べて0歳児入所倍率の低さは際立っています。理由は簡単です。「一斉入所への申込資格があるのは、原則として当該年度の4-9月生まれの児童のみ」だからです。保育施設への申込書に下記の記載があります。
保育所
就労等のために家庭で保育のできない保護者に代わって、0歳(原則として生後6か月以上、以下同じ)から小学校就学前の乳幼児を保育する児童福祉施設です。
保育所等は生後6ヶ月以上(施設によって例外あり)の乳幼児の保育を行います。一斉入所は4月1日入所です。つまり、この日に生後6ヶ月以上を迎える児童のみに、一斉入所への申込資格があります。
単純に計算すると、申込資格があるのは当該年度に産まれる0歳児の半数です。潜在的な申込数の半数しか該当しません。また、生後間もない子供をしばらく育児したいと考え、0歳児入所を見送る家庭もあるでしょう。
0歳児入所を迷う・躊躇う気持ちは本当によく分かります。かわいい盛りの0歳児を自分でしっかり育児したい、初めて歩く姿を自分で見たい、と思う気持ちは当然でしょう。
しかし、現在の保育所入所システムや定員配分では、0歳児入所が明らかに容易です。特に0歳児と1歳児の入所倍率が懸け離れている都心部では尚更です。「0歳児入所なら入れる、1歳児だと分からない」という状況では、本心に反するけど0歳児で入所する決断をする家庭も少なくないでしょう。
倍率以上に厳しい1歳児(1.34倍)・2歳児(1.37倍)
0歳児とは対照的に、入所が一気に難しくなるのが1歳児です。全体の入所倍率は1.34倍です。
「0歳児と大して変わらない」と捉えるのは大きな間違いです。入所決定率ではそうかもしれませんが、不承諾率は0歳児の3倍前後に跳ね上がります。
1歳児入所が難しい理由の一つは0歳児入所の裏返し、つまり年度後半生まれの児童が一斉に入所を申し込むからです。妊娠・出産を機に職場を離れたものの、子供の成長を機に再就職を考えるというパターンもあるでしょう。
また、市内中心部で増えていると推測されるのが「出産後に市内中心部へ転入」という世帯です。実は市内中心部でも0歳児入所倍率は低いです(但し入所に必要な点数は高い)。西区ですら1.13倍、北区1.12倍、中央区1.09倍です。しかし、他区とは異なり、こうした区の1歳児入所倍率は2倍弱へ跳ね上がっています。
理由とそれぞれの想定人数をまとめてみました。
理由 | 人数 | 備考 |
年度後半生まれ | 3288 | H27一斉入所0歳児申込数と同値 |
0歳児一斉入所で不承諾 | 267 | H27一斉入所0歳児不承諾数 |
その他 | 2000 | 0歳児入所申込見送り・中心部への転入等 |
合計 | 5596 |
1-2歳児と0歳児の入所倍率の違いは、結果的に保育所等へ大きな負担が掛かってしまっています。特に保育所入所が難しい地域では、育休を切り上げて0歳児入所を行うのが合理的です。その為には、年度前半に出産する必要があります。
0歳児保育には、他の年齢以上に数多くの保育士が必要とされています。厚生労働省の基準では0歳児3人に対して保育士1人以上の割合で配置する様に定められている一方、1歳児は6人に対して保育士1人以上の割合となっています。つまり、必要な保育士数が倍も違っています。
持続可能な保育システムを検討するのであれば、0歳児入所は難しく、そして1-2歳児入所は容易にするのが望ましいでしょう。そうなれば、保育所へ入所しやすい0歳児で入所する為に、敢えて育休を切り上げる動きは減少するでしょう。
また、0歳児定員を抑制できれば、保育士を他の年齢のクラス・施設へ配置できます。保育士不足の解消の一助ともなります。最近、首都圏を中心に少しずつ0歳児クラスが無い保育所が増えているのは、こうした考えと無縁ではないでしょう。
大阪市の新設保育所で0歳児クラスがないという話は聞きません。ただ、市立保育所では保育士不足により、0歳児クラス等の定員を縮減せざるを得ない状況となっています。
1歳児クラスへ入所しにくい問題は、2歳児クラスでも概ね同一です。2歳児クラスは募集数が少なく、皆無という施設もあります。その為、近隣の保育所へ入所したくても募集がなく、まとまった数を募集している施設へ申込が広範囲から集まるという現象が起きやすいです。
0-1歳児まで家庭で保育し、2歳児から保育所を利用できる定員配分も必要でしょう。事実上、年度前半生まれの0歳児が優先される現状は不合理です。
卒園児問題に揺れる3歳児(1.19倍)
3歳児の入所倍率は1.19倍と全体平均を下回っています。しかし、区別に見ると、ハッキリした違いが生じています。
多くの区で生じているのは「全入状態」です。申込数と利用数がほぼ同じで、ほぼ全ての申込者が保育所へ入所できている区です。保育所へ入所しやすく理想的と言える反面、欠員が生じている可能性があります。
次に多いのは入所倍率が1.3倍程度となっている区です。見た目の倍率は決して高くありません。しかし、施設毎の3歳児入所募集数はバラツキがあります。第1希望入所倍率が高い施設と(募集数が多いので)低い施設で二極化しやすいです。
その為、点数が高くても希望順位が高い保育所へ入れる可能性は決して高くありません。3歳児入所では「募集数の多さ」が重要な要素となります。
そして、既に西区で生じていて、これから市内中心部で発生する可能性が高いのは「地域型保育事業の卒園児の保育先」です。
地域型保育事業の卒園児は連携施設へ優先的に入所出来る様にされています。しかし、連携施設の設定には猶予期間が設けられており、現時点で設定されている施設は半数未満です。また、入所選考システム上で卒園児に加点処理(6点)が行われていますが、認可外保育加算(半年以上で7点)に劣っています。
その為、西区等では地域型保育事業を卒園したものの保育先が見つからず、何と認可外保育施設へ入所したというケースが発生したと聞きました。本末転倒としか言い様がありません。
保育所と比べて地域型保育事業を第1希望とする方は極めて少ないのが現状です。こうしたリスクに加え、きょうだいがいる場合に2カ所保育を強いられる時期もやってきます。
平成29年度以降は西区以外でも発生しそうです。3歳児利用数(定員)が少なく、かつ1-2歳児の入所保留児童や地域型保育事業が多い区で懸念されます。
なお、特異な事に、住之江区・住吉区も3歳児入所倍率が跳ね上がっています。これは各区毎の投稿で触れていきます。
次回は区・年齢毎の入所決定状況を
発表された資料から区毎・年齢毎の入所倍率等は判明しました。しかし、入所を希望する保育所でどれだけの点数が必要かは読み取れません。
大阪市では各保育所毎の新規入所者の点数を公表しています。このデータを基に、各区毎の点数・入所状況を探っていきます。