育児休業を延長する為に保育所入所保留通知書を求める保護者への対応につき、厚生労働省は入所調整点数の減点を柱とした対応策を打ち出しました。

しかしながら、これは大阪市等の自治体が求めている「入所保留通知書がなくとも育休延長を認めるべき」という主張を拒否した形です。

 育児休業延長に必要な書類を得るため「落選希望」の保育所入所申し込みが増えている問題で、厚生労働省は22日、保護者が育休延長を望んでいる場合は入所の優先順位を下げるとの対応策を、内閣府の地方分権改革の専門部会に示した。これにより、本当に必要な人から確実に入所できるようにすると同時に、育休延長したい人が意に反して入所が認められてしまう事態を防ぐ。認可保育所の入所選考業務を担う市区町村に近く通知する。

 育児・介護休業法に基づく育休は「子どもが1歳になるまで」が原則。保育所に入れなかった場合は2歳まで延長できるが、落選を証明する自治体の「入所保留通知書」が必要だ。このため、育休延長希望者が競争倍率の高い人気の保育所だけに形式的に申し込むなどして、保留通知を取得するケースが増加。大阪市や川崎市の調査では、認可保育所に入所できなかった人の1割前後が保留通知目的だった。

 想定外に保育所入所が決まって辞退した場合、本来希望していた人が落選してしまう事態が生じるなどの問題も起き、大阪市など32自治体が、条件なしに2歳まで取得できるよう国に制度改正を求めていた。

 厚労省が示した選考方法の見直し案では、保育所の利用申し込みの段階で「直ちに復職希望」「育休の延長が可能」など保護者の意向を確認し、事実上、育休延長が目的と判断した場合は入所選考の順位を下げることを容認する。

https://mainichi.jp/articles/20181023/k00/00m/040/159000c

入所保留通知書がなくとも育休延長を可能に、と求める自治体

厚生労働省の対応策や地方自治体の主張等は、内閣府地方分権改革有識者会議(第85回提案募集券等専門部会)に掲載されています。

地方自治体は「事務的負担の増大・入所できた筈の児童が入所できない・正確な待機児童数の把握に支障が生じている」と主張しています。悲鳴が聞こえてきそうです。

【求める措置の具体的内容】
育児休業の取得及び育児休業給付金の支給期間の延長要件である「保育が実施されない場合」の挙証資料を、入所保留通知書の提出がなくても育児休業等の延長が可能になるように制度を改正して欲しい。

【具体的な支障事例】
現在、育児休業の取得及び育児休業給付金の受給の期間については、育児休業・介護休業法及び雇用保険法において、原則として児童が1歳になるまでとされ、法令の要件を満たす場合には最大2歳まで延長できる。

延長の要件は、厚生労働省令において「保育所等における保育の利用を希望し、申込みを行っているが、(省略)当面その実施が行われない場合」とされ、実務上はこの要件の確認資料として、雇用主やハローワークが保護者に市町村の発行する入所保留通知書の提出を求めているが、当面復職の意思がなく育児休業等の延長を希望する保護者が、保留通知の取得を目的とした入所申込みをする例が多数生じている。

本市のように利用保留児童が生じている自治体の場合、意図的に入所枠に空きのない保育所のみを希望したうえで入所申込みをすれば、保護者は容易に保留通知を入手できるため、厚生労働省令の要件の定めにかかわらず、事実上無条件で育児休業等の延長が認められているのが現状である。

また、保留通知の取得を目的とした入所申込みにより、保護者と自治体に不必要な事務的負担が生じるとともに、特に内定辞退がなされた場合は、本来希望の保育所に入所できたはずの児童が入所できないケースが生じ、公平な利用調整が困難になっている。

さらに、申込児童数や利用保留児童数等が実態より多く計上される等、正確な情報把握が困難になっており、待機児童対策をはじめとした国と自治体の保育施策全体を歪める恐れがある。

http://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kaigi/doc/teianbukai85shiryou03.pdf

厚労省はゼロ回答

これに対し、厚生労働省は「保留決定通知書は不可欠であり、事務負担の軽減は運用上の工夫によって対応できる」「育休延長を目的とする入所申込を抑制すべき」と突っぱねました。

