12月4日に第20回大阪市待機児童解消特別チーム会議が開催されました。配布された資料では2024年度一斉入所の利用申込状況、そして今後の待機児童対策等が取り上げられています。

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注目すべき点等について見ていきます。

出生減・乳児転出超過・女性雇用増

2024年度一斉入所では昨年度より申込数が増加しました。大阪市も出生減に転じましたが、雇用状況の改善によって0-2歳児保育ニーズが増加したとされています。

来年以降は出生減・転出超過、それに対する雇用増・第2子保育料無償化との綱引きにより、申込数が左右されるでしょう。

他都市の実例や詳細までは把握していませんが、実は大阪市は未就学児や小学生の家庭外育児費用が大きく抑制されています。

未就学児は0-2歳児第2子保育無償化、3-5歳児は教育・保育無償化(国制度)、小学生は市立小学校で実施している児童放課後いきいき事業(保険料として年額500円)が利用出来ます。

確かに居住コストは掛かりますが、育児支援は手厚いと感じています(保育所等が狭い、学校施設が老朽化している、等の問題はありますが)。

大規模マンション内への保育所等の設置が難航

大阪市内における待機児童問題の大きな要因は「大規模マンションの建設」です。市内の新築マンションは高騰しており、購入者の多くは共働きと聞きます。局所的に子育て世帯が急増し、その地域での保育ニーズが爆発的に増加してしまいます。

大阪市は大規模マンション内に保育所等を設置して欲しいと要請していますが、受諾率は1割を切っています。

保育所抜きでの収益計画を策定した後に土地を取得しており、後から要請されても計画変更等が困難だと指摘されています。

が、大規模マンションの建設により、地域の公共インフラ(保育所等・小中学校を含む)に過剰な負荷が掛かるのも事実です。一定の負担を事業者に求める、もしくは保育所等の設置と引き替えに何らかの優遇策を講じる等、実効性のある対策が必要でしょう。単なるお願いは届きません。

雇用改善・大規模マンション・第2子保育料無償化による保育ニーズ増

大阪市は今後も保育ニーズが増加すると推測しています。主な要因は3点、雇用の改善・大規模マンションの建設・第2子保育料無償化です。

街中を歩いていても、至る所で求人募集中の張り紙やチラシを目にします。近所のスーパーマーケットでも「急募!(特に夜間早朝)」というポスターが貼られっぱなしです。

時給もコロナ禍より大幅に上がっています。最近は時給1,100円以下の求人を殆ど見かけません(2,023年10月より大阪府の最低賃金は1,064円に)。時給1,300円でも相対的に低く見えてしまうぐらいです。

子育て中でも働ける仕事は明らかに探しやすくなっています。保育ニーズが増えるのも頷けます。

淀川区・中央区・東住吉区・天王寺区等で保育所整備を予定

令和6年度には大阪市全体で保育所26箇所・分園や地域型保育32箇所の新設を予算化する予定です。

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入所枠の整備予定量が最も大きいのは淀川区の597人です。複数の大規模マンションの建設が予定されています。区内で6箇所もの保育所を整備する予定です。

中央区は保育所のみ4箇所となっています。非常に多くの地域型保育事業が整備されており、3歳児の受入問題が深刻化しています。

東住吉区も保育所不足が深刻です。当ウェブサイトでも取り上げました。やっと重い腰を上げました。

【2024保育所等一斉入所申込分析】(9)東住吉区/1歳児入所倍率は市内2位、0歳児・3歳児は3位、保育所等が足りない

一方、事業者サイドからの応募があるかは不透明です。地代の高騰・適地不足・保育士不足・来たるべき少子化等、保育事業の先行きは決して明るくありません。

地域型保育事業の撤退問題

大阪市の資料では初めてかもしれません。地域型保育事業の撤退による待機児童問題の発生を指摘しています。

殆どの保護者は6年保育を行っている保育所等を第1希望としています。入所が内定したら、小学校入学までの保育が保障されます。忙しい共働き世帯にとって、この安心感は極めて心強いです。

一方で地域型保育事業で保育が行われるのは、原則として満3歳を迎えた年度の年度末までです。3歳児クラスからは他の保育所等での保育となります。

新たな転所先候補を見学し、申込を行い、1月末の結果送付を待つのは大変です。もしも入所が保留となると、4月からの保育の場が無くなってしまいます。

ただ、地域型保育事業が保育所等を連携施設として確保する事により、3歳児の優先的受入を行う事が可能となります。卒園後の保育の場にメドが立ちます。

大阪市は連携施設の未確保(約半分)が地域型保育事業への入所児童の減少や廃園等に繋がっているとしています。

しかし、たとえ連携施設が設定されたとしても、きょうだいで保育の場が分かれたり、3歳児から保育の場が変わる事による負担は小さくありません。

すなわち「地域型保育事業という制度が、6年保育を求める大多数の保護者ニーズから外れている」のが根本的な問題です。制度設計に問題があります。

保護者ニーズに照らせば、必要なのは0歳児から5歳児までの保育を行う保育所や認定こども園の新設です。

0歳児途中入園対策が1歳児待機児童を促進?

こちらも初出かもしれません。0歳児の年度途中に対応する保育士の人件費の助成事業です。4月~9月で0歳児が利用定員を割っていても、利用定員に相当する人件費が助成されます。

原則として0歳児は生後半年以降でないと保育所等へ入所できません(3カ月からOKという園もある)。その為、年度後半生まれの0歳児は4月一斉入所へ申し込めず、5月以降の入所を余儀なくされます。その為に0歳児定員にゆとりを設け、5月以降でも入所しやすい運用を行っているのでしょう。

この煽りを受けているのが1歳児かもしれません。0歳児は多くが定員割れをし、年度途中から後半にかけて徐々に充足していきます。

が、1歳児は殆どが一斉入所で充足します。それどころか、地域によっては0歳児はガラガラ、1歳児は待機児童が大量に発生する現象も生じています。中には「1歳児はきょうだいすら入所できない、定員が少なすぎる」という保育所等もあります。

0歳児定員と1歳児定員のバランスは改めて検討して欲しいです。現状は歪です。

こども誰でも通園制度

大阪市は令和6年度から公立保育所・民間保育施設で試行的事業を実施する予定です。

果たして本当にできるのでしょうか。少なくとも園児が充足しておらず、人手に一定の余裕が無ければ難しいでしょう。お世話になっている保育所の先生は「うちでは無理だと思う。通常の保育で精一杯。」と話していました。

保育所等を利用せず、家庭でのみ保育を行っている世帯の負担は非常に重いです。誰でも通園できる制度は理想的です。が、現実が追いついていません。

会議資料には他にも様々なページがあります。全体で35ページしか無いので、ぜひご一読下さい。大阪市の考えが分かります。