今年1月、岡山県岡山市にて実母と内縁の父の虐待によって西田真愛(まお)さん(当時5歳、死亡時6歳)が死亡する事件が発生しました。

【ニュース・2/19更新】西田真愛ちゃん(当時5歳、死亡時6歳)を虐待死 西田彩(母)・船橋誠二(内縁の夫)を逮捕 岡山市(時系列まとめ)

あれから1年弱が過ぎました。このほど岡山市が検証報告書を公表しました。

被虐待児童死亡事例検証報告書の公表
https://www.city.okayama.jp/kurashi/0000009947.html

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各社が報道で強調している箇所は区々です。

地元紙たる山陽新聞は、不十分なリスクアセスメントと(その要因の一つである)児童相談所のマンパワー不足を指摘しています。

 報告書によると、児相には2019年4月に虐待を疑わせる通告があり、7月に虐待のレベルを4段階で最も低い「軽度」と判定し、20年9月に一時保護しながら2週間で解除したことに言及。「リスクアセスメント(危険度の評価分析)として不十分だった」とした上で一時保護の前後には「関係機関からの意見も聴取し、保護の期間や支援計画を入念に検討する必要があった」とした。

 児相として交際相手の男との接触が少なかったとも分析。「指導対象となる『保護者』と評価するだけの情報が不足しており、アプローチに消極的になっていた」との見方を示した。

 こうした背景には職員が抱える件数が多すぎ、調査能力に限界があったと指摘。児童福祉司の担当件数に上限を設定▽児童福祉司の助言役として、直接事案を担当しないスーパーバイザーの配置▽外部との情報連携に特化した部署の設置―などを提言した。

https://www.sanyonews.jp/article/1317733

一方、全国紙や通信社は岡山県警からの連絡を児童相談所が無視し、加えて支援レベルを引き上げずに事実上「放置」したと厳しく指摘しています。

 分科会は、真愛ちゃんの虐待死を防げなかった市の対応を検証。20年9月、真愛ちゃんが目隠しの状態で全裸で墓地に立たせられたことが県警への通報で発覚した際、県警が真愛ちゃんの状況をめぐり、児相に「男(船橋被告)からの報復がある可能性があり命が心配」と連絡していたことが報告された。

 報告書は「虐待者と疑われた交際男性の存在が警察によって明らかにされた」と認定。しかし児相は危険性を十分に認識せず、真愛ちゃんのみの保護にとどめ、きょうだいを一時保護しなかった。このため、家庭の状況を正しく把握できる機会を失った可能性を指摘した。

https://digital.asahi.com/articles/ASQBC3JLMQB7PPZB008.html

市の児童相談所が岡山県警から令和2年に通告を受けた際「(真愛ちゃんの)命が心配だ」などと危機感を示されていたことが12日、分かった。市の有識者会議が検証報告書で明らかにした。通告後も児相が危険性を適切に見極めず、支援レベルを引き上げなかったと指摘。「事実上、放置した結果になった」と総括した。

https://www.sankei.com/article/20221012-VL4ONFOJWZLDDN2ZCQEI5AQ5HM/

報告書は、2020年9月、女児が市内の墓地で裸で立たされ母親らから叱責されているとの通報を受けた県警が「裸で立たせるのは異常」「(他の子供も虐待されている可能性があり)きょうだい全員を保護してほしい」と児相に連絡したのに、児相は女児のみを一時保護し、約2週間で保護を解除したと指摘。虐待の評価についても「軽度」のまま見直さなかったと批判した。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022101100575&g=soc

岡山市女児虐待死、報告書 児相対応「事実上の放置」 県警、1年前「命が心配」
https://mainichi.jp/articles/20221012/ddm/041/040/081000c

本報告書は調査委員の率直な問題意識に基づき、1.親子分離、2.虐待のリスク評価、3.母親に対する支援、4.交際男性へのアプローチを中心に記述が積み重ねられています。

これらに対し、報告書では「親子分離を根拠付けるだけの情報が得られず、親子分離が検討されていなかった」「市児相が交際男性を保護者と評価せず、母親によるネグレクトと評価していた」「母親が市児相や地こ相の支援に対して拒否的であった」「交際男性を保護者と評価しない」とまとめています。

この部分を読んで驚いてしまいました。「情報が得られなかった」「男性を保護者と評価せず」「母親が拒否的」という記載は、まさに言い訳その物です。情報を得る、実質的に同居している男性を保護者と見做す、拒否的な保護者を説得するのが児相の仕事です。「児相は仕事をしていなかった」と言わんばかりの記載です。

報告書の核心部分として全国紙等が取り上げているのは、令和2年9月の墓地事案です。深夜の墓地に真愛ちゃんを全裸で立たせ激しく叱責する様子を通行人が目撃し、警察へ通報していました。

報告書には下記の通りに記載されています。

③ 墓地における事案により警察から通告を受け一時保護した時点(令和2年9月)

本調査において、市児相が保管する記録を精査すると、令和2年9月 24日に岡山中央警察署から「母親と男性が、本児を墓地に裸で立たせ叱責していた」という虐待通告(以下「墓地事案」という。)に際して、同署から「裸で立たせるのは異常」「母親と男が口裏を合わせて嘘をついていたことも発覚しているのでこのまま帰すのは心配」「男からの報復がある可能性があり命が心配」「元々虐待家庭であり(きょうだい)全員を保護してほしい」などとの電話連絡があったことが判明した。

しかし、対応を検討した市児相は、本児の体にあざ等があるという報告はないこと、事案発生から概ね1日が経過していること、他のきょうだいはこの事件に直接関わっていないことから本児のみの一時保護としたということであった。

「異常」「報復」「保護」という言葉から、警察の危機感が伝わってきます。まるで反社会的勢力に対峙する担当者の台詞です。つまり、警察は同居男性や母親の悪質さが反社会的勢力と同等と見做していたのでしょう。

警察としては出来る事と出来ない事が有りながらも、何とか児相権限で保護して欲しいと強く要請しています。が、児相は真愛1人を一時的に保護したのみでした。

結果として虐待がますますエスカレートし、最悪の結果へと繋がりました。岡山県警が危惧した通り、まさしく「報復」が起きました。

山陽新聞はこの核心部分を意図的に無視したのでしょうか。他紙との違いが鮮明です。

警察の要請通りに全児童を保護し、徹底的な親子分離を図っていたら、虐待死は免れた可能性が高いです。マンパワー不足というといった理由があったとしても、岡山市児相が適切な判断や行動を行わなかった事実は変わりません。