【各府省(厚生労働省)からの第2次回答】
○ 育児休業・給付は原則として1歳に達するまで取得・受給することができるが、保育所等に入れない場合等には、最長2歳に達するまで延長可能。この延長措置は、職場に復帰したいにもかかわらず、保育所等に入所できず、不本意な離職に繋がることを防止する趣旨で講じているもの。

○ すなわち、育児休業・給付の延長は保育所等に入れない場合に限られた例外的措置であり、その証明は個々具体的な保留決定通知書によることが適当で、御提案のような「入所困難地域」の証明だけでは不十分である。保留決定通知書は、保育を希望しながら保育所等に入れなかった場合に必ず交付されるものであり、それを活用することは合理的な取扱いであると考える。

○ その上で、保育所等の利用調整に当たり、入園希望者が申し込んだ保育所等に入れなかった場合に育児休業の延長が可能か否かをあらかじめ表示させる等の方法により、保育ニーズの高い方を優先的に扱うなど、運用上の工夫をすることで、公平な利用調整を実現するとともに、過剰な事務負担の軽減を図ることもできると考えており、具体的な手法について今後お示しすることを検討している。

○ また、育児休業の制度趣旨に鑑みれば、雇用の継続のために特に必要と認められる場合に、法律上の育児休業として延長することができる(そうでない場合には延長できない)旨をリーフレット等で周知徹底する。

○ さらに、明らかに制度趣旨とは異なる育児休業・給付の延長の申出があった場合には、適切に対処する必要がある。保育所等の申込みに際し、第一次申込みをした保育所等に当選したのに辞退し、第二次申込みで落選した場合には、保留決定通知書の備考欄にその旨を付記していただければ、育児休業・給付の延長申請において当該記載を確認したときには、制度趣旨に則った育児休業・給付の延長にあたるのかを適切に審査することが可能となる。

○ 以上のような措置を国と自治体が相互に協力し総合的に実施することにより、育児休業の延長を目的とする保育所等への申込みは抑制され、育児休業制度の適切な運用が図られるものと考えられる。

http://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kaigi/doc/teianbukai85shiryou03.pdf

対応策を分かりやすくまとめたペーパーも掲載されています。

対応策の一つは「点数の減点」です。「落選した場合は育休延長等も可」にチェックした場合、点数を減点する方式が提示されています。

しかし、これでは従前通りの入所申込・調整が行われます。本当に保育を必要とする入所申込者を排斥しづらくなりますが、自治体や申込者の負担は何ら変わりません。

また、1次調整で内定した保育所等を辞退し、2次調整で保留通知を得た保護者への対応策も解せません。

保留通知書に「1次内定→辞退、2次保留」と記載する事により、やむを得ない理由によって内定を辞退したかを勤務先やハローワーク等が確認審査する事としています。育休延長を目的とした入所申込を抑制し、門戸を狭めるものではないでしょうか。

私が読んだ限り、厚生労働省の対応策は「ゼロ回答」だと感じました。制度の改正要望を拒否し、自治体が運用上の工夫を行って対応すべきとしています。子育て世帯や自治体のニーズに寄り添わない形です。

厚生労働省が示した対応策でまとまるか、少し疑問です。

考え方は様々

育休延長に対する考え方は様々です。延長を希望する方もいれば、入所しやすい0歳児から復職する方もいます。

「育児休業を延長したい人にはうれしい」「育休延長が難しいことに変わりはない」--。厚生労働省が22日に示した保育所の入所選考の見直し案は、保育所利用の必要性が高い保護者、最長の2年まで育休を取りたいという保護者双方のニーズに応える狙いがあるが、待機児童が多く、職場で長い育休も取りにくい現状が改善するわけではなく、評価はまちまちだ。自治体からは、実務の難しさへの懸念も漏れる。

 大阪府茨木市の契約社員の女性(43)は、次女(1)が保育所の選考に「落選」し、育休を延長中だ。「しばらく自分で面倒を見たかったので入所できなくてほっとした。『落選してもいい』と思っている人にとってはうれしい」と評価する。

 今春、生後9カ月の双子の娘2人を保育所に預けて復帰した東京都墨田区の女性会社員(34)も同意見だ。娘たちが体調を崩すことが何度もあり「2歳まで育休を取って、子どもの体力がついてきてから復職できるという選択肢ができるのはいいと思う」と語る。

 これに対し、三男の育児で幼稚園教諭を休職中の女性(39)は「新方式には賛成だが、2歳まで育休を取ってから保育所に申し込んでも、この年齢は待機児童が多く入りにくい。比較的入りやすい0歳児のうちに申し込まざるを得ない」と指摘。9月に長女を出産した宮城県多賀城市の女性会社員(38)も「長くそばにいたいが、職場で人のやりくりが難しい。育休を2歳まで取るのはハードルが高い」とこぼす。

 一方、厚労省は、育休を無条件で2歳まで延長できるようにすることは「制度自体の変更に関わる」として見送った。「原則1歳まで」の姿勢を崩さず、入所選考で順位を下げることで保護者の希望に対応するという今回の方針は「苦肉の策」(厚労省幹部)と言え、真正面からの議論は避けた形だ。

 自治体提案を主導した大阪市の赤本勇保育企画課長は「時代と共に保護者のニーズが変わってきていることを踏まえ、今後は制度自体の見直しも進めるべきだ」と強調。「誰をどの程度『減点』するかを決めるのは難しく、すぐには対応できない」(川崎市)、「育休延長を積極的に希望する人と、延長はできるがすぐに復帰したい人を適切に区別するのは難しい」(東京都江戸川区)といった懸念の声も出ている。

https://mainichi.jp/articles/20181023/k00/00m/040/160000c

問題は今後も続きそうです。

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(10/29追記)
育休延長を目的とした入所申込抑制策、波紋が広がっているようです。危惧した通りです。

保育所「落選狙い」 職場への報告検討 厚労省が対策

 保護者が育児休業の延長に必要な書類を入手するため、人気の高い認可保育所などへの入所を形式的に申し込む「落選狙い」を巡り、厚生労働省は悪質な場合、自治体が職場やハローワークに報告できる仕組みを盛り込んだ対策案をまとめた。年内に正式決定する方針だが、自治体からは、何が悪質か一概に判断できないと困惑や懸念の声が出ている。保育を必要とする人の不利益とならないよう、現行制度改正を求める意見もある。

 育休は原則、子が満一歳になるまで取得でき、期間中は雇用保険から賃金の50~67%の給付金が支給される。最長で満二歳の前日まで延ばせるが、保育所の落選を証明する「保留決定通知書」の職場への提出が必要。これがないと給付金がもらえないため「落選狙い」につながっている。

 政府の有識者会議では複数の自治体が、落選狙いの申し込みで事務負担が増え、本当に保育所が必要な人がしわ寄せを受けると報告。東京都江戸川区や大阪市など三十二自治体が、保留通知なしでも育休延長できる制度改正を国に求めた。

 厚労省は制度改正はせず、落選を望む保護者は当選確率を下げる対策案を、自治体に示すことにした。

 同時に、第一希望の保育所に当選後、内定を辞退し、より競争率が高い二次募集で落選を狙う例を問題視。自治体が、保留通知に内定辞退者と記載できるようにする。辞退にやむを得ない事情があったか職場が審査し、自動的に認められている延長を抑制する狙いだ。厚労省担当者は「悪質な落選狙いの抑止効果も期待できる」と説明する。

 だが、江戸川区の茅原(かやはら)光政保育課長は「送迎の頼みにしていた祖父母が病気になるなど、さまざまな事情で内定を辞退した後、再び保育所が必要になって二次募集に応募する人はいる」と指摘。大阪市の赤本勇保育企画課長も「こんな案を求めたわけではない。辞退の理由は内心にかかわる。自治体がハローワークに報告するようなことではないし、かえって事務負担は増す。育休期間を自由に決められるようにすべきだ」と訴える。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201810/CK2018102902000136.html

厚生労働省が掲げる対応策がチグハグです。面従腹背する自治体が続出するのではないでしょうか。