※所沢育休問題に関する投稿は、【所沢育休退園】にまとめました。

【所沢育休退園】実際に退園→処分取消及び停止の仮処分を求めて提訴の続報です。
退園処分の執行停止を求めた仮処分につき、さいたま地裁がこれを認める決定を行いました。
本案の判決から40日後まで処分の執行が停止される内容だそうです。
行政手続の執行停止を認める決定は珍しいです。

「育休退園」の執行停止 「所沢市の手続き不備」
2015年10月1日 朝刊

 下の子が生まれて親が育児休業を取ると、二歳児以下の保育園児を原則退園させる埼玉県所沢市の「育休退園」制度で、八月いっぱいで上の子が退園とされた母親(30)が退園の執行停止を求めた仮処分について、さいたま地裁は認める決定をした。決定では、市の手続きの不備を指摘した上で「保育士や他の児童らと人間関係を結ぶこととなるので、児童の人格形成に重大な影響がある」と保育所での保育の重要性に言及した。同様の制度がある各自治体では見直しの動きが加速しそうだ。 (服部展和、小林由比)

 決定は九月二十九日付。母親の代理人弁護士が三十日、都内で会見して明らかにした。母親は六月に長男を出産し、市内の保育園の二歳児クラスに通う長女(3つ)の在園継続を市に申請したが、退園となった。仮処分申請と同時に退園処分の取り消しを求める訴訟を起こしており、訴訟の判決から四十日後まで処分の執行が止まる。

 決定によると、市は九月二日、母親に保育の利用の解除を通知する際、行政が当事者から意見を聞く聴聞の手続きをしなかった。市側は、行政手続法が定める処分に当たらず、聴聞は不要と主張した。

 これに対し決定は、退園は不利益処分に当たるとし、慢性的な頭痛など母親の健康や家族の状況を考慮せず、継続通園を認めなかった市の処分を「違法とみる余地もないとは言えない」とした。

 母親は「約一カ月間、保育園に行けなかった上の子が明日(十月一日)から行けるようになり、とてもうれしい。自分と同じように退園せざるを得なかった人のためにも制度を見直してほしい」と話した。

 所沢市の藤本正人市長は「決定文をいただいておらず、何も申し上げられない」とコメントした。

(以下省略)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015100102000139.html

退園が「不利益処分」(行政手続法第2条第4号)に該当するか否かが主な争点になった様子です。
「不利益処分」とは「行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。(以下省略)」とされているものです。
育休退園処分そのものに関する法的判断を行う前に、先んじて手続部分に瑕疵があったと判断し、仮処分を認める決定となったのでしょう。
不服がある行政処分に対して様々な訴訟手続が行われており、国家試験や行政法講座での試験等で出題しやすい題材とも言えるでしょう。

育休退園制度の是非は賛否が分かれるでしょう。
首都圏の待機児童問題の深刻さを鑑みると、本制度が一概に誤っているとは言い難いです。
しかし、本制度の導入時から一貫しているのは「計画性の無さ」です。

4月から本制度を導入すると発表したのは、今年3月という新年度が差し迫った時期でした。
また、様々な保護者等からの問い合わせに対して次から次にと質疑応答を掲載しており、十分に制度設計を検討出来ていなかったのではないかという疑いを持たざるを得ません。
十分に検討できていれば本制度が行政手続法上の不利益処分に該当するとして、聴聞手続きを行う様に制度を設計したでしょう。
市役所での内部審査・埼玉県や厚生労働省への相談・顧問弁護士との十分な検討等を行っていたのでしょうか。

今後、所沢市が即時抗告するか現時点では不明です。
仮に即時抗告しなければ、本仮処分が確定するでしょう。

原告(上の子が退園とされた母親)は6月に長男を出産しています。
来年4月~6月に育休から復職するのが一般的でしょう。
訴訟の(地裁)判決が言い渡されるには時間が掛かります。
その頃には育休から復職し、育児退園に該当する要件が消滅しているのではないでしょうか。
であれば、訴えの利益が消滅したとして原告が訴訟を取り下げ、訴訟が終結するケースも考えられるでしょう。