#保育士止めたの私だが盛り上がっています。お世話になっている保育所でも3月末で数人の保育士が退職されました。他の保育所へ再就職する先生、田舎へ帰る先生、他職種へ転職する先生、しばらくは実家で休む先生、選択は様々です。

保育士の離職率が高い原因の一つとして「給与の低さ」が指摘されています。「全産業平均より月給10万円以上も低い」と主張されています。高離職率の主たる原因なのでしょうか?

保育士の97.2%は女性

平成22年国勢調査(職業小分類)によると、働いている保育士の大半は女性です。率にすると97.2%です。一方、男性保育士は僅か2.8%に過ぎません。30人から40人程度の保育士が働く保育所において、男性保育士は概ね1人という結果となっています。

項目就業人数
保育士総数47万4900人
女性保育士46万1750人
男性保育士1万3160人

保育士の給与問題は2つの要素に分けて考えるべきです。1点は「保育士としての給与」、もう1点は「男女の賃金の違い」です。

女性保育士は全産業平均(女性)より年収50万円低い

「保育所等で働く保育士の大半は女性である」という前提であれば、保育士の給与として比較するのは「全産業(男女計)」ではなく「全産業(女性のみ)」が適切でしょう。平成27年度賃金統計から比較します。

項目全産業平均(男女)全産業平均(女性)女性保育士男性保育士
年齢42.3歳40.7歳35.2歳30.9歳
勤続年数12.1年9.4年7.7年5.8年
きまって支給する現金給与額33万3300円25万9600円21万8200円23万8200円
年間賞与その他特別給与額89万2700円61万1900円60万2900円60万4500円
推定年収489万2300円372万7100円322万1300円346万2900円

全産業平均(女性)の年収は372万7100円となりました。全産業平均(男女)の年収より100万円以上も落ちています。一方、女性保育士の平均年収は322万1300円となりました。全産業平均(女性)より約50万円低い結果となっています。

女性保育士の給与を全産業平均給与と比較した場合、年収160万円以上も低いという結果となりました。月給10万円+賞与40万円の違いと考えれば分かりやすいです。

保育士給与は一般的な短大卒より月給1.5万~3万円低い

更に具体的なデータも公表されています。大阪市が行っている「保育士民間給与実態調査」です。これは大阪市内で認可された私立保育所等で働く保育士を対象とした調査です。「大阪市保育士(係員級)」「民間保育士(役職無し)」「賃金センサスに基づく平均給与(短大卒)」を比較しています。

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これによると、民間保育士は賃金センサス(短大卒)の平均給与を概ね1万5000円~3万円程度下回っているという結果となっています(45歳以上を除く)。賞与等を含めた年収ベースとなると、20万円~40万円ほど下回るという結果になりそうです。

なお、同じ表で大阪市保育士も取り上げています(調査の主目的は実はこちら)。平均給与は民間保育士より5万円以上も高く、賞与や福利厚生を含めたら極めて大きな違いとなっています。官民格差が浮き彫りになります。

「全産業平均33万円より10万円以上も低い」は事実だが恣意的

これらから分かるとおり、保育士の賃金は高くありません。「全産業平均33万円より10万円以上も低い」は事実です。しかし、これは適切でない対象と恣意的に比較している数字です。誤った情報を流布している可能性があります。

保育士の給与の低さを論じるのであればまずは賃金センサス(短大卒)へ、そして全産業平均(女性)と同等水準への引き上げを検討すべきではないでしょうか。保育士不足を理由に急激な賃上げを行う事には少し危険を感じます。

保育士がどれだけ大変な仕事かは、毎日の保育所への送り迎えで実感します。また保育士不足も深刻です。しかし、ここから一足飛びに「月給5万円~10万円を引き上げるべき」という主張に繋げるべきではないでしょう。保育士給与の引き上げを突破口に女性給与全般の引き上げを狙うならともかく、保育士のみを引き上げると他職種との均衡を著しく失ってしまいます。

給与問題も去る事ながら、保育士不足の背景には重労働・勤務環境・就業時間に起因する問題がより大きいのではないかと感じています。少し先に別記事で考えてみようと思います。