育休延長を目的とした保留通知狙いの保育所等入所申込が少なくないことを受け、厚生労働省は見直しに着手したそうです。
保育所の利用申請、育休延長目的の「落選狙い」横行
育児休業を延長したい人が「落選狙い」で保育所の利用を申し込む事例が目立っている。育休の延長には保育所に子供を預けられないことを証明する落選通知が必要だからだ。保育所を利用する気がないのに入園が決まり、本当に預けたい人が落選してしまうなどの混乱が出ており、厚生労働省は保育所の手続きを見直す。申し込み時点で市町村が育休延長の意向を確認し、要件を満たす人には選考前に落選通知を出すようにする方針だ。
育児休業を取得できるのは法律上は原則として子供が1歳になるまでだが、保育所に預けられない場合は最長2年まで延長できる。育休取得者には賃金の50~67%の給付金が雇用保険から支払われるため、延長するには勤務先を介して保育所の落選通知をハローワークに提出する必要がある。
ところがこの落選通知を得るために、利用する気がないのに人気の高い保育所に申し込む事例が急増している。待機児童の多い地域で特に問題になっており、大阪市では今年、育休中の453人のうち4割弱が「落選通知のために入園を申し込んだ」と答えた。
もともと預ける気がないのに入園が決まってしまうケースがあり、本当に保育所に預けたい人の障害になっている。
こうした混乱を防ぐため、厚労省は保育所入所の手続きを見直し、申し込みの段階で保護者に育休を延長する意向があるかを確認するよう市町村に求める。延長希望があり、申し込んだ保育所に空きがない場合には、その後の選考手続きは進めず落選通知を出す。
保育所の定員に空きがあれば入園できるので希望があっても育休は延長できない。「やはり子供と一緒にいたい」などと入園を見送っても原則、落選通知は出さない。(以下略)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36618040Y8A011C1EA2000/
大阪市での事例は、以前に毎日新聞が取り上げました。
市保育企画課が、今年4月からの入所を申し込み、落選した育休中の保護者453人を調査。うち36%の163人は区役所との面談で「絶対に入れない保育所はどこか」「(入れないことを証明する)保留通知はどうすればもらえるか」と尋ねるなど、入所の意思がないと分かった。背景には「もう少し子どもと一緒にいたい」と望んだり、復職のタイミングを計ったりする親の事情があるとみられる。
他にも保育所の利用申込書の希望施設欄(第6希望まで可)に、1カ所しか記入しないケースや、希望する保育所に内定したのに辞退し、募集枠の少ない2次募集に応募して落選、保留通知を受け取ったケースもあった。第1希望のみで入れなかった場合も通知の交付対象になるためで、市はこうした「入所意思のない申し込み」は相当数に上るとみる。
平成31年度保育所等一斉入所での申込みにあたっては、「○○保育所へ入所したいが、昨年の入所倍率が非常に高かった。育休狙いの申込みも含まれているのでは?」といった質問も頂きました。「163人を24区で按分し、かつ入所倍率が高い保育所等に割り当てると、数名はいても不思議ではない。」といった趣旨の返答をしました。
保留通知狙いの申込みが増えてしまうと、本当に入所したい家庭が「見かけの申込数・倍率」に振り回されてしまいます。また、入所調整を行う区役所や各種書類を証明する勤務先等にも負担が掛かってしまいます。
こうした弊害が生じていることから、厚生労働省は入所調整プロセスの早い段階で落選通知を出す様に自治体へ求めるとするそうです。
例えば入所申込書類に「育休延長を希望しますか?」という欄を設け、「はい」と回答した申込者へは即座に落選通知を出せれば円滑化するでしょう。
ただ、こうしたプロセスを制度化してしまう事により、育休期間がなし崩し的に2年間へと延長されてしまいます。育休を2年間取得して子どもと一緒にいたい方や、0-1歳児の待機児童問題に苦しむ自治体には朗報かもしれません。
反面、0-1歳児の入所者をアテにして施設を整備した保育所等へは「入所者減」という逆風が吹きます。「保育所なら入所したいが、再び保育所探しを行う必要がある地域型保育事業・企業主導型は敬遠したい」という声をしばしば聞きます。
既に大阪市内では2箇所の企業主導型保育所が早々に閉鎖されています。
企業主導型は企業が主に従業員向けに設ける保育所。安倍政権が二〇一六年度に制度を創設し、今年三月末現在、全国に二千五百九十七カ所。認可外保育所に分類されるが、保育士数など一定の条件を満たせば認可保育所並みの手厚い助成金を受け取れる。
制度スタートから二年半しかたっていないが、東京都内で二カ所、横浜市で一カ所、大阪市で二カ所、長崎市で一カ所が閉鎖した。横浜市のケースは開設二カ月で閉めていた。子どもは他の園に移るなどしたという。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201810/CK2018101402000115.html
また、自営業や妊娠に伴って退職した方等、育休を取得できない方との格差は更に広がってしまいます。
子どもと共に過ごす2年間、給与の大部分が育児休業給付金として支給される方がいる一方、何も支給されない方もいます。雇用保険等から一定額を負担しているとは言え、2年分の現金収入の違いは大きすぎます。
社会全体で子育て・子育て世帯を下支えする観点からは、何らかの見直しが必要かもしれません。