7年前に福山市立保育所(広島県)で1歳0か月の園児が非加熱リンゴを食べて窒息した事故に対して保護者が損害賠償を求めた訴訟につき、福山市が2.7億円を支払う等とする内容で和解が成立する見通しとなりました。

7年前、福山市の保育所で当時1歳の園児が食事中に喉を詰まらせて窒息し、今も意識不明の状態が続いてる事故の裁判は、市が、保護者側に2億7000万円の損害賠償を支払うことで和解する見通しとなりました。

市の報告書などによりますと、2018年10月、市立保育所で食事をしていた当時1歳の園児が眠りかけたため、保育士が抱き上げたところ食べていたリンゴなどを喉に詰まらせて窒息状態に陥り今も、意識不明の状態が続いています。

保護者は市に損害賠償を求めて裁判を起こしていて、今年に入って広島地裁福山支部から和解の勧告がありました。

福山市は、29日の市議会常任委員会で、保護者側に謝罪するとともに、損害賠償金として2億7000万円を支払い和解する見通しとなったことを明らかにしました。(以下省略)

https://news.yahoo.co.jp/articles/2a519da75c7c68c8c61865028eb4ab4b20382245

事故後に福山市が設置した検証委員会が作成した報告書がこども家庭庁のウェブサイトに掲載されています。

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2018年10月に福山市立保育所に通っていた園児(当時1歳0か月、0歳児クラス)が給食で提供されたリンゴ片を喉に詰まらせた事故が起きました。

報告書には事故当日の献立が掲載されています。


https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/70508b4b-d335-4300-9f77-8e831f7c031f/a40bfbdc/20230620_policies_child-safety_effort_kensho_23.pdf

驚くことにリンゴは加熱されていませんでした。生のリンゴは怖いです。ここ数年間でも窒息事故が多発しています。

生後8か月男児がリンゴ片で窒息 「重大な誤嚥リスクに誰も気付かず」検証報告書が公開 愛媛県新居浜市

ある検証委員も「他市のマニュアルには,「離乳の完了期まではりんごは加熱すること」と記載したものもある。加熱していれば防げていたのではないか。」と指摘しました。

1歳児はまだ歯が少なく、歯茎ですり潰すしかありません。加熱していないリンゴをすり潰し、安心して食べるのは容易ではありません。大人にたとえると、1センチ片のリンゴを飲み込む様なものです。喉に詰まらせてしまいそうです。

更に事故後の対応も批判しています。

リンゴを食べながら寝てしまった園児の口内を確認する事無く抱き上げ、その弾みでリンゴを詰まらせたとされています。抱きかかえる前に口内を確認し、リンゴ片を所記するべきでした。

窒息に気付いた直後に保育所長へ連絡して救急要請を行いましたが、隣接施設から取り寄せたAEDを装着したのは窒息から7分後でした。それまで心臓マッサージ等を行っていません。AED装着と共に心臓マッサージを行ったのは隣接施設の職員でした。

どうして0歳児クラスの担任(保育士A・保育士Bの2人)は心臓マッサージを行わなかったのでしょうか。実は0歳児クラスの保育体制は脆弱でした。

保育士A(当時40歳代)は保育士歴4年2か月でした。約16年のブランクを経て、事故が起きた年の1月から勤務していました。

保育士B(当時40歳代)も保育士歴4年2か月でした。約10年間の幼稚園教諭としての勤務の後、事故当月の10月から勤務していました。

つまり0歳児クラスの担任2人は共に保育士歴が約4年、しかも事故が起きた2018年から当該保育所に勤務し始めました。

保育に最も注意が必要な0歳児クラスの担任をこの2人に任せるのは、どう考えても不適切です。少なくとも1人は保育士歴や勤務歴が長いベテラン職員を充てるべきでした。

以上の様に給食の献立にも事故後の対応にも極めて大きな問題がありました。0歳児クラスの担任2人のみではなく、保育所長を初めとした保育所全体に安全意識が欠けていました。

しかし、福山市の対応は冷淡でした。園児の母親に対して謝罪はしたものの、「補償はない。民事訴訟を起こして下さい。」と伝えましたた。あり得ない対応です。

 母親によると、事故後、保育所から謝罪を受けたが、これまで市からは「何の補償もない」という。パートを掛け持ちして男児を含む2人の子どもを1人で育てている。男児は障害者施設に入所中。保育所に入園させる際に加入した保険で医療費の一部などを賄うが、施設の利用料や購入した福祉車両などの負担が重くのしかかっている。(中略)

母親はこうした内容を踏まえ、市側に金銭的な補償を求めてきたが、市は応じず、民事訴訟を勧めたという。市保育指導課は「現行制度で利用できるものがないか探したが、見つからなかった」とする。国と広島県にも同様の制度はなく、仮に保育所で事故が起きても補償を求める場合は訴訟するしかないのが実情だ。

https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/106560

保護者は広島地裁福山支部へ提訴しました。同支部は和解を勧告しました。2.7億円という賠償額を見る限り、同支部は保護者側の主張を概ね認め、福山市に過失があると判断したものだと考えられます。

園児は現在も意識が戻らず、施設に入所しています。2.7億円を受け取っても元気な子供は戻ってきません。

こうした事故が再び起こらない様、少なくとも「非加熱リンゴの危険性」や「心臓マッサージの最重要性」を徹底して欲しいです。