9月28日の衆議院解散が事実上確定しました。

それに先立ち、安倍首相は経済財政諮問会議において「全ての3~5歳児・低所得家庭の0~2歳児の教育・保育無償化を実現したい」という方針をしましました。昨今の報道等を鑑みると、総選挙における大きな争点に浮上しそうです。

3~5歳児の教育無償化 首相表明、消費税収を活用
2017/9/25 15:29

 安倍晋三首相は25日の経済財政諮問会議で、3~5歳のすべての子どもの幼児教育・保育の費用を無償化する方針を示した。こうした教育無償化などの施策について「2兆円規模の大規模な政策を実行する」と述べた。財源として2019年10月に予定する消費税率の8%から10%への引き上げによる税収増を充てる考えを示した。

 0~2歳の子どもも所得が低い家庭に限って無償化する方針を示した。首相は同日夕に記者会見して衆院を解散する意向を表明し、消費税収の使い道の変更などについて国民に信を問う考えだ。

 8%から10%への消費税の引き上げによる増収分のうち赤字の削減に充てることになっていた4兆円のうち、半分を幼児教育無償化や高等教育の負担軽減の財源に回す。2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する財政健全化目標は一段と難しくなることは避けられないが、首相は諮問会議で「実現していく」と述べるにとどめた。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS25H1W_V20C17A9000000/

幼児教育・保育の無償化は子育て世帯にとってありがたい話でしょう。単純に可処分所得が増大する効果が期待できます(消費税増税による負担増を除く)

しかし、幼児教育・保育に費やしている金額、すなわち幼稚園や保育所等の保育料は、各世帯によって非常に大きく異なります。現に子育てしている世帯ならまだしも、これから結婚・出産を考えている方は詳しく知らないでしょう。

そこで、現時点における一般的な幼児教育・保育負担の負担額算出メカニズムを記した上、無償化効果の大小を検討します。キーワードは「応能負担」です。

幼稚園・保育所等の実質保育料は「応能負担」となっている

原則として、幼稚園(一部を除く)の保育料等(入園金・毎月の保育料・食費・バス料金等)は各幼稚園が決定しています。

たとえば森友学園問題で話題になった塚本幼稚園では、毎月下記の金額を必要とします。

保育料:21,000円
PTA費:2,100円
給食費:4,500円
バス協力費:2,500円
教育費:8,000円
備考:就園奨励金補助制度あり
http://kinder-osaka-guide.jp/pdf/?id=283&color=green

全てまとめると月額約38,000円となります。大阪市内の私立幼稚園としては、一般的かやや高い負担額という印象です。しかし、各家庭が全額を負担するわけではありません。備考欄にある「就園奨励金」が支給されるからです。

就園奨励金とは、私立幼稚園(一部を除く)に就園させている世帯に対し、世帯所得に応じて補助金が支給される制度です。

大阪市内の3歳児(第1子)の場合、生活保護世帯やひとり親世帯は年額308,000円、中所得世帯は62,200円、高所得世帯は40,900円~10,500円が支給されます(詳細はこちら)。

なお、大阪市は既に4-5歳児に対して教育費無償化を実現しています。幼稚園に通う4-5歳児は、無条件で年額308,000円が支給されています。

これにより、就園奨励金と幼稚園へ納入する金額の差額が家庭負担額となります。塚本幼稚園の場合、3歳児中所得世帯ならば年額約40万円(入園金等を除く)、4-5歳児は年額約15万円が家庭負担額です。

幼稚園に入園した場合の負担額は、各幼稚園のウェブサイトを見るだけでは分かりません。世帯所得に応じた就園奨励金の額を見なければ分かりません。少しややこしいです。

一方、保育所等(保育所・こども園の保育認定部分・地域型保育事業等を含む)はもう少しシンプルです。保育所等の保育料は、各自治体が世帯所得から自動的に算出します。算出後の金額が毎月請求され、金融機関の口座から自動的に引き落とされます。

保育所保育料の算出システムも就園奨励金と同じ「応能負担」です。世帯所得が高い世帯の保育料は高く、低い世帯の所得は低くなっています。また、保育に多くの職員を要する0-2歳児の保育料は高く、4-5歳児は低くなるのが一般的です。

大阪市の場合、生活保護世帯の保育料は全年齢で無償、0~2歳児は所得に応じて2,000円~70,600円、3歳児は1,500円~34,100円となっています(詳細はこちら)。

なお、大阪市では保育所へ通う4-5歳児にも教育費無償化が適用されています。これにより、4-5歳児の保育所保育料は700円~10,800円となっています。

また、きょうだいの年齢に応じて保育所保育料が半額・免除、幼稚園は就園奨励費が増額される場合があります。

保育所の場合、きょうだいが同時に在籍している場合は第2子保育料が半額、第3子以降が免除となります。幼稚園は上のきょうだいが1-3年生の場合に就園奨励費が積み増しされます(細部は自治体で異なる)。

この様に、幼児教育・保育に係る費用は、各世帯の所得に応じて算出されています。「低所得世帯は低く、高所得世帯は高い」というのが原則・現状です。

「ここ数年に正社員として就職・これから結婚出産を迎える20代」がメインターゲットか

ところで、首相が打ち出している方針は「全ての3~5歳児・低所得家庭の0~2歳児の教育・保育無償化」とされています。実現された場合、子育て世帯の負担額はどうなるのでしょうか。

無償化と言っても無尽蔵ではないでしょう。例えば大阪市の保育所保育料の最高額は月額34,100円(年額409,200円)です。この水準が一つの目安となるのではないでしょうか。

仮に3-5歳児の保育所保育料が全て無償となった場合、最も大きな効果を受けるのは高所得世帯です。正社員として大企業等に就職し、結婚後も共働きを続ける世帯がイメージされます。

こうした世帯では約40万円が浮く計算となります。税引き前に換算すると約60万円ほどになりそうです。大企業の賞与1回分ですね。

反面、既に保育料が無償ないし低くなっている生活保護世帯・低所得世帯への効果が限定的です。月額保育料が1,500円の世帯が無償化されても、年間18,000円の負担減に過ぎません。

幼稚園も考え方は同じです。高所得世帯の負担が大きく軽減され、低所得世帯は殆ど変わりません。つまり、幼児教育・保育無償化は所得が高い世帯ほど負担額が大きく軽減されるシステムとなります。累進課税(応能負担)を税率0%(無償)に切り替えるイメージです。

安倍政権以降の景気回復、それに伴って若年層を中心とした就職状況は著しく好転しています。こうした世代がこれから30歳前後となり、結婚・出産適齢期を迎えます。教育・保育無償化はこの世代をメインターゲットと想定しているのではないでしょうか。

教育・保育無償化から期待される効果の一つは、出生率の上昇でしょう。こうした世代の出生率向上が期待できます。

しかし、こうした世代であっても非正規雇用等に従事している人間がいます。「結婚したくても金がない」という方にはただの増税です。

ターゲットから明確に外れるのは、既に幼児教育等を終え、現在は子供が小学校等に通っている世帯です。この世帯は団塊ジュニアが該当します。そして就職が氷河期と重なった世代とも重複します。

生まれたときから競争が非常に激しく、就職や結婚出産が非常に難しい年代でした。非正規雇用・独身で40代を迎えたケースも少なくありません。それに加えて幼児教育・保育無償化のメインターゲットから外れます。「非正規・団塊ジュニア・就職氷河期無視」とも言えるでしょう。

首相演説等を注意深く聞きたいと思います(スピーチライターは佐伯耕三秘書官でしょうか?)。

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(追記)
演説を少し聴きました。

「直面している最大の国難は少子高齢化である」という発言が印象的でした。
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