大阪府及び府下自治体の待機児童等が発表されました。
大阪府「待機児童」7年ぶりに増加 コロナによる行動制限なくなり需要増 「隠れ待機児童」も昨年比増
大阪府は、今年4月時点の待機児童の数が7年ぶりに増加したと発表しました。
大阪府によりますと、今年4月時点で保育園に希望しても入れない待機児童は昨年より13人増えて147人でした。ここ数年、保育施設の整備が進んだことなどから、待機児童は減少傾向でしたが、新型コロナによる行動制限がほぼなくなり、施設の利用を希望する家族が増えたことで7年ぶりに増加しました。
また、家の近所などで条件を絞って施設を探すなどしているため、国の定義からは外れた、いわゆる「隠れ待機児童」については昨年より800人以上増えて7847人でした。
新型コロナの5類移行に伴い、今後、こうした待機児童はさらに増加することが懸念されています。
https://www.ytv.co.jp/press/kansai/detail.html?id=a9a9d61c9ac645af978e04dd555b5300
上記記事では待機児童が増加した原因を「新型コロナの5類移行による需要増」としています。しかし、5類に移行したのは今年5月、その方針等が発表されたのは今冬でした。既に殆どの自治体で2023年度一斉入所の申込は締め切られていました。
また、大阪市の数字を見る限りでは2021年度一斉入所においてはコロナの影響が感じられましたが、2022年度一斉入所では影響は殆どありませんでした。コロナによって保育所等を利用する必要が無くなった(利用を控えた)方もいるでしょうが、殆どの方は「コロナ禍でも保育所等を利用・申込せざるを得なかった」のが実情です。
詳細な内容は大阪府ウェブサイト(保育所等利用待機児童数等の状況について)に掲載されています。
保育所等利用待機児童数等の状況について
https://www.pref.osaka.lg.jp/kosodateshien/hoikusyo-taikijidou/index.html
国や自治体が発表している「待機児童」とは、保育所等に入所できなかったかつ一定の要件に該当する児童のみの数字です。しかし、保護者としては一定の要件に該当せずとも「(希望する)保育所等に入所できなかった」という事実には変わりありません。
子育て世帯の肌感覚に近いのは「待機児童」ではなく「隠れ待機児童」、すなわち「保留児童」です。保留児童の人数や割合(保留率)を比較対象する事により、その自治体でどれだけ保育所等に入所しやすいかが理解できます。
大阪府内の各自治体の入所保留児童数は上記ページ内の保育所等利用児童数・待機児童数等の推移(R5-H29各4月)(PDF/Excel)に掲載されています。
こちらには利用保留数は記載されていますが、肝心の新規入所募集数が掲載されていません。募集予定数は卒園児数(=5歳児在籍数)及び保育所等の新設等から推計できます。
そこで「4-5歳児在籍数を1.65で割った数字」を新規募集数とみなし、自治体毎の保留率やその要因等を読み解いていきます。
これによると、大阪市の推定保留率は16.8%となりました。大阪市自体が発表した数字から算出した保留率16.7%と近似しています。
大阪府内で推定保留率が最も高かったのは、摂津市の45.1%でした。保育所等へ入所できるのは2人に1人強となります。非常に厳しい自治体です。ついで守口市(39.5%)、泉南市(37.6%)、茨木市(30.9%)となっています。泉南市を除く3市が大阪市通勤圏に位置しています。
推定保留率が最も高かった摂津市の詳細を見ていきます。同市は保育所等の申し込みというページに詳しい資料を掲載しています。
まずは1次調整後の空き状況です。2次調整で募集を行う施設・年齢を確認する事により、1次調整で充足した施設・年齢を判別できます。
https://www.city.settsu.osaka.jp/material/files/group/2/akijokyo.pdf
1次調整を終わった段階で1-2歳児クラスは殆どの保育所等で充足しています。0歳児クラスは小規模保育ではまだ空きがあるものの、保育所やこども園では疎らです。大阪市の都心部並みに厳しい状況です。推定保留率45.1%も頷けます。
守口市は令和4年度の新規申込数が1,092人でしたが、令和5年度は1,223人へと増加しました。募集予定数は逆に減少しており、急激に待機児童や保留児童が増加してしまいました。
認定こども園等の「入園動向」について(守口市)
https://www.city.moriguchi.osaka.jp/kakukanoannai/kodomobu/hoikuyochienka/ninteikodomoentou/nyuendoko/3241.html
守口市は保育所等の申込みが他自治体よりも多い理由があります。同市は0-2歳児も含めた保育料や副食費の無償化を実施しています。
守口市では、市独自の子育て支援策として、世帯の所得に関係なく、0歳から5歳児までの認定こども園・保育所、幼稚園、地域型保育事業の利用料を無償化(私立幼稚園(私学助成施設)は上限あり)しています。
https://www.city.moriguchi.osaka.jp/kakukanoannai/kodomobu/hoikuyochienka/dokujinokosodatesien/2529.html
身も蓋もない言い方ですが、「保育所等を利用しないと損」というのが実情です。求人増も相まって、保育所等を利用して短時間でも働きたい方が急増したのでしょう。保育無償化は保育需要を強く喚起します。
大阪府全体では待機児童や保留児童が増加しましたが、だからといって保育所等をストレートに新設する動きには繋がらないでしょう。
建設費の高騰や保育士不足によって保育所等の新設に掛かるコストが飛躍的に増加している事に加え、足下では急激に少子化が進行しています。数年後の新設を見越して動き出しても、地域によってはその数年後に保育所等が余る可能性が強いのです。
大阪市内でも保育所等を新設する動きに急ブレーキが掛かっています。大阪市が募集を行っている地域は現に保育供給が不足し、今後も安定した保育需要が見込める地域が殆どです。現地を歩いているので分かります。
とは言え、保留率3割超えは極めて厳しい数字です。こうした自治体では「少子化による保育需要の減少が見込まれる」より、「現に保育所等が著しく不足しており、子育て世帯は本当に困っている」という主張が優先されるべきでしょう。