大阪市の横山市長が大阪市会にて「任期中に0-2歳児の保育無償化を実現したい」を主張しました。
大阪市の横山英幸市長は18日に開会した市議会5月定例会で、市政運営の方針を表明し、4月の市長選で公約に掲げた、所得制限のない幼児教育・保育料の無償化や塾代助成を任期中に実現する意向を示した。
横山氏は保育所整備や保育士確保などの待機児童対策を進めた上で、0~2歳児の保育料無償化について第1子からの所得制限撤廃を目指すとし「大阪の未来を担う子供やその世帯に重点投資し、将来にわたり大阪が発展する土台づくりを着実に進める」と述べた。
また、2025年大阪・関西万博を成功させるための機運醸成や、感染症対策のための市保健所庁舎の移転・集約、大阪府市一体での大規模な都市開発などにも取り組むとした。
横山氏は定例会後、記者団に「保育料無償化の課題を的確に把握したうえで早急にロードマップを示し、4年間の任期中に実現したい」と述べた。
https://www.sankei.com/article/20230518-BKTHAAQ44RKONERR6CNHQYTI6M/
一部の自治体にて実施・検討が進められている「保育無償化」ですが、財源・保育需要の急増・保育供給の制約・保育非利用世帯との格差等、様々な問題もあります。
まずは大阪市会Youtubeチャンネルより横山市長の発言を確認します。なお、Youtubeで文字起こしされた文章をChatGPTにて成形しています。
https://youtu.be/a17FwPj4tQQ?t=744
現在の日本は人口が減少し、出生数も過去最低となるなど急速に少子化が進み、このままでは町の成長どころか住民生活を支える様々な社会システムにまで影響が及ぶことが危惧されます。一方で、子育て少子化に関しては、子育てや教育にかかる負担が大きいという声が数多くあり、中には子供が欲しくても経済的な負担や将来への不安から出産を諦めてしまう世帯も少なくない状況にあります。
その課題の解決に向けては、子どもや子育て世帯を社会全体で支え、様々な不安や負担を軽減する必要があります。子どもが何人いてもどのような家庭状況であっても、経済的な不安を感じずに等しく子育て教育ができる環境を整えるため、将来世代への投資として日本一の子育て教育サービスを実現し、子育て世代に選ばれる町を実現してまいります。
最優先で取り組むべきことは、子育て教育の無償化です。大阪市では、国に先駆けて3歳から5歳児の幼児教育保育無償化を進めてきましたが、残る課題は0歳から2歳児の無償化です。現在は所得制限により一部の子供のみが無償化の対象となっていますが、社会全体で子供を育てる観点から所得制限のない無償化を実現すべきです。
このためには、待機児童ゼロを実現しながら保育所の整備や保育士の確保など、待機児童対策を強力に進める必要があります。まずは第1ステージとして、第2子以降全員の保育料無償化を実施し、次のステージとして全ての子供の無償化など、より包括的な方法を検討する必要があります。早急に実現に向けたロードマップを策定する予定です。
また、子育て世帯の経済的負担を軽減し、子供たちの学力や個性、才能を伸ばす機会を拡大するために、子供の習い事や塾代助成の所得制限撤廃を目指します。子供が将来にわたり力強く成長し、未来を切り開く力を身につけるためには、学力や体力の向上だけでなく、社会の多様な価値観に対応し、一人一人の子供に寄り添った教育や大学や企業との連携を実施します。
さらに、誰もが安心して平等に教育を受ける権利を守るために、いじめ対策や不登校対策にも力を入れて取り組みます。また、教育活動を円滑に進めるためには、教員が健康で意欲的に働き、子供にしっかりと向き合える環境を整える必要があります。新たに設置する総合教育センターによる支援や人材確保、事務負担の軽減など、学校における働き方改革を推進します。
そして、子どもが生まれ育った環境によって安全や安心が阻害されたり、未来の希望が閉ざされたりするようなことは避けなければなりません。そのためには、子供を見守り児童虐待を防止する体制をさらに強化する必要があります。また、多様な主体と連携して子どもの貧困対策や、きめ細やかなヤングケアによる支援を継続して行っていきます。
大阪市の保育所等保育料(0-2歳児/3号認定)は、世帯所得(原則として両親の市民税額の合計額)によって決定されています。
令和5年度 保育施設等の保育料のお知らせ
https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000501253.html
現行制度では生活保護世帯・市民税均等割非課税世帯は保育料が無償、それ以外は世帯所得が高ければ保育料も高くなるように計算されています。最も高額となるケースでは、536,000円以上の市民税を納税している世帯が毎月70600円の保育料を負担しています。
また、2人以上の子供が同時に保育所等に在籍している場合、第2子の保育料は半額、第3子以降は無償とされています。
横山市長は少子化の一因を重い子育て教育費用とした上で、社会全体で支える観点から、所得制限がない0-2歳児の保育無償化を主張しています。まずは保育無償化に関する問題点を整理しつつ第2子以降の保育料無償化を実現し、その次に第1子も含めた無償化を描いています。スモールステップを踏む、手堅い方法です。
横山市長の発言で引っかかったのは「現在は所得制限により一部の子供のみが無償化の対象となっています」という部分です。
市長は「所得制限」を強調していますが、現在は生活保護や均等割非課税世帯といった困窮世帯のみが無償となっています。所得制限によって一部世帯が除外されているのでは無く、生活が厳しい一部世帯のみが無償となっているのです。原則有償・例外無償です。市長の発言は原則と例外が逆転しています。
第2子保育料無償化による需要喚起効果は限定的
保育料を無償化した場合に危惧されるのは、保育所等への申込みが急増する問題です。ただ、第2子保育料を無償化する段階では、こうした現象が起こるとは考えにくいです。
そもそも第2子が保育所等を利用するのであれば、第1子はほぼ確実に保育所等を利用しています。「第2子が無償になるから、第1子も利用しよう」とはなりません。
第1子が保育所等を利用しているならば、保育料の金額に関係なく第2子も保育所等を利用します。無償化による需要喚起効果は限定的であり、急激に保育所等が不足する事態は考えにくいです。
これに関連して、第2子・第3子保育料における大きな問題があります。半額・無償となるには「小学校就学前で保育施設等を利用している子ども」という条件があります。
例えば年中クラス・1歳児クラスというきょうだいならば、第2子保育料は半額となります。しかし小学3年生・1歳児クラスというきょうだいは、第2子保育料は全額負担となります。きょうだいの年齢差で保育料に大きな差が生じています。きょうだいの年齢差に起因した差別そのものです。
高所得世帯ほどメリット大、格差促進
無償化による経済的メリットは世帯所得によって大きく異なります。
世帯所得が高く、高額の保育料を負担している世帯であれば、第2子保育料無償化による保育料節約効果は極めて大きいです。最高額たる毎月70600円を負担している世帯であれば、年間84万7200円も節約できます。非常に大きいです。
反対に生活保護世帯には無家計です。毎月3万円前後の保育料を負担している中間所得世帯であっても、節約額は年間約36万円に限られます(大きな金額ですが)。
つまり、保育料無償化策は、高所得世帯ほど金銭的なメリットが大きいものとなります。保育料を決定するルールである「応能負担(能力に応じた負担)」の真逆となります。
更に第1子保育料も無償化した場合、今度は保育需要の増大が見込まれます。家庭保育では行政からの支援がありません。が、保育料が無償かつ勤労収入が得られれば、より多くの方が後者を選択するでしょう。
大阪市で保育所等へ入所するには、勤務時間等を点数化した上で利用調整が行われます。一般的に勤務時間が長い正社員共働き世帯ほど入所しやすくなります。こうした世帯の所得は相対的に高めです。
保育所等を利用しやすい高所得世帯が大きな経済的メリットを甘受する反面、勤務時間が短くて利用しにくい低所得世帯が経済的メリットを受けにくい構図が浮かび上がります。
塾代助成事業の所得制限撤廃を含め、子育て世帯間の格差を促進するのは間違いありません。浮いた費用が次の出産ではなく、今いる子供の教育費に充当される可能性も高いです。塾や習い事業界にとっては特需です。
保育無償化は「少子化対策」ではなく「子育て支援」
最大の問題点は保育料の無償化が「少子化対策」ではなく、「子育て支援」に過ぎない点です。少子化の最大の要因は「未婚率の上昇」です。近い内に生涯未婚率が上昇し続けており、特に男性は近い将来に30%に到達する勢いです。
【2023年最新】日本の「未婚」「独身」を調査 日本全体の未婚者は32,790,076人、生涯未婚率は男性が28.25%、女性が17.85%
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000092878.html
保育料を無償化しても未婚率の上昇は止まりません。若年層の雇用を安定させ、経済的負担を軽減し、結婚や子育てに踏み切るハードルを低くするべきなのですが、政府にも地方自治体にもそうした動きはほぼ皆無です。
恐らくは「未婚対策は無駄、自力で結婚できた中高所得世帯へ出産奨励するのが効果的」だと判断しているのでしょう。未婚者と既婚者・子育て世帯間のみならず、子育て世帯間の格差をも促進する政策です。しかし、この点に関する議論が見事に避けられています。
実は私の身内にも独身者がいます。数年前までは親に対して「何とかしないの?」と促していたのですが、最近は「もう手遅れ」だとばかりに何も言わなくなりました。
未婚率を引き下げて少子化に歯止めを掛けたいのならば、20代でももっと婚姻しやすい環境を作るべきです。大学生や新社会人等に経済的余裕を持たせ、様々な人間との交流を促すのが必要です。保育無償化より遙か以前の段階の話です。