厚生労働省が育休給付の延長を目的とする「落選狙い」を問題視しています。が、ポイントがズレているかもしれません。

育休給付の延長へ「落選狙い」の保育所申請横行 厚労省が審査厳格化へ

育休給付は、育休の取得から180日目までの間、休業前の賃金の67%を受け取ることができ、180日を超えても子供が1歳までは賃金の50%が支給される。例外的に最長2歳まで受給を延長することも可能だ。

ただ、この例外の育休給付の延長は保育所の落選が要件となっていることから、子供を入所させて復職する意思がないにもかかわらず、抽選倍率の高い保育所などに申請するケースが各地で続発。入所申請の手続きを担当する自治体側の事務負担が増え、本当に給付を受けて復職したい親や、希望の保育所に入所したい児童らにしわ寄せがくるといった問題点が指摘されていた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/c7cddb9e2cf7d665d2a20adc9c6f52e9a3bc9664

「どうして今更?」と奇異に感じました。

事の発端は、市町村から地方分権改革有識者会議へ寄せられた意見だそうです。

【提案事項】
「保育所入所保留通知書」の取得といった育児休業給付の支給延長に係る受給資格確認手続きを見直し、入所意思がない者からの保育所等の入所申込みに対する入所選考等の事務負担が市町村に生じないようにすること。
(例)
・延長制度を撤廃し、子が2歳に達するまでの間、支給可能とする
・支給延長の申込みを受けたハローワークが、保育所等の利用状況を市町村に照会する
・「保育所等を利用していない旨の証明」を以て、支給期間を延長する
・申請を電子化し、保育及び支給延長の申請状況を連携させる等

【求める措置の具体的内容】
現制度では、子が1歳になった後は、保育所における保育の実施を希望し申込みを行っているが当面保育が行われない場合に、最大2歳の誕生日の前々日まで支給が延長されるようになっており、子が1歳になってからもしばらく自ら育児を行いたい保護者は、給付金や休業延長のために「保育所入所保留通知書」を取得する必要があり、保育所等の入所申込みをしている。

保育所等の入所申込みの相談・受付を行う窓口に、「確実に保留になるためにはどのようにすればよいのか」という相談があった場合、入所意思のない者に対して制度の説明を含めて一から案内することになり、窓口対応に30分~1時間程度の時間が割かれるほか、保護者の意に反して入所内定となった場合は苦情も多く、その対応に時間を要している。そのため、真に保育所の利用を必要とする保護者の相談・受付や、保留者へのフォローアップなど、寄り添った対応をするための時間の確保を難しくしている。

また、保護者にとっても、入所意思がないにもかかわらず、育児休業手当金のために入所申込みを行うことは負担である。さらに、育児休業給付の延長を希望する入所意思のない方が保育所に内定した場合、辞退されることが多く、真に保育所への入所を希望する方が入所できないケースがある。

【関係府省からの第1次回答・全国町村会意見】
(中略)「育児休業・給付の適正な運用・支給及び公平な利用調整の実現等に向けた運用上の工夫について」(平成31年2月7日付け厚生労働省子ども家庭局保育課事務連絡)にて保育所等の利用調整を行う際の工夫及び入所保留通知書の作成に当たっての留意事項を既にお示ししているところであり、当該事務連絡を踏まえ市町村において工夫等を行っていただきたいと考えている。

【全国町村会意見】
提案団体の意見を十分に尊重し、積極的に検討していただきたい。

第55回地方分権改革有識者会議・第155回提案募集検討専門部会 合同会議 議事次第・配布資料より

相談・受付窓口の負担云々は違和感があります。大阪市は保育所等への申込用紙にに事実上の「落選狙い」を希望できるチェックマークがあります。

https://www.city.osaka.lg.jp/miyakojima/cmsfiles/contents/0000570/570743/No2-EXPO2023.pdf

(余談ですが、上でご紹介した大阪市都島区役所の資料(都島区子育てEXPO2023)は非常に分かりやすいです。手続等は他区でも同じです。ぜひご覧下さい。)

こうする事により、当初より入所調整フローから外す運用が行われている考えられます。すなわち、チェックマークを入れると自動的に「入所保留」となる仕組みです。窓口対応や苦情対応に時間が掛からない仕組みです。

これならば自治体側の事務負担・本当に入所して復職したい保護者・希望の保育所等へ入所した児童等へしわ寄せがいくといった問題は生じません。

全国最大規模の基礎自治体である大阪市では、毎年1万人以上の児童が保育所等への入所を申し込んでいます。この様な運用で回っています(内実は大変だと思いますが)。

厚労省も「運用で対応できる。工夫が足りない。」と突っぱねています。市町村が何を考えているか、何を問題視しているかが理解できません。

育児休業手当金の為の申込が負担という理由は理解できます。私はこうした目的で申込を行った事がありませんが、必要最低限の記入事項(例:住所氏名・落選狙いのチェックマークのみ、保育所等の記入すら不要)のみで受理すると言った運用が考えられます。

一方で「復職の意思確認」は非常に難しいです。育休給付延長時は復職する意思があったとしても、その後に変わる事はあり得ます。当初から復職の意思がなかったとしても、それを第三者が証明するのは困難です。

復職せずに退職するとしても、育休中の給付金等の返還を求めるのも事実上困難でしょう(そうした制度になったら、怖くて給付金を使いにくくなる)。

しかし、第56回地方分権改革有識者会議では「育児休業給付の期間延長については、保育所等の利用調整における市町村(特別区を含む。)の事務負担を軽減するとともに、制度の適切な運用を図るため、公共職業安定所(ハローワーク)において延長可否を判断することを明確化する方向で検討し、令和5年度中に結論を得る。その結果に基づいて必要な措置を講ずる。」という方針が明記されています。

市町村の事務負担を軽減するという名目の下、子育て世帯・勤務先・ハローワークの事務負担を増大する方向で議論が進みそうです。おかしな話です。

あくまで私の経験や周囲の状況に基づくものですが、満1歳での復職はやや早いと感じています。

まだ歩けない子が殆どです。子供の体調も不安定です。保育所等を利用し初めても発熱等によるお迎え電話が頻繁にあり、とても仕事に集中できません。周囲も巻き込んでしまいます。復職を前倒ししても4月入所だと尚更です。

周囲の方々には「可能であれば、育児休業は満1歳半頃まで取得するのが良いと思います。子供も歩き始め、体も丈夫になり、卒乳します。復職した仕事にも集中しやすいです。」と伝える事が多いです。