保育の質は確保できるのか?

保護者として気になるのは、要件弾力化によって保育の質が低下する事態です。いずれの内容も保育士の代わりに近接職種資格者や無資格者を配置する内容です。こうした措置が取られれば、一定程度の保育の質の低下は避けられないでしょう。問題は「それが許容範囲か否か」という点です。

日頃から充実した保育を行っている事業者であれば、こうした措置を導入しても大きな問題は生じないでしょう。トラブルの予兆があっても、事前に施設側や保育士が気づくでしょう。

こうした措置を導入するのは保育士確保に苦戦している地域の事業者が想定されます。苦戦するのには何らかの理由があるでしょう。中には劣悪な勤務環境で離職率が極めて高い保育所の話も聞きます。こうした事業者が要件を緩和したら、保育の質は危険な水準以下に落ち込むと予想されます。

取りまとめ案の留意事項として「一定期間において都道府県等から勧告や改善命令等を受けている事業者については、各要件弾力化案の実施を認めないこととする」と記載されています。しかし、勧告や改善命令等を受けるのは児童が重傷を負った等、極めて重大な事件・事故が起きた場合に限られているのが実情です。野放図な緩和に繋がりかねません。

そもそもどうして保育士が足りないのか?

保育士不足の原因は簡単です。「子育てや家庭との両立が困難」「低賃金」が主な理由です。育児や家事等の負担があり、また景気回復期はより賃金が高い他職種を容易に見つけやすい時期です。

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参考資料1 保育士等に関する関係資料 より

何らかの形で正規雇用の保育士の給与を増やすのが必要でしょう。特に短時間勤務を希望する潜在保育士は更に給与を増額し、職場復帰へのインセンティブを高めるべきでしょう。

資料にあるのが「短時間正社員制度」です。時間単価で正規職員に遜色ないレベルまで給与が引き上げられれば職場復帰する保育士が増え、長時間労働となりがちな正規雇用保育士の負担も軽減されるでしょう。現在の短時間労働保育士の平均時給「980円(勤続5.4年)」はあまりに低いです。そりゃ、保育所に戻らないわけです。

これによって労務管理が煩雑となる部分については事務職員を増員(ここも補助金?)するのが理想的でしょう。実はお世話になっている保育所では保育士が事務作業等を行う姿をよく見かけます。保育士として行うべき作業以外は、事務職員等の専任職員と分担すべきでしょう。そもそも大半の保育士は事務スキルの訓練を受けておらず、遙かに高いスキルを有する一部保護者が誤りを指摘する光景を見かけるぐらいです。

弾力化案は利用者にメリット無し

要件弾力化案は保育所の運営に資する一方で、働く保育士や利用する児童や保護者にとってのメリットは皆無でしょう。強いて言えば「弾力化によって新しい保育所が開設されやすくなる」程度です。

待機児童問題が深刻な現状では致し方ない弾力化かもしれませんが、根本的な解決策からは懸け離れているという印象です。仮に弾力化を行う保育所があれば、そうした情報を保護者へ正確に伝えるべきです。適用事業者・事業所を各自治体のウェブサイトで公開し、選択を保護者へ委ねるべきでしょう。

なお、保育の代わりに幼稚園教諭等を活用する案は、まずは自治体が運営する公立保育所から実施すべきでしょう。特に小学校教諭・養護教諭の人事権も有している政令市であれば、すぐに実現できるでしょう。その効果を検証して欲しいです。