「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログが話題になっています。表現内容の過激さはともかく、趣旨は十分に理解できます。

政府が掲げる一応総活躍社会・待機児童0を実現するには、どれだけの保育園を新設すれば良いのでしょうか。昨日放送されたNHKあさイチでは「保育定員50万人」が目標とされていました。これは全国での数字です。そこで、より身近な自治体単位にまで落としてシミュレーションしてみます。

シミュレーションとして取り上げるのは、待機児童問題一揆等が行われた杉並区です。同区では平成19年度の保育定員が5,461人であった一方、平成27年度には8,950人へと急増しています(杉並区議会議員中村やすひろ氏のウェブサイトより)。それでも保育園に極めて入りにくい状況のままです。どこに原因があるのでしょうか?

必要な保育定員はは0-5歳児人口の5割か

待機児童0を実現する為に、そもそも必要とされる保育定員は何人でしょうか。大阪市での保育所入所・待機児童の発生状況等を分析する限り、「概ね0-5歳児人口の50%」が一つの目安だという結論に達しています。待機児童はほぼ0・入所保留児童も限定的という水準です。

ただ、東京23区の様な共働きが多いと推定される地域においては、保育園を必要とする世帯は大阪よりも多いと考えられます。「少なくとも0-5歳児人口の半数が必要」という認識です。

0-5歳児は8年で4,000人増加

保育所を必要とするのは0-5歳児です。平成19年4月時点での0-5歳児人口は19,691人でした。一方、平成27年4月時点では23,996人へと4,000人以上も増加しています。

これは子育て世帯の都心回帰の動きに加え、杉並区の子育て事情の良さが広く知れ渡った為ではないでしょうか。

保育定員率は27.7%→37.2%へ改善

上記の通り、同区では平成19年度の保育定員は5,461人でした。0-5歳児人口に対する割合は27.7%でした。一方、平成27年度には8,950人分の保育定員となり、37.2%にまで上昇しました。8年で約3,500人分の保育定員が整備されました。驚くべき水準です。

しかし、目安とする50%へは、依然として約13%分が不足しています。

まだ3,100人分が足りない?

不足している定員は約3,100人分です。総定員150人の保育所であれば、21カ所の新設が必要と推定されます。

私は杉並区に土地勘が全く無い人間ですが、果たしてこれを可能とする土地は区内にあるのでしょうか?

安い保育料が入所申込を誘発?

杉並区の保育園関連資料を見て驚いた事があります。それは保育料の安さです。大阪市より明らかに安く、羨ましいぐらいです(杉並区の保育料表大阪市の保育料表)。

3歳未満児保育料(標準時間)杉並区大阪市
区民税所得割額5万円15,40015,700
10万円21,50028,300
20万円29,20045,100
30万円35,70053,000

財政面で厳しい大阪市と比較して、東京は余裕がある自治体が多いと聞いています。保育所を必要とする子育て世帯にとって、安い保育料は本当に助かります。その一方、当然ながらより多くの保育所入所申込を促しかねません。

保育料の引き上げによる申込抑制・保育士の待遇改善という選択は?

昨日のNHKあさイチで取り上げられたとおり、保育士不足は深刻な問題となっています。その理由の一つは、低賃金に代表される待遇の低さです。であれば、保育料の引き上げを財源として保育士の待遇を改善するという選択も議論の対象となるのではないでしょうか。

粗い試算となりますが、仮に全ての園児1人あたりの保育料を月額1万円引き上げた場合、保育士の給与を月額3万円程度は引き上げられそうです(常勤換算)。一方、保育料の引き上げは子育て世帯の家計を直撃します。月1万円の出費増は厳しいです。

更なる負担が可能な所得を得ている世帯を対象として保育料を引き上げ、代わりに保育士の処遇改善・保育所の整備促進・認証保育料の補助増額等、様々な子育て支援策に充当するのがマイルドなやり方かもしれません。

私自身、この選択が社会的経済的合理性を有しているかは確信が持てません。但し、少なくとも、保育所入所申込の抑制・保育士の待遇改善・保育士として働く事を希望する人間の増加は図れるでしょう。

大阪市に住んでいると、杉並区の様な都心部の保育料の安さが羨ましく感じられます。反面、そうした街には子育て世帯が数多く集まり、保育所への入所申込が殺到するのは当然だと見えてしまいます。保育所が足りない理由を冷静に考える必要があるでしょう